【特集】古くなったら避けられない 大規模修繕の基礎知識①

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建物の寿命を延ばすのに欠かせない大規模修繕。何から始めて、どんなことに注意すべきなのか。また、修繕を依頼する事業者はどのように選べばいいのか。修繕の箇所ごとにポイントをまとめるとともに、実際に大規模修繕を経験した家主の工夫点も紹介する。

Part1 まずは現状診断と長期計画

 建物を長く保有するのであれば避けられない大規模修繕。まずは専門家による定期的な建物診断を受けることから始め、長期的な視野で計画を立てることが重要だ。

オプテージ(大阪市)
マンション修繕なび
プロジェクトリーダー 廣田安將氏(40)

関西電力グループで電気通信事業を行うオプテージの社内スタートアップ「マンション修繕なび」でプロジェクトリーダーを務める

さくら事務所(東京都渋谷区)
マンション管理コンサルタント 土屋輝之氏(67)

不動産の売買および運用コンサルティング、マンション管理組合の運営コンサルティングなど、幅広く活動する

専門家により定期的な診断が第一歩

 マンション管理組合向けコンサルティングを行うさくら事務所(東京都渋谷区)でマンション管理コンサルタントを務める土屋輝之氏は、「専門家による定期的な診断で、建物の現状を把握することが先決です」と語る。建物全体について診みる(目視)・触る(触診)・たたく(打診)といった診断を、できれば1年に1回、少なくとも3年に1回程度は実施することを土屋氏は勧める。

 施工会社とマンションの管理組合やオーナーとのマッチングサービスを提供する「マンション修繕なび」プロジェクトリーダーの廣田安將氏も、建物診断を推奨。廣田氏は「無料で診断を請け負う事業者は、後に修繕工事を提案してくることが多いので、その点を織り込んでおいたほうがいいです」と語る。

二つの修繕方法と事業者選定で大切な3点

 「大規模修繕および建物の維持管理の方法は、大きく分けて定周期保全と状態監視保全の二つがあります」と話す土屋氏。

 定周期保全は、一定の年数が経過したら建物の劣化の程度にかかわらず定期的に修繕を行う方法。状態監視保全は、定期的に建物を診断(監視)し、問題が見つかってから修繕に取り組むものだ。家主の間では状態監視保全が選ばれることが多いが、監視の周期が長く、また問題発覚から着工まで時間がかかると失敗するケースも多い。建物や設備に関しての一定程度の知見が求められる。

 重要なのは、どちらの方法を取るか決めることだ。今まで行ってきた賃貸経営の方針や、自身の周辺にどういった専門家がいるかなどの状況を踏まえて決めたほうがいい。

 施工会社の選定では、廣田氏は「姿勢と信用と人物の三つの確認」をポイントに挙げる。1点目の姿勢は見積書に表れる。「見積書の中に仕様や数量がきちんと記載されているか、そこに事業者の覚悟が見て取れます。金額の間違いも珍しくないので、チェックを怠らないでください」(廣田氏)

 2点目の信用は、与信調査で確かめることができる。リサーチ会社から調べたい会社の与信情報を購入するといい。数万円の費用はかかるが、インターネットでも購入可能だ。また、施工を依頼しようと思う会社に、1~3期分の決算書類の提出を求めることも方法の一つ。特に決算書の中の自己資本比率(負債が多すぎないか)や総売上高営業利益率(本業でしっかり利益を出せているか)をチェックすることが重要だ。廣田氏は「依頼先の規模が小さくて心配であれば、大規模修繕の瑕か疵し保険への加入を要求する方法もあります」と語る。

 3点目の人物の確認は、「発注を決める前に必ず現場代理人に会うことです」と廣田氏は語る。現場代理人は工程管理、安全管理を含めて現場を取り締まる。安全面や細かなノウハウを含め、工事の出来の良しあしは、現場代理人の手腕によるところが大きい。工事中に住人からクレームが出た際も、現場代理人の人柄が良いと解決しやすい。廣田氏は「何かと理由をつけて、事前に現場代理人に会わせようとしない施工会社は避けたほうがいいです」と強調する。

便利ツール

賃貸住宅の修繕・点検 時期をセルフチェック

国土交通省

建物や設備の傷みについて、11のステップで簡単な問いかけがあり、それらに答えることで、建物の現状とどういった対応が必要かを診断してくれる

 

長期的な計画が成功のカギ

 大規模修繕の費用は、一概にいくらとは言えない。目安で例を挙げると、廣田氏が2023年に見積もりを仲介した単身者向けマンション(全30戸)は、新築から25年目の修繕で1戸あたり約65万円だった。一般的には、1回目より2回目の修繕のほうが費用は高くなる。分譲マンションの長期修繕計画で60年の計画づくりに携わったことがある土屋氏は、「2~3LDKの30戸のファミリー向け賃貸マンションで、竣工後60年間にかかる建物と設備の維持管理費用の総額は、1戸あたり1200万~1500万円ほどです。これらには各住戸のリフォーム費用などは含まれません」と語る。

 長期の積み立ても必要になる修繕工事に関連して、土屋氏は「単年度の視点で賃貸経営を考える家主が多いですが、それこそ分譲マンションのような長期修繕計画を立案してみてはどうでしょうか。物件の価値を長く維持するためにも、大規模修繕には長期的な視野が欠かせません」と語る。時代のニーズに合わせた建物や設備のアップグレードのための費用を長期修繕計画に織り込むことも推奨する。

 廣田氏も長い目で見た修繕計画の重要性を強調する。建設業の「2024年問題」や昨今の建築資材の高騰も相まって、今後、建設コストが下がる要素が見当たらないのだという。廣田氏は「家主が将来、大規模修繕を検討するのであれば、早いタイミングでしっかりと計画を練る必要があります」と語る。

便利サービス

修繕準備資金の経費(損金)計上が可能

全国賃貸住宅修繕共済協同組合(東京都千代田区)
家主の中には、修繕工事資金をためている人が多いだろう。一方で、ためた資金を経費化できず、思うようにためることができなかった人もいるのではないか。そうした中、2022年に賃貸住宅修繕共済が誕生した。修繕工事の準備資金を共済の掛け金として経費(損金)計上できるため、注目されている。

(2024年8月号掲載)

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