民泊で地域活性化 キャッシュで挑む8棟の古民家再生

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「足を踏み外して始めた」地方民泊
キャッシュで挑む8棟の古民家再生

 融資を使いレバレッジをかけ、都市部のアパートやマンションを買う─。鈴木学オーナーも、かつてはそんな投資家の一人だった。ところが2017年、石川県金沢市にある1軒の町屋との出会いが、その後の歩みを大きく変えた。「完全に足を踏み外した感じですね」と本人がそう笑う先にあったのは、融資にほとんど頼らず、現金取得を中心に地方の古民家を再生していく民泊の世界だった。以来、手がけた宿は8棟を数え、再生した物件には外国人投資家の視線も注がれ始めている。

鈴木学オーナー(東京都江東区)

友人たちからも資金を借りて始めた地方民泊

 鈴木オーナーが地方民泊にのめり込んだきっかけは、11年にフルローンで買った福岡市の1棟アパートにあった。これを17年に売却した際、物件価格が値上がりしていたため、手元に思いがけず1700万円ほどのキャッシュが残ったという。

 ちょうどそのタイミングで舞い込んだのが、金沢市の茶屋街にある町家を買わないかという話だった。文化的・芸術的な価値がありながら、売り出しから1年ほど買い手がつかずにいた物件だった。

 「たまたまタイミングよく現金があったので、買っちゃいました」(鈴木オーナー)

 価格は1200万円。だが、実際はここからが地方民泊の「洗礼」だった。リフォームや消防設備などの改修工事やその他の費用で約2000万円が追加で出ていき、合計費用は3200万円に上った。加えて、用途が民泊であることから銀行の審査も厳しく、融資はつかなかったのだ。

 「銀行を11〜12カ所回りましたが、どう頑張っても無理でした」(鈴木オーナー)

 当時の貯金をかき集めても2500万円ほどしか用意できず、最終的に頼ったのが私募債だった。一口50万円を14人の友人から集め、700万円を調達。これを元手に準備を進め、19年2月、ようやくオープンにこぎつけた。購入からすでに1年2カ月が経過していた。

最初に買った石川県金沢市の住宅

 民泊として開業後、当初の稼働率は年間で30%ほど。実質利回りは9%に達し好調だった。ところが、その直後に新型コロナウイルス禍が襲い、稼働はゼロに落ち込んでしまった。それでも持ちこたえられたのは、融資を使っていなかったからだ。

 「友人たちから借りたお金は別として、金融機関への返済がなかったので、保有し続けられました。その点が現金で買う利点かもしれません」(鈴木オーナー)

 コロナ禍が明けた後は再び順調な稼働率に戻った。結果としてこの物件は24年、金沢市出身・東京都在住の不動産会社社長に、3400万円で売却することができたという。

尾道市で2棟目の民泊 広島市では転貸を活用

 鈴木オーナーにとって金沢の民泊で味わったのは、苦労以上の手応えだったという。

 「地方民泊は、めちゃくちゃ面白い。自分が街をつくる、街並みをつくるという関わりができます」(鈴木オーナー)

 人口が減り、経済の活性化を求める地域に、自らプレーヤーとして資金を投じる。そこで生まれる人間関係も含めて、民泊の魅力が鈴木オーナーを引きつけた。

 2棟目は、広島県尾道市。土地と建物を320万円で取得し、改修に約900万円をかけた。工事を行ったのは20年5〜8月、コロナ禍の緊急事態宣言で世の中の動きが止まっていた時期だ。

 「その当時は、民泊の改修工事なんてやっているのは、私くらいしかいなかった」(鈴木オーナー)

実質利回りが19%近い広島県尾道市の民泊

 仕事が減った工事事業者が割安で請けてくれたこともあり、コストを抑えることもできた。結果として、尾道の物件は実質利回り19%近くという高水準を達成した。

 「1220万円で立ち上げて、25年は220万円ほど収益が上がっています」(鈴木オーナー)

 3棟目は、少し毛色が違っている。広島市内にある、駅から徒歩6分のマンション最上階の一室を借り上げ、転貸する形で民泊運営を開始した。借り上げ賃料は月6万8000円。これに対し、宿泊収入はコンスタントに月15万〜16万円ほど入ってくる。この物件は、取得時に支払ったのがセットアップ費用など150万円のみだったため、投下資産に対しての年間収益は約70%と、非常に効率がいい投資になったという。また、自身の広島出張の際には宿として使うなど、一石二鳥の使い方もしている。

転貸で民泊に取り組んだ広島市のマンション

仲間と共に街をつくった千葉県香取市

 民泊運営の経験を重ねるごとに、鈴木オーナーは「まだ盛り上がっていない、無名の観光地」を選ぶようになっていった。その象徴が、23年に取得した千葉県香取市の物件だった。土地390坪、建坪44坪の農村の古民家を、土地と建物合わせて500万円で購入した。

 「おそらく最もいいタイミングで買えたと思います。そこから一気に値上がりし、今では同じ規模の土地と建物であれば1200万円は超えてきますから」(鈴木オーナー)

