美術品・骨董品相続の注意点
地主の家には、代々受け継がれている美術品や骨董こっとう品があることが多い。そうした品が、実は価値が低い物だったというのも、よくある笑い話だ。だが、価値が高いがゆえに相続税で苦しむこともあるかもしれない。
本郷美術骨董館(東京都文京区)の染谷尚人代表は、「美術品は相続財産に含まれますが、その相続税評価額は『被相続人が死亡した日の時価』であることをご存じですか。美術品の評価は難しく、適正な評価ができないと大問題に発展しかねないので、注意が必要です」と話す。1990年に亡くなった日本画家・奥村土牛の遺族の悲劇は、その代表例だ。

▲現代日本画壇の巨匠・奥村土牛作「蛤」の扇絵
鑑定基準わからず 処分された遺品
奥村土牛は現代日本画壇の最高峰と評され、作品は数百万円で販売されていた。当時は死後6カ月以内に相続税を納税する必要があったため、遺族は遺品の整理に着手。高額な作品はすべて美術館に寄贈するなど相続税の回避を図った。
ところが当時の国税庁は、画商の団体である東京美術倶楽部(東京都港区)に委託して監査を行い、相続税評価額を決めていた。監査人の評価額の決め方は統一されておらず、スケッチ一枚一枚に対して高額査定をする監査人もいると聞いた遺族は、相続税を少しでも抑える意味もあり、膨大なスケッチのうち、完成度が低いと判断したものを処分してしまった。
絵の時価が200万円だとしたら、スケッチはせいぜい2〜3万円の価値しかないというのは、プロの美術商なら知っていて当たり前の話だ。しかし、遺族にはそういった知識がなく、貴重な文化財が失われたのだ。
「相続税の節税対策として最善なのは、市場に精通した専門家に時価評価の算出を依頼することです。この評価額は『精通者意見価格』と呼ばれ、購入価格や一般の買い取り査定額、『美術年鑑』などの資料を基に出されます。当社では、最新のオークション履歴および日本一の取扱品物数のビックデータを基に評価額を算定しています」(染谷代表)
奥村土牛の話は30年以上前のことで、現在は前述のような方法で鑑定はされておらず、税理士と専門家が協力していることも多いそうだ。とはいえ、美術品・骨董品のコレクションが思わぬ高額財産として評価され、相続税に悩まされる可能性もないことはない。手元に「これは」という品がある人は、一度プロに鑑定してもらうといいだろう。
本連載では、鑑定にまつわるエピソードやアドバイスなどを、専門家に聞いていく。
本郷美術骨董館(東京都文京区)
染谷尚人代表

50年の実績を持つ美術・骨董商の2代目。27人の鑑定士を抱え、官公庁・国税庁から依頼された鑑定・査定業務も行う。
■店舗情報
美術品・骨董品の取り扱い実績では日本最大級。国内で16支店、中国遼寧省で1支店を展開。
(2025年 3月号掲載)
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