【3号連続特集】THE 遺言書 〜遺言書を使いこなす〜 第2回

相続相続手続き

<<THE 遺言書 ~遺言書を使いこなす~>>

第2回 ゼロから学ぶ遺言書の作り方

遺言書の作成には注意すべき点がいくつかある。前号では、遺言書があることで相続がスムーズに進むという遺言書のメリットを紹介した。とはいえ、遺言書が有効と判断されるにはさまざまな条件をクリアしている必要がある。作成にあたっての事前の準備、実際の書き方、遺言書が無効にならないための注意点を紹介する。

この記事の目次 自分で書くかプロに頼むか
文書で作成、目録はPCで作っていい
自筆証書遺言で起きがちな失敗

 

自分で書くかプロに頼むか

遺言書の種類は主に2つ 作成件数は近年増加傾向

  遺言書には主に2つの種類がある。遺言者からの遺言内容を基に法律の専門家である公証人が作成する公正証書遺言と、遺言者自らが作成する自筆証書遺言だ。

 6月号でも紹介したように、近年、公正証書遺言の作成件数が増えている。日本公証人連合会が発表した「令和7年の遺言公正証書の作成件数について」によれば、2025年こそ前年より減ったが、20年から24年まで右肩上がりで推移してきた。最も多かった24年で12万8378件となっている。

 自筆証書遺言は、作成件数自体の公的な統計はない。ただ、20年7月から、自筆証書遺言の作成者が法務局に申請して、遺言書を保管してもらえるようになった。法務省民事局発表の「遺言書保管制度の利用状況」によれば、保管申請数は増加傾向にある。

公正証書遺言
[メリット]

有効性が担保される変造や偽造のリスクなし

 では公正証書遺言と自筆証書遺言の具体的な違いは何か。それぞれのメリット、デメリットと共に見ていく。

 公正証書遺言は、前述したように法律の専門家である公証人に作成してもらうものだ。

 そもそも遺言書には、民法に基づいて内容や形式に厳格なルールが定められており、それらの要件を満たさなければ無効になってしまう。

 その点、公証人が作成する公正証書遺言は、内容や形式に不備が発生することはまずない。遺言者にとっては有効性が担保されるので安心だ。

 遺言の作成は公証役場で行われ、遺言書の原本はそのまま公証役場で保管される。このため、変造や偽造されることがない。自筆証書遺言を作成して自宅で保管する場合は、紛失したり、悪意がある相続人によって隠されたりするといったリスクも考えられる。公正証書遺言の場合はそれらの心配も無用だ。

 また自筆証書遺言の場合に必要になる検認の手続きも公正証書遺言では不要となる。(詳しくは後述)

[デメリット]

作成に費用と時間がかかる 証人に内容を知られる

 公正証書遺言の作成には費用がかかる。財産の額によって異なるが、総額で20万~30万円程度といわれている。

 また作成にあたって、複数の必要書類を準備しなければならない。遺言者本人の印鑑登録証明書のほか、遺言者と相続人の続柄がわかる戸籍謄本、不動産の相続の場合は登記事項証明書(登記簿謄本)、預貯金の相続の場合は預貯金通帳またはそのコピーなどだ。

 これらを集めるのに時間を要するので、必然的に作成までには一定の期間が必要になる。1~2カ月程度を想定しておいたほうがいい。

 このほか、公正証書遺言の作成には2人の証人の立ち会いが必要になる。このため、遺言内容を証人に知られてしまうデメリットもある。

自筆証書遺言
[メリット]

手軽に作成することができる 他人に内容を知られない

 自筆証書遺言は、遺言者本人が全文を自筆(手書き)で作成するものなので、書こうと思い立った時に作成できる手軽さが最大のメリットだ。極端にいえば紙とペンを準備しさえすれば、作成自体に費用もかからない。

 また遺言者本人が生きている間は、一度作成した遺言書に納得がいかなければそれを破棄し、新たな遺言書を作成し直すこともできる。

 遺言者が自ら作るため、作成時に第三者に遺言内容を知られることもない。

[デメリット]

不備があれば無効になる 紛失や変造・偽造の恐れあり

 一方で、全文を自筆するがゆえのデメリットもある。内容や形式の不備で要件を満たしていない箇所が1つでもあれば、無効になるのだ。

 無事に作成したとしても、自宅で保管する場合は前述したように紛失することも考えられる。また保管場所がわかりにくければ、将来、相続が発生した際に相続人に見つけてもらえないこともある。

 加えて、変造や偽造の恐れもゼロではない。

[デメリット]

検認手続きが必要になる 相続開始までに時間を要する

 相続が発生し、遺族が自筆証書遺言を発見した後は、遺言書が封印されている場合は勝手に開封してはならず、家庭裁判所による検認の手続きを行う必要がある。これは、遺言書の変造、偽造を防止するために、家庭裁判所が遺言書の存在とその内容・状態を確認するものだ。

 検認の手続きは、まずは遺言書を発見した人が家庭裁判所に申し立てを行う。その後、家庭裁判所から相続人全員に検認する期日が通知される。そして検認期日に相続人らの立ち会いの下、遺言書の開封と検認が行われるという流れ。

 この間、少なくとも1カ月程度かかるため、その後の相続手続きに移るまでに時間を要するデメリットもある。

自筆証書遺言の方式緩和 以前より作りやすくなった

 公正証書遺言と自筆証書遺言のメリット・デメリットをそれぞれ見てきたが、以前は、専門家に任せることで有効性が担保される安心感から、どちらかといえば公正証書遺言がいいとされてきた。しかしながら、18年の民法改正によって、自筆証書遺言も従来に比べて作成しやすくなっている。

