【電子版連載】次世代不動産経営オーナー井戸端セミナー:第3回(4)

賃貸経営リフォーム・リノベーション

「公共物件・ランドマーク物件のリノベーション」から「まちを動かすリノベーションの社会的意義と効果」を考える

【電子版連載】次世代不動産経営オーナー井戸端セミナー:第3回(3)に続き、川畠康文氏 (鹿児島県鹿屋市)の講演をレポートする。

川畠康文氏 (鹿児島県鹿屋市)

[プロフィール] 「幸福度の高い暮らし」をつくり、未来の子どもたちへつないでいくことを目指す。住環境をトータルに手がけながら「心地よい暮らし」をデザイン。そして、地域づくり、廃校活用による宿泊施設の運営も行う。

 

地域と共に育つ施設

 廃校活用プロジェクトで誕生した体験型宿泊施設のユクサおおすみ海の学校は、開業前から地域との交流も大切にしてきました。住民説明会を3回ほど開催し、地域の運動会にも参加。菅原地区は小学校が廃校になったにもかかわらず、非常に元気な地域で、運動会や親睦を図るためのバーベキューなども行っています。町内会長さんもかなり協力的で、今でも良好な関係を築けています。

▲地域住民とも良好な関係を築いている

 18年7月にオープンしたユクサおおすみ海の学校ですが、当初は町内会長さんが「学校がなくなるということは、地域に子どもたちがいなくなることを意味し、非常に悲しい出来事だったが、再び子どもたちの声が地域に戻ってきてうれしい」と話していました。多くの人が、介護老人保健施設や障がい者施設、保育所などに利用したいと考えていたようですが、私たちはあえて観光拠点施設として再活用することを選びました。それが、地域にとって良い選択だったのではないかと思っています。
 私たちの大きな目標は、鹿屋市や大隅半島の魅力を多くの人に知ってもらうことです。訪れた人がここに滞在して大隅の自然や文化を体験できるうえ、地域の魅力も発信する拠点として機能しています。また、訪れる人々に「鹿屋はいいところだね」と思ってもらい、地域の人々にも元気を与えられる場所にしたいと考えています。最近では、鹿児島を初めて訪れる人々がユクサおおすみ海の学校を目指して来てくれることも多く、地元に人を呼び込むきっかけになっていると思います。
 おかげさまで、さまざまな賞をいただいていますが、「グッドデザイン賞」の審査では「全国には多くの廃校利用の事例があるが、この施設は人の顔が見える点、そして関わる人たちの人生が豊かに変わることがよく想像できる」との評価をいただきました。

▲「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2019」地域資源リノベーション賞を受賞

 現在も地域との関わりを非常に大切にしつつ、鹿屋市とともにまちづくりの一環として活動を続けています。特に、菅原道真を祀った菅原神社(荒平天神)が近くにあり、菅原小学校もその名に由来しているため、学びを軸にしたまちづくりを目指しています。
 また、この地域には耕作放棄地が多く、鳥獣被害も頻繁に発生していました。そこで、体験農場を造り、修学旅行に来た子どもたちに農業体験をしてもらったり、そこで収穫した野菜を軽トラ市や地域の販売所で販売したりしています。ユクサの販売所では、これらの野菜や商品が並びますが、置くとすぐに売れてしまうほど人気です。特にキャンプに訪れる人々に好評です。

▲学生たちがジャガイモの植え付けを体験

 これだけではありません。地域おこし協力隊のメンバーも加わり、まちづくりに関する活動や情報発信も行っています。例えば、神戸から来た学生たちが参加した「SDGsキャンプ」では、体験農場でのジャガイモの植え付けや、私の講演を通じて廃校活用について学んでもらいました。

▲SDGsキャンプの様子

「選ばれる地域」になるために

 最近、サーキュラーエコノミー(循環型経済)やSDGs(持続可能な開発目標)が叫ばれていますが、私は「いいからやる」というよりも、本当にやらなければならない時代が来ていると感じています。その中で、世界に誇る地域の価値を高めることが重要だと思います。そして何よりも大切なのは、この地域に関わる人々の幸福を追求することです。

■サーキュラーエコノミー

 人口が減ることは避けられない状況の中、これからは経済、幸福度、そして環境のバランスをしっかりと取ることが求められます。もはやGDP(国内総生産)を重視する時代ではなく、環境的な限界を認識しながら、社会的な持続可能性を追求する「ドーナツ経済」という概念が重要になってくるでしょう。

■ドーナツ経済

 サーキュラーエコノミーの取り組みが進むEU(欧州連合)各国では、すべての行動やビジネス、経済の考え方において、最初から持続可能な循環を前提にしています。また、EU加盟国であるオランダでは、アートが非常に重視されています。美術館は子どもに対してほとんど無料で開放されており、まち中にアートがあふれています。さらに、一定規模以上の公共工事には、アートの予算を組み込むことが法律で義務付けられており、公共施設や工事現場には必ずアートが取り入れられています。これらの取り組みは、この地域にも通じるところがあると感じています。

𠮷原オーナーによるまとめ

 不動産再生によるエリア活性化の分野では、公共物件やランドマーク物件のリノベが注目されています。特に、地域全体に先駆けたプロジェクトが増加しており、概念的にも物理的な改修を超えて地域の価値を高める取り組みが全国各地で実施されています。
 ここ九州でも、私たちの身近な仲間たちがその役割を果たしています。今回は、その中でも、建築士という職能(川畠氏は宅建士も含む)をベースにした2人から、「地方都市において誰もが知るような休眠物件でどんなチャレンジをしてきたのか」「社会的にも注目され責任ある不動産再生プロジェクトからどのような新たな考え方を獲得したのか」について、建築士だからこそ言語化が可能と思われる、大変興味深い発想と行動を聞くことができました。
 村田氏、川畠氏はその後、まちの人たちから行政までをも動かす立場となり、公共物件・ランドマーク物件を手がけたことによる、社会の変革者としての位置付けを確立したように思います。再生物件の質と規模の違いが、ポジションの違いを生むことが理解できる講演になりました。貴重なお話をどうもありがとうございました。

(2024年11月公開)
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