<<マンスリーで賃貸経営>>
学生の短期利用需要をつかみ経営改善
熱海ではリゾートマンスリーも展開
マンスリー賃貸は、運営の煩雑さや空室リスクから、専門ノウハウを持つ大手事業者が手がけることの多い業態だ。その中で、現在神奈川県相模原市で学生向けマンスリー、静岡県熱海市でリゾートマンスリーを自身が代表の法人で展開し、いずれも平均9割程の稼働率を維持している小林尚美オーナーは、一般賃貸で空室に苦しんだ経験から、近隣大学の短期滞在ニーズを見いだし、マンスリー業態への転換で見事に運営を軌道に乗せた。相模原での経験を足がかりに熱海市へと事業を広げ、リゾート地ならではのマンスリー需要の掘り起こしにも成功している。
アロハトレンド代表
小林尚美オーナー(東京都世田谷区)

1年で稼働率が半分以下に
小林オーナーが不動産投資を始めたのは、外資系IT企業に勤務していた時代。株式投資やストックオプションを通じて得た資金などを元手にして、まずは東京都の約5000万円のマンション1戸を実需も兼ねた将来の投資目的で購入したのがきっかけだ。そして2010年には、東京都の中古アパートを土地相場の半額の約2200万円で現金購入した。東京都のアパートはファミリータイプ1戸とワンルーム2戸からなる3戸の小ぶりな木造アパートで、土地は約30坪。5年間運用しつつ入居者の退去を待って更地化し、15年秋、マイホーム建築希望者に購入価格の約2倍の金額で売却することに成功した。
この利益を元手に、16年に取得したのが相模原市にある1K10戸の中古アパートだ。物件取得にあたっては、借り入れをすることも可能だったが、リスクを最小限にするため、やはり現金購入にこだわった。
東京都のアパートは5年間賃料収入を得ていたが、いずれ土地としての売却を考えていたため、この相模原の物件が小林オーナーにとって、初めて本格的に賃料収入を意識して取得した物件だった。無事に契約・決済を終え、あとは家賃が入ってくるのを待つのみ。しかし現実は甘くはなかった。
- ▲最初に購入した10戸のアパート。初めてマンスリー賃貸として運用した
- ▲短期利用の単身の学生が多く利用している
大学に近い物件のため、学生の需要を期待していたが、3月の繁忙期以外に空室を埋めることは難しく、稼働率は最初の1年で50%にまで低下してしまったのだ。頼みの綱のはずの管理会社も「繁忙期ではないので…」という回答ばかりだった。そんな中、その管理会社や仲介会社との会話から意外な事実に気が付いたという。
「実際の入居希望者には、短期で借りたいという人がいることがわかったんです。『敷金・礼金を多めに取って短期の人を入れてもいいですか』という相談もよくありました。実は物件近くの北里大学は、学生さんの病院実習や研修、さらにキャンパス移動が多いことが特徴で、『短期で滞在して移動』を繰り返す学生さんも一定いる大学でした。数カ月単位の滞在が多いため、1年未満の短期賃貸を希望する学生さんが一定数いたのです」(小林オーナー)
一般賃貸では2年契約が前提のため、短期での入居希望者の要望には応えられない。学生たちの短期滞在ニーズに応えようと「マンスリー賃貸としての運営を行ってはどうか」と閃いた。
しかし、家賃や光熱費などがパッケージになったマンスリー賃貸は、一般的に不動産仲介業者では取り扱われない場合が多い形態だ。そのため当時管理会社に頼ることができなかった。
だが「やらなければ今の状況が改善しない。絶対にすべきだ」と確信した小林オーナーは、自主管理でマンスリー賃貸を実施することを決意した。アパート購入の翌17年、自身の法人を設立し、空室となった部屋から順次マンスリーに転換していく形でスタートを切った。
「短期需要を取り込むために必要なのは、トータルの費用の安さです。マンスリーの賃貸は基本的に契約時に一括払いのため、保証会社は使わず、近隣大学の学生という証明さえあれば、保護者を連帯保証人とすることで入居可能としました。費用の安さとリスク管理のバランスを図りました」(小林オーナー)