 理由の1つは、全文を手書きしなければならない規定が一部緩和されたからだ。それまでは本文から財産目録まですべてを手書きする必要があったが、19年からは財産目録に限ってパソコンでの作成が認められ、署名・押印したものを本文に添付すればいいことになった。

 併せて、財産が不動産の場合は登記事項証明書、預貯金の場合は通帳のコピーを署名・押印したうえで添付すればいい。ただし、財産目録が両面に記載されている場合は両面に署名・押印が必要となる。

 もう1つの理由は、自筆証書遺言の保管制度が創設されたことだ。前述のように20年7月から、法務局に預けることができるようになった。遺言書原本は遺言者死亡後50年間、また原本に加えて画像データとしても遺言者死亡後150年間保管される。これにより、紛失の心配がなく、変造や偽造も防ぐことが可能だ。

 また同制度を利用すれば、先に説明した家庭裁判所の検認手続きが不要になる。

 遺言書を検討する地主や家主は、公正証書遺言と自筆証書遺言の違いとメリット・デメリットを考慮しながら、どちらかを選択するといいだろう。

文書で作成、目録はPCで作っていい

事前の準備を経て法的効力のある内容を書く

 自筆証書遺言の作成を選択した場合、何から取りかかればいいのか。

 まずは遺言書に書くことができる内容を押さえておこう。というのも、遺言書は書きたいことを何でも書けばいいというものではないからだ。遺言書に法的効力を持たせる内容は主に、
▼財産の処分について
▼相続について
▼子どもの認知について
▼遺言執行者について
などに限られる。

 そのうえで、実際に書き出す前に次のことを行うといい。
①「誰」に「どの財産を」引き継がせるのかを整理
②遺産の把握
③誰が法定相続人なのかを確認
④遺言の執行者を決める

 遺言の目的は相続争いの防止や事業承継など、人によってさまざまだろう。①ではその目的に沿って明確に整理するとともに、相続させる人が複数いる場合は、配分が公平になるよう注意したい。②は財産だけでなく負債も含めて洗い出そう。③は、本来法定相続人である人が漏れていると、後にトラブルになりかねない。漏れなく確認しよう。④は、遺言が確実かつスムーズに実行されることを考慮して、誰を執行者にするかを決めるといい。

「誰に」「何を」を明確にし 目録内容・日付も正確に記す

 ここから実際の書き方の例を見ていく。以下に不動産を相続させる遺言書の典型的な文例を示した。

 自筆証書遺言は、全文を手書きし、日付と氏名を記して押印することが必須の要件となる。ただし、財産目録については手書きでなくてもいいので、今回は左に全文を手書きした例、右に財産目録をパソコンで作成した例を載せた。

 一般的に遺言書の典型的な構成は、タイトル、誰にどの財産を引き継がせるか、財産目録、遺言執行者の指定、付言事項、日付、住所、氏名(押印)などとなる。

 タイトルは「遺言書」と書くといい。

 誰にどの財産を引き継がせるかの文章は、主語は「私」や「遺言者+氏名」とするのが一般的だ。財産を引き継がせる相手については明確に特定できるように記そう。氏名と共に住所や生年月日も併記すると、より確実だ。また財産を「あげる」といった表現でなく「相続させる」と書くほうがいい。

 財産目録が不動産の場合は、登記簿謄本にある内容を正確に記載しよう。土地ならば所在、地番、地目、地積、建物は所在、家屋番号、種類、構造、床面積を書くといい。

 また相続させる人が遺言者より先に亡くなった場合に、その分を誰に相続させるのかを示す予備遺言を書いておくと、万が一の事態に備えることになる。

 日付は年月日を正確に記そう。年は和暦でも西暦でもいい。

付言事項を記すことで相続人に納得感を与える

 ここで注目すべきなのが付言事項だ。

 付言事項とは、いわば遺言者による家族に向けたメッセージ。法的効力はないものの、遺言者の直接的な思いを伝えるものとして有効だ。

 「○○、今までありがとう」といった感謝の言葉から「長女の○○は私と同居し介護を尽くしてくれたのでこれだけ相続させることにした」といった配分の理由、「家族みんなでこれからも仲良く円満に過ごしてほしい」という要望まで、内容はさまざま考えられる。

 これにより残された家族に納得感を与え、相続争いを防ぐことにもつながるだろう。ぜひ記しておこう。

自筆証書遺言で起きがちな失敗

不備が1カ所でもあれば遺言書自体が無効になる

 自筆証書遺言でよく見られる失敗例についても押さえておく。

■日付を吉日とすること。これは駄目。明確に記そう。
■財産目録中の土地や建物の所在を住所表記で記してしまうこと。

 土地の地番、建物の家屋番号は住所表記とは違う。登記簿謄本にあるものを記そう。
■誰にどの財産を引き継がせるかの文章で、主語と述語があいまい。

 遺言書は相続人だけが見るものではない。家庭裁判所や預金の解約・払い戻しに携わる金融機関、不動産の名義変更を行う法務局の登記担当者も見ることになる。当事者間だけでなく第三者が見てもわかるように正確に記載しよう。特に「誰に」の部分で「長男」や「長女」としてしまうのは駄目。また名前だけの表記も本人を特定できない場合がある。

 このほか、添付した財産目録に不備があってもいけない。パソコンで作成できるとはいえ、丁寧に作ろう。

 こういったことを含めて、1つでも要件を満たしていなければ、その遺言書は無効になる。十分に気を付けて作成し、正確な遺言書で残された家族に思いを託そう。

(2026年7月号掲載)

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悲劇を未然に防ぐ遺言書
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◆8月号(第3回)(予定)
遺言書作成の思わぬ落とし穴
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