売却しにくい〝負動産〟の相談、年間5000件
不動産の所有者が複数人いる共有名義不動産や再建築不可の物件、底地、借地といえば、取り扱いが厄介な不動産だろう。こうした不動産は売却する際に買い手がつきにくく、「負動産」として所有し続けることで困っている人は少なくない。そんな不動産の買い取りや売却のサポートをするのがSA(東京都千代田区)だ。再建築不可物件を中心に年間5000件以上の相談に対応している同社の酒井康博社長に、なぜ同事業を主軸としているのか、事業展開について話を聞いた。
SA(東京都千代田区)
酒井康博社長(48)
権利関係が複雑な案件が主
「共有不動産の持ち分を解消するためには、当事者の感情に寄り添うことが重要です」
こう話すのはSAの酒井社長だ。親から相続した不動産がきょうだいの共有名義になっているケースは珍しくない。だが、共有不動産は全名義人の意思が一致しないと売却することができない。
例えば、1棟の戸建てに対してきょうだいで2分の1ずつ権利を持っているケース。2人で一緒に売却するほうが将来的にも良いことは2人とも理解しているが、2人の関係がこじれていると現実的には難しいという。そこで「2分の1でも買い取ってほしい」という問い合わせが同社に入る。このような案件の場合、同社では2分の1の持ち分を買い取り、その後、もう1人と交渉し、共同売却するという流れを取るという。他方、買い取らずに同社が仲介して交渉することもある。2分の1だけを買い取って先に売ったほうが、2人で一度に売却するより売却額が安くなってしまうからだ。
「顧客にとっては、当社が仲介で入ったほうがいいのですが、仲介から入ると『相手と話したくない』と言われることがあります。結果的に先に相談していただいた人から買い取ることが多いです」と、酒井社長は共有不動産の持ち分解消の難しさを説明する。
会社設立から7年目を迎える同社では、年間200件を超える共有不動産の持ち分や再建築不可物件、底地、借地の買い取りや売買仲介を行っている。顧客は、大手不動産仲介会社からの紹介が6割、同社サイトを見て問い合わせる人が3割、残りは士業からの紹介だ。ここ1〜2年で同社サイト経由からの問い合わせが増えているという。
▲共有不動産の持ち分の解消に関する相談が増えている
不動産鑑定士の経験が強み
問い合わせが増えている中、同社が推奨しているのは、いろいろな会社に相談することだという。
酒井社長は、もともと大手不動産鑑定事務所で不動産鑑定士としてさまざまな不動産の鑑定を行ってきた。当時、金融機関にも出向し、不動産投融資業務に従事した経験も持つ。こうした経歴を持つ酒井社長は、特に旧借地法における借地契約に着目。不動産鑑定事務所勤務時代から独立志向があった酒井社長は、不動産会社が嫌うこれら負動産を対象にした事業はブルー・オーシャンだと考えたのだという。
借地にビジネスチャンスがあると思ったものの、不動産実務についての経験が乏しかった酒井社長。
独立前に実物不動産の売買経験や情報収集、さらに不動産鑑定評価の理論を構築したりするため、分野の異なる2社の不動産会社に勤務した。不動産業務をとおして、現場での対応力や不動産業界の常識などを理解した。
契約書の作成し直し業務、借地人に代わって地主との建て替え承諾の金額交渉や、譲渡承諾料の査定などを担当していたという。借地契約の案件を取り扱っていくと、地主とのつながりが増えていき、地主側から底地や、再建築不可物件への対応についての相談が寄せられるようになった。借地権、底地、再建築不可物件は、ほかの不動産会社は手間がかかるためあまり対応したがらないことが大きな理由だった。
こうした経験により、権利関係が複雑な不動産の問題解決には、冒頭の言葉の「感情に寄り添う」ことが重要だと気付いた酒井社長は、2018年に独立。再建築不可物件の相談が6割ほど占めるという。再建築不可物件は、接道している隣地を購入できれば高く売ることが可能だ。隣地の所有者と交渉して、2カ所を共同売却で進める案件は少なくない。無論、再建築不可物件の隣地所有者が売却したいと考えていないケースもある。そのため、リノベーションして賃貸で貸し出せるようにするなど、相談を受ける不動産によってさまざまな提案をしている。
「『訳あり』不動産は、大きな利益が出るビジネスではありません。ただ、そこに特化することで、社会的意義が大きい仕事を展開していきたいと思っています」(酒井社長)
▲酒井社長をはじめ専門家が所属する一般社団法人みんなで顧問の12人が執筆
(2024年11月号掲載)
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