【特集】相続トラブルを防ぐ 遺言書の基本②

法律・トラブル相続関連制度

PART 2  自筆? 公正証書? 遺言の基本を知る

実務で使われる遺言書には、公正証書遺言と自筆証書遺言の2種類がある。まず遺言の種類による違いについて押さえておこう。

公正証書遺言

メリット:無効リスクが低い公正証書

 公正証書遺言は、公証役場で公証人に作成してもらう遺言だ。遺言者が作成した原案を公証役場に持参し、公証人が遺言書を作る。原案の内容は、相続人や遺したい資産、相続させる割合などだ。専門家が作成するため、不備によって無効になる可能性が低くなる。

 公正証書遺言を作成するときは、公証人が遺言者の判断能力を確認してから手続きを進める。そのため「遺言者は作成時に認知症による判断能力が低下していることから、遺言は無効である」といった有効性を争うリスクが少なくなる。

 公正証書遺言は自筆証書遺言と異なり、家庭裁判所の検認が必要ないのですぐに相続手続きを進められることもメリットの一つだ。

 また公正証書遺言は遺言者に代わって、公証人が作る。遺言者が病気やケガなどで自筆が難しい場合でも、遺言書を作成できる。病気で外出することができないときでも、公証人が自宅や病院に出張して作成を行う。

デメリット:作成に費用と時間がかかる

 公正証書遺言を作成するには、財産額によって異なるが総額20~30万円程度の費用がかかる。作成までに時間がかかることもデメリットの一つだ。田中弁護士によれば、公証役場にもよるが、作成までに1~2カ月程度の期間を見ておいたほうがいい。

■遺言書の種類とメリット・デメリット一覧

 公証役場において、公証人が遺言者に代わって公正証書として作成する遺言公正証書。手間や費用がかかるものの、確実に作成し安全に保管することができるうえ、遺言書の開封時に家庭裁判所の検認が不要となる。
 日本公証人連合会(東京都千代田区)では毎年、遺言公正証書の作成件数を発表している。これによると、2023年は11万8981件で、22年の11万1977件から6.3%の増加。直近10年間では、最も多かった19年の11万3137件を抜き、最多となった。

 

公正証書遺言を作成するステップ

基本的な手順を確認しておきたい。

STEP.1
公証役場に相談予約をする。全国にある公証役場の所在地は日本公証人連合会のウェブサイトで調べられる。

STEP.2
以下の必要書類を準備する。
・遺言者本人の3カ月以内に発行された印鑑登録証明書
・遺言者との続柄がわかる戸籍謄本や除籍謄本
・不動産の相続の場合には、その登記事項証明書(登記簿謄本)と、固定資産評価証明書または固定資産税・都市計画税納税通知書中の課税明細書
・預貯金などの相続の場合には、その預貯金通帳またはその通帳のコピー、相続人がわかる戸籍謄本、実印、印鑑登録証明書、財産に関する書類

STEP.3
STEP.2の必要書類や遺言内容を相談する。

STEP.4
面談を踏まえて、公証人から案文が送られてくる。修正内容について公証人と検討し、遺言書作成の日時を決定する。

STEP.5
証人は2人必要なので候補者を選んでおく。証人が見つからない場合は公証役場で手配してもらえる。

STEP.6
調整した日に公証役場を訪れ、証人2人と共に遺言の内容を確認する。内容に間違いがなければ遺言書の原本に署名・押印する。作成した遺言書は原本が公証役場に保管され、遺言者には正本と謄本が渡される。

自筆証書遺言

メリット:自分で手軽に作成できる 費用がかからないこと

 自筆証書遺言は、自分で作成する遺言で、書こうと思い立った瞬間に作成できる手軽さが最大のメリットだ。紙とペンさえ用意すれば、費用はほとんどかからないことも魅力だといえる。

デメリット:不備があれば遺言が無効になる

 自筆証書遺言は内容の不備によって要件を満たしていないものも多く、無効になるリスクが高いという。例えば、日付や署名が漏れている場合は無効になる。また不動産の番地や口座番号を間違えていた場合、遺言によって名義変更ができない可能性がある。

 遺言書を書き間違えた場合は、訂正すれば問題ない。しかし遺言書の訂正方法は、民法で定められた細かいルールがある。訂正の不備によって、その部分が無効になるケースもある。

デメリット:相続手続きまで時間がかかる

 遺言書の発見後、開封せずに裁判所に提出。裁判所は相続人に遺言の存在を知らせ、遺言書の内容を明確にする。これにより内容の偽造を防ぐのが検認だ。自筆証書遺言は、家庭裁判所の検認が必要となる。検認の手続きには、少なくとも1カ月程度かかる。

デメリット:改ざん・紛失のリスクがある

 相続人による改ざんのリスクも自筆証書遺言のデメリットの一つ。遺産配分が少ない相続人が勝手に遺言書を改ざんし、有効性を争うケースは珍しくない。

 そもそも自筆証書遺言が遺産分割協議の前までに見つからないケースすらある。被相続人から自筆証書遺言を作成した旨を聞いていても、保管場所を聞いていなければ心当たりをすべて探すことになるだろう。

 「遺産分割協議がまとまった段階で、突然自筆証書遺言が見つかるケースがあります。遺産分割協議後に、相続人が家の中を整理していたところ、ノートの中から遺言書が見つかった事例もありました」と三宅弁護士は話す。このような場合、その遺産分割協議は、無効あるいは取り消しになり得ると考えられる。

 こういった改ざん・紛失のリスクは、法務局への保管制度によって回避できる。ただし、遺言書を預かる遺言書保管官の権限は、日付や氏名などの最低限の形式チェックにとどまる。預ける前に専門家に確認してもらおう。

 佐山行政書士によると、遺言者からチェックを依頼された自筆証書遺言のうち、そのまま有効といえるものは2~3割程度だという。

 「自筆証書遺言は相続トラブルが発生しやすいため、公正証書遺言を作成するべき」と田中弁護士、三宅弁護士、佐山行政書士は口をそろえる。

>>付言事項が相続のトラブルの回避に寄与

 付言事項とは、遺言に込めた思いを記したもの。相続人の間で不公平が生じてしまう場合でも、「分け方の理由」などを被相続人の言葉で伝えることが争いの予防となる。不満はあるけれど、納得はできるという状態につなげやすいからだ。

 例えば、世話になっている次男に価値の高い不動産Aを相続させたいが、一方で長男にも配慮をしたいと悩んでいる母親がいた。次男に不動産A、長男には別の不動産Bを相続させ、現金は半分ずつ渡すと遺言を残したという。その際、専門家のアドバイスを受け、以下のような付言を作成した。まだ相続は発生していないが、この付言事項は家族の平和に寄与するだろう。

付言事項の例(一部抜粋)
 私は、長男と次男のことをできるだけ平等に扱いたい。完全な平等にはできないものの、できるだけ平等に近づけるためにとても悩みましたが、この分け方が長男と次男がこれからも家族と一緒に仲良く暮らしていくために最適だと考えたのです。

※付言事項について詳しくは、「地主と家主」2023年7月号連載「円滑に承継を進めるための相続対策vol.9」(司法書士法人ソレイユ)を参照ください

(2024年12月号掲載)
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