※この記事は地主と家主(旧家主と地主)2023年11月号から抜粋した記事で、内容は取材時の情報です。

賃貸物件も築30年を超えてくると「この後どうすべきか」と考えさせられるだろう。表面的なリフォームではカバーできない経年劣化が現れてくる。新築冬至では最新だった設備や間取りも、時代遅れになっている可能性もある。築30年超の物件に対しては、リノベーション、建て替え、売却という選択肢が考えられる。それぞれのメリット・デメリットを確認しながら、自分に合った取捨選択をしていきたい。
築30 年超の物件「分かれ目」
物件と経営を見直すきっかけ
自身で建てた、あるいは相続で引き継いだ物件の築年数が古くなった場合、今までにはなかった問題が出てくるだろう。その問題の解決法は三つある。
築古物件になり増える空室 放っておくと「負動産」化
築年数が浅い物件の場合、いわゆる「新築プレミアム」があり、苦労することなく空室を埋めることができる。
だが、築年数が進むにつれて、空室に悩むことが増えてくる。または空室が発生してから、次の入居者獲得までに時間がかかるようになるだろう。
特に、築30年を超えた物件は、一般的に入居付けの難しさに直面することが多くなってくるのではないだろうか。
30年前であれば最新だった設備や間取りも、現在のニーズには合わなくなってきている可能性も大きい。
また、周辺環境の変化もあるだろう。当時は単身者向けの賃貸物件が求められていたエリアだったものの、30年たつとすっかり供給過多の様相に。現在はファミリー物件が求められるという条件の変化が生じているかもしれない。
そうなると、何か手を打たなければ、もうできることは家賃を下げることしかないという状況に陥りかねない。物件の魅力は失われ、家賃収入は低くなるという賃貸経営の「デススパイラル化」だ。
そんな物件を次世代が引き継いだ場合、どうなるだろうか。「負動産」では、家賃収入は少ないうえにトラブルも多く、売りたいと思っても二束三文でしか売れないという「2代目の困りごと」の典型になってしまうだろう。
維持費だけではない 耐震性など躯体にも問題発生
賃貸物件では、一般的に10年ないし20年で大規模修繕を行う必要がある。つまり、築年数が進めば進むほど、大規模修繕費がかさんでくるようになる。だが、多額の修繕費をつぎ込んでも、家賃や入居率を上げられるとも限らない。
クロスやクッションフロアを替えたり、温水洗浄便座を取り入れたりなどの原状回復プラスアルファのリフォームならば今までもやってきたかもしれない。しかし、築30年を超えてくると、表面的なリフォームではカバーしきれない問題も出てくる。
例えば、給排水管の状態。30年以上前の物件に使われている給排水管は銅管がメインだ。そのため、銅管が腐食すると赤水が出ることもある。ますます退去が進む要因になっていないだろうか。
腐食が進み、漏水が発生するとさらに事態は悪化していく。物件の躯体そのものに悪影響を及ぼしてくるだろう。
躯体といえば、耐震性も考える必要が出てくる。築古であれば、1981年5月以前の旧耐震基準で竣工された可能性もある。たとえ、新基準での施工であったとしても、経年劣化によって耐震強度が低下していることも十分あり得る。

万が一、大きな震災が起き、建物が倒壊してしまうと、家主の管理責任を問われる事態にもなってきてしまう。そうなると耐震補強工事をするか、あるいは一から建て直すかという選択肢しかない。どちらにしても、支出は大きく、新たな借り入れを検討することも必要だ。
「空室も増え、躯体も心配」というタイミングこそ、物件だけでなく賃貸経営自体を見直すいいチャンスと捉えることができるかもしれない。