追加費用が発生する場合もあるが、実際にこれまで未払いなどのトラブルは発生していないという。むしろ、入居する学生が次に研修にくる友人を紹介してくれるなど、学生同士の口コミで次の入居者が決まるサイクルが生まれている。病院実習は、3カ月ごとなどシフトのように入れ替わるため、学生から次にくる同級生を紹介してもらい、連鎖的に入居が決まっていくのだという。その結果、小林オーナーのマンスリー賃貸物件は徐々に人気物件へと生まれ変わっていった。
ITスキルでコストを削減
もう1つ小林オーナーの経営を支えているのが、前職で培ったITスキルを生かしたコスト削減策だ。入居者募集にはポータルサイトへの広告出稿を使わず、自作したホームページとSEO対策も自ら行うことで、費用をかけることなく行っている。大手ポータルサイトに掲載すれば1物件あたり月数万円台のランニングコストが発生するため、複数戸を抱えるオーナーにとっては大きな負担になる。一般賃貸の場合は、一度入居すれば次回募集時まで掲載しなくてもよいが、マンスリー運用の場合は入居中にもその先の予約が入ってくる。そのため、年間を通して掲載し続ける必要があり、掲載のランニングコストは看過できない問題だ。
小林オーナーの場合は、物件購入前から15年ほど趣味で更新し続けてきた個人ブログがあり、そこからの情報発信がオーナーとしての信頼構築にもつながっている。その結果、個人客や法人客からの直接の問い合わせに結びついているという。
原状回復工事においても工夫をしている。また短期入居の特性を生かし、一般賃貸よりも頻繁に発生する空室タイミングに合わせてこまめな修繕を実施することで、結果的に大きな修繕を回避しているという。さらに、マンスリー賃貸といえども学生向けの物件は3月ごろには複数の空室が発生してしまう。小林オーナーはこのタイミングもうまく利用し、複数住戸の工事をまとめて同じ事業者に発注することで信頼関係を高めるなど、ピンチをチャンスに変える発想で安定した経営を実現している。
また、学生にとって利用しやすい物件であってほしいという思いから、家電一式と簡単な家具も設置。契約には電子契約ツールを活用する。
マンスリー物件第1号の運営から約5年後の21年末、同エリアに1K4戸のアパートを追加取得した。築30年超で前オーナーが取り壊しを検討していた物件だったが、室内の状態を確認して十分使えると判断。現金一括で素早く購入を決めた。翌22年2月から、こちらもマンスリー賃貸として運営を開始している。稼働率は2棟合計14戸で概ね9割を達成しているという。
- ▲必要となる家具や家電などが最初から設置されている
- ▲追加で購入した4戸のアパート。このころにはマンスリー賃貸での運用にも慣れてきたという
リゾートマンスリーを開始
相模原での成功を足がかりに、小林オーナーは熱海市でも事業を展開している。17年に立ち上げた法人の名は「アロハトレンド」。この社名には元々リゾート事業への思いが込められていたが、新型コロナウイルス禍で計画は一時棚上げに。改めて動き出したのは22年夏のことで、リゾート×マンスリーの事業が始まった。
最初に取得したのは、熱海駅から徒歩圏の高台に立つリゾートマンションの一室だ。文豪も滞在したという歴史あるヴィンテージマンションで、室内に温泉が引き込まれた物件である。同マンションでは、相続が円滑に進まず管理費が滞納されている所有者不在の部屋が複数発生していた。マンション側はこれを管理組合主導で積極的に解決・再生していく取り組みを進めており、リフォーム済みの1室を小林オーナーが取得することができた。

▲リゾートマンスリーの舞台は、都心からも行きやすい立地の熱海だ
取得直後は長期賃貸として貸し出していたが、約1年で退去となり、23年秋からマンスリー運営をスタート。ちょうどアートイベント「熱海芸術祭」の開催タイミングと重なったことから、参加アーティストの宿舎として最初の入居者を迎えることになった。その後はバケーションやテレワークの夫婦やファミリー、または長期出張者の滞在先としての法人契約と、入居者の幅が広がっていった。賃料は光熱費込みで1カ月あたり約10万円から、ハイシーズンでも追加料金3万円程度というリーズナブルな設定。温泉付きリゾート滞在を気軽に楽しめるコンセプトが受け、現在も高い稼働率をキープしているという。
