不動産会社と不動産に詳しい士業などの専門家を擁する一般社団法人不動産ビジネス専門家協会(東京都千代田区)。所属する14人の士業に知っておくべき情報を聞く。
第3回 定期建物賃貸借における注意点
建物の普通建物賃貸借契約(以下、普通借)の借主は法律によって保護されています。知っている人も多いと思いますが、普通借の貸主が借主に立ち退いてもらおうとするとき、それには高額の立ち退き料を支払わなければならないことも多いです。立ち退き交渉のハードルは非常に高いといえます。
そこで、家主のできる対策としては、借地借家法第38条で認められている定期建物賃貸借契約(以下、定借)を活用することが考えられます。
定借は、契約期間が満了すると、更新されることなく確実に契約が終了し、立ち退き料を支払わずに借主に立ち退いてもらえるという契約です。そして、引き続き入居してもらう場合には、定借の期間が満了する際に、もう一度同じように定借の契約を締結する(再契約する)ことも可能です。
このように、定借は貸主にとって非常にメリットのある契約形式です。しかし、法律に定められたルールをきちんと守らないと、定借ではなく普通借に変わってしまったり、借主とトラブルになったりするなどのリスクがあります。
そこで今回は、定借における主な注意点を確認していきます。
要件を満たすことが必須 定借のルールを理解する
①契約書に必要事項を明記して契約すること(特に、再契約条項に注意する)
定借を有効なものにするには、契約書(書面または電磁的記録)を作成して、それに「契約期間」と「契約の更新がないこと」を明確に記載する必要があります。
また定借の契約書に「再契約ができる」という規定を入れることは可能ですが、その書き方には注意が必要です。必ず再契約ができるかのような書き方や、誤解を招くような説明をすると、普通借になってしまったり、後にトラブルに発展したりする原因になります。
②契約締結前に書面を交付して説明する必要がある
契約を締結する前に、賃貸借契約書とは別の書面に「契約の更新がなく、期間満了により契約が終了する」ということを記載し、その書面を借主に渡して説明する必要があります。借主の承諾を得て、電磁的方法によることも可能です。
注意すべきなのは、賃貸借契約書とは別の書面を作成、交付して、説明しなければならないという点です。この事前説明をしないと、契約は普通借になってしまいます。
③契約終了通知が必要(再契約する場合も必要)
期間が1年以上の定借の場合は、期間満了の1年から6カ月前までの間に、借主に対して「期間満了により賃貸借が終了する」という通知(終了通知)をしなければ、借主に対して契約が終了したことを主張できません。この終了通知は、内容証明郵便を使うか、もしくは、終了通知の控えに「終了通知を受領しました」という借主の署名・押印をもらっておくと安心です。
なお再契約を予定している場合でも終了通知は行うべきです。再契約の契約内容によっては、最終的に借主と合意に至らず、再契約が締結できないこともあり得るからです。
④再契約における注意点
定借が期間満了により終了する際、再度、定借の契約を結ぶことは可能です。これを再契約といいますが、再契約は、それまでの定借とは別の新たな契約になります。
したがって、再契約を締結する場合には、当初の定借を契約したときと同様に、改めて事前に借主に書面を交付して説明しなければなりません。
また従来の保証人に引き続き再契約の保証人になってもらうのであれば、再契約の際に契約書に署名・押印をしてもらう必要があります。
そして、従来の敷金・保証金を再契約に流用する場合には、再契約の契約書にそのことを記載しておきます。このとき、実際に現金を改めて授受する必要はありません。
借主の原状回復義務については、借主が退去する際には、再契約締結時の状態ではなく、当初の入居時の状態に戻してもらう必要がありますので、再契約の契約書にはそのことがわかるように明記しておきます。
賃料減額請求を受けないために
定借においては、契約書に特約を記載すれば、借主から賃料減額請求を受けないようにすることができます。
法律上、貸主には賃料増額請求権、借主には賃料減額請求権があり、普通借においては借主の賃料減額請求を禁止することはできません。
しかし、定借の場合は、契約書に明確に記載しておけば、借主による賃料減額請求を禁止することが可能です。これにより、貸主は、その定借の契約期間が終了するまでの間、最初に決めた賃料を受け取ることができます。
以上のとおり、定借は貸主にとって大きなメリットのある契約方式です。一方で、守るべきルールや、普通借とは異なる点がありますので、十分注意して活用してもらいたいと思います。

【今回の解説】
関口総合法律事務所(東京都千代田区)
弁護士 尾原 央典氏

2002年、弁護士登録。一般企業法務(会社顧問業務)、紛争解決、不動産、相続などを主に取り扱う。不動産案件(売買・賃貸借契約、トラブル解決など)について日常的に多くの相談を受けており、事業用物件・居住用物件に関わる複雑で難しい紛争案件を多く手がけている。
(2025年 2月号掲載)
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