 そう振り返るほどの好条件だった。改修にはデザインにこだわって約2000万円をかけ、このうち1460万円は千葉銀行からの融資で賄った。ちょうどこの頃、同銀行が民泊にも活用できるローンの取り扱いを始めていた。鈴木オーナーが取得した8件のうち、融資を受けたのは香取市の物件だけだという。民泊として稼働し始めると、実質利回りは8〜9%ほどになった。

初めて融資を受けて取り組んだ千葉県香取市の民泊

 香取市の物件で特筆すべきは、鈴木オーナー一人で完結していない点だ。地元の運営事業者と組み、自らがオーナー第1号となって古民家を改修したのち、友人たちを巻き込んで同市内の古家を買い進めたのだ。

 「結局7~9人くらいの友人が私と同じように香取市で古家を買って再生しました。最近は企業で参入してくるケースも増えてきましたけど、当時はほぼわれわれのグループで街を再生していました」(鈴木オーナー)

 一人の投資家が民泊という手段を使って町おこしの起点になる。そんな構図がここで生まれた。

資産価値が段階的に上がる

 香取市での投資は、もう一つの大きなテーマへとつながっていった。外国人需要の取り込みだ。

 23年ごろから、日本を訪れるインバウンド(訪日外国人)が本格的に回復し、その後爆発的に増えていった。彼らは宿泊客であると同時に、再生された宿そのものの買い手にもなり始めているという。鈴木オーナーも、インバウンドの伸びを背景に、香取市の物件を外国人向けに売却することを視野に入れている。

内装も一新した香取市の物件。外国人観光客ももちろんターゲットだ

 鈴木オーナーが指摘するのが、民泊投資をすることで資産価値が段階的に上がっていく構造だ。田舎の場合、月5万〜6万円で賃貸に出す戸建ては、良くても300〜400万円ほどの価値しか出せない。しかしそれを民泊に転用すれば、キャッシュフローが変わり、資産価値が一段上がる。

 さらにその売却先が、利回りで見る投資家ではなく、「この日本の家が素敵だ」と考える外国人になると、目線そのものが変わり、価値がもう一段引き上げられるという。加えて、円安も追い風になる。日本円で数千万円する物件も、ドル換算すると割安に映るのだ。

 こうした外国人投資家の需要が存在することは、鈴木オーナーが運営する国内外の不動産を扱う会社が手がけてきた取引が裏付ける。最近の事例では、神奈川県横須賀市で、アメリカ人が立て続けに2軒を購入した。北海道小樽市や横浜市の上星川エリアでも商談が進んでいるという。セカンドハウスとして、あるいは家族での居住用として、日本の住まいを求めている外国人は確実に増えているのだ。

増え続けるポートフォリオ 前橋市や京都市へ

 香取市での取り組み以降も、鈴木オーナーの地方民泊向け物件の取得は止まらない。24年には群馬県前橋市にある戸建て2棟を取得。これらはゲストハウス用に改修を施し、専門の運営会社に借り上げてもらったという。改修費用も含めた取得費用はそれぞれ840万円と550万円になった。合算の借り上げ賃料は月12万4000円で、利回りは10〜11%に上る。なお、このうち550万円で仕上げた1棟は、取得から約1年後、650万円で売却できたという。

 25年に取得した京都市・東福寺の町屋は、その取得経緯がユニークだ。当時鈴木オーナーが所有していたバリ島の民泊物件と、別のオーナーが持つこの町家を交換したのだ。価格にして1500万円相当の物件だが、互いに現金は動いていないという。この京都市の町家は元々マンスリー賃貸として使われており、状態が良かったため、改修は消防設備の追加やベッドの増設など150万円ほどで済み、現在は民泊許可を取得して運営中だ。

交換で取得した京都市の町家

 そして直近、26年1月に取得したのが、兵庫県豊岡市の出石(いずし)エリアの物件。有名な城崎温泉と同じ豊岡市内にありながら、宿泊施設が1つもない城下町だ。

 「もう本当にチャレンジャーの気持ちです。まったくマーケットがない場所なので、完全に需要をつくりに行っています。それでも、今は4人ほど仲間がいます」(鈴木オーナー)

 土地と建物は150万円で取得し、改修費は約1300万円を要した。前例がない場所のため銀行融資は厳しかったが、ここでは「初期導入費用ゼロ」のスキームで知られるブロードエンタープライズの「BRO─ZERO」を利用して補ったという。秋口のオープンを目指し、今まさに工事が進んでいる。

街と関わり人とつながる 圧倒的なやりがいのある民泊

 対自己資本比率の利回りだけを見れば、高いレバレッジをかけられるアパート・マンションに、現金主体の地方民泊はかなわない。それを承知のうえで、鈴木オーナーは民泊を選び続ける。

 「面白いからね。圧倒的に楽しいので。いろいろな地方に関われますし、やりがいがある」(鈴木オーナー)

 街と関わり、人とつながり、無名の土地に新たな価値を立ち上げていく。その手応えこそが、投資家としての鈴木オーナーを動かす原動力だ。

(2026年 9月号掲載)

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