25年5月には、同じく熱海市内に2棟目となる木造3階建て物件「熱海梅園ヴィラ」を取得した。元は近隣にあった旅館の別館だったという。1階がガレージ、2・3階に2戸ずつ、計4戸が入っており、玄関を共有しながら各戸に鍵付きドアがある別荘のような造りだ。1戸を自社事務所として使い、残り3戸をマンスリー賃貸として運営している。
- ▲築60年超のヴィンテージマンションだ ▶区分で購入したマンションをマンスリー賃貸として運用している
取得にあたっては旅館業として運営する選択肢も検討したという。しかし、5月に取得したばかりのタイミングで「夏から借りたい」というファミリーからの問い合わせが先に入ってしまい、慣れているマンスリー運営でスタートを切ることに。給湯器や空調をすべて新品に入れ替え、屋根の塗装を施すなど、準備期間は短かったが着実に改修を実施し運営にこぎつけた。
稼働開始以降、同物件は法人のマンスリー契約が続いているという。熱海エリアは長期出張の社員向けの社宅として、大手企業からの需要が安定的にあったのだ。1部屋あたりの基本料金が月15万〜18万円(ローシーズン〜ハイシーズン)で貸し出しており、問い合わせはすべて自社ホームページからの直接契約となっている。
「熱海はリゾート客向けの宿泊施設は豊富にありますが、何カ月間か仕事で滞在する人向けの選択肢は意外と少ないのです。マンスリーマンションの対抗馬はビジネスホテルですが、近年は宿泊単価が大きく上がっていて、1カ月の滞在で40万〜60万円かかることも珍しくありません。広めの部屋で洗濯機やキッチンがそろったマンスリーは、長期滞在者にとって理にかなった選択肢になっていると思います」(小林オーナー)
マンスリー物件の少なさは制度的な理由もある。マンスリーは1カ月からの短期賃貸。一般のマンションは管理規約上、通常賃貸は可能ではあるが、入退去の頻繁な利用が敬遠されることが多い。そこで小林オーナーは、自分で一棟丸ごと所有するヴィラタイプの物件に着目した。「地域と共存し、自分で責任をもって物件をコントロールすることが大事」と語る。
集客面ではSEOとMEO(地図検索エンジン最適化)の両面に自ら取り組んでいる。例えばグーグルで「熱海 マンスリーマンション」と検索すると、アロハトレンドが所有する物件のホームページは大手ポータルサイトと並んで上位に表示される。15年以上続けている個人ブログの蓄積もキーワード対策の一助となっている。相互リンク先を増やすなど試行錯誤しながら「ジモティー」や大学の学生向け部屋探しサイトといった無料で使える媒体にも露出を広げて、自社ホームページへの動線をつくっている。
事業のさらなる展開も考えている。今年の4月、熱海での3物件目として、熱海市の東側に位置する湯河原の温泉街に立つマンションの1室を取得した。マンスリー貸し出しに加えて、要望があれば投資家向けの内覧会などでの活用も視野に入れる。
「マンスリー賃貸は興味を持ってくださる大家さんが多く、よく相談ももらいます。しかし、稼働中の物件が多く、入居中の部屋のため内見ができないことも多いです。そのため、稼働率に拘らないモデルルームのような拠点があれば情報共有などもしやすいと思いました」(小林オーナー)
小林オーナーは「現金で買って、安心感を持って次の物件に進んでいく。借入を膨らませて事業規模を拡大するというよりも、リスクを最小限に抑え、人がやっていない分野で着実に実績を積み上げていきたいです」という。賃貸でもない、民泊でもない。その間にあるマンスリーという領域で、独自のポジションを着々と築き上げている。
- ▲旅館のようにきれいに仕上げられた「熱海梅園ヴィラ」
- ▲屋根の塗装をするなどして、外観も維持管理し運営している
(2026年7月号掲載)