相続を見据えて対策 新たな借り入れを検討する
築30年といえば多くの場合、借り入れの返済が終わるタイミングだろう。長く続いた返済が終わり、ようやく手残りが増えると想像していると、思ったより少ないという事実に直面することも。借り入れが終わったことで、所得税の税率が高くなるためだ。もちろん、物件も築古であるため、減価償却での節税効果も期待できない。改めて借り入れを起こすことも検討しなければならない。
また、そもそも相続税対策のために建てた物件であることが多いだろう。
30年前に相続税を減らすために起こした借り入れが終わり、新たな借り入れが必要になるかもしれない。
だが、必ずしも再び長期にわたって返済すべき多額の借り入れを起こすことが、次世代にとっていい引き継ぎ方になるとは限らない。そこで、築古物件のこの先を考えるとき、出てくる選択肢はリノベ、建て替え、そして売却の3パターンになってくる。家主それぞれの経営方針や事業承継に対する考え方によって、どの選択肢を選ぶかは変わってくるだろう。
次からは、各選択肢のメリット・デメリットとそれぞれの選択肢を選んだ家主の事例を見ていこう。
築30 年超の物件「選択肢」
物件と経営を見直すきっかけ
建物の構造や事業承継の仕方、はたまた税金対策の考え方によって、どの選択ができるか考えていきたい。
1戸ずつ施工を進められる 耐震性を担保しながら考える
物件に不具合が出るたびにメンテナンスはしていたが、その費用がかさんでいる。だが、空室はますます埋まらなくなる一方だ。そういった場合は、リノベを検討するタイミングだろう。
メンテナンスや軽微なリフォームは、築古物件であることや、不具合があるという「マイナス」を「ゼロ」に戻すだけだ。だが、リノベであれば、「マイナス」を「プラス」に変える可能性もある。つまり、修繕や維持費はかさむが家賃は変わらない状況を脱して、空室を埋めつつ家賃アップを実現するチャンスになり得る。
リノベと一口にいっても、設備を中心に、室内を改修するものから、スケルトンにして給排水管の入れ替えを行うものまで幅広い。そのため、一概にはいえないが、建て替え時のような多額の借り入れは避けつつ物件の若返りを図りたい場合には有効といえるだろう。
退去が出た時点、もしくはすぐに空室となっている居室から順番に施工できるので、立ち退きの必要はない。また、1戸ずつ施工できるのは大きなメリットといえるだろう。というのも、リノベの効果を見てから、次の施工内容を決めることができるからだ。
とはいえ、事前に周辺にある競合物件の設備や間取り、そして家賃帯などをリサーチすることは大事だ。だが、リサーチ結果を基に毎回同じリノベを施す必要はない。1戸ずつリノベに対する入居者の反応を見てブラッシュアップを図っていくのもいいだろう。
そんなリノベだが、デメリットもある。一つ目は、建て替えほど自由に間取り変更が行えないことだ。木造や鉄骨造であればまだ自由度は高いだろう。
だがRC造の壁式構造の場合、「構造壁」と呼ばれる建物全体を支える壁があるため「単身者向けのワンルームの壁を3戸抜いてファミリー物件に変える」といった、大きな間取り変更に対応するのが難しい場合がある。
そして当然ながら、いまある建物を生かすため「そもそも賃貸住宅の需要がなくなった」という需要の変化には対応できない。この場合は、次に解説する建て替えや売却も選択肢として入れることになる。
そして最後に、81年以前に施工された旧耐震物件には耐震性への心配がつきまとってくる。せっかく費用をかけてリノベを行っても、万が一、震災が発生して物件が倒壊してしまっては意味がない。
耐震補強工事を施すこともできるが、その費用は高額になる。新築に建て替えたほうが賃貸経営の収支上はメリットが大きくなる可能性もある。リノベを考える際には、耐震診断を受けることも視野に入れつつ、物件の安全性を確保することも必要だろう。
住宅以外にの用途にも変更可能 相続税対策にもなるのがよい
建て替えは家賃の下落や空室率の上昇、設備や物件の劣化など、築古物件が抱える問題点を一気に解決できる方法だ。
新築にすることで家賃を上げられる。設備も、入居者にとって絶対条件となる設備を最初から取り入れやすく、入居者獲得に向けて魅力ある物件をつくることができる。新築から10年程度は大きな修繕の必要もないだろう。築古物件では随所で発生していたメンテナンス費もかからなくなる。
新築に建て替える良さは、間取りも大幅に変えるられるところだ。賃貸住宅の需要に応じて、単身者向けがいいのか、ファミリー物件がいいのか。はたまた戸建てに変えるのか、一から検討することができる。物件のある地域のマーケティングも考慮して、入居者ターゲットを刷新することも可能だ。ターゲット層を変えることが家賃アップにもつながるだろう。
さらに、もし賃貸住宅では今後の経営が難しいと判断する場合、非住宅での活用に切り替えることができるのは大きいメリットだ。
そして、何より相続税対策になるのが建て替えの大きなメリットといえる。今ある築30年の物件自体が、相続税対策として建てられたという例も多い。借り入れの期間を30年に設定した場合、その相続税の圧縮効果は既になくなる。
そこで、改めて新築物件を建て、借り入れをつくることで来たるべき相続に備えられる効果が出てくる。ただし、多額の借り入れをつくることが次世代にとって負担にならないとも限らない。この点は、どのように事業を承継していくかを視野に入れつつ検討する必要があるだろう。税の圧縮という点では、所得税の節税にも効果がある。新築にすることで、多額の減価償却費を計上できるようになるからだ。
こう聞くと、築古物件を所有する家主にとっては、建て替えの選択は大きな魅力があると思えるだろう。だがもちろんデメリットも存在する。
一つ目は、建て替え中は家賃収入がなくなるという点だ。物件を複数棟持ち、建て替え中も家賃収入がある場合は大きな問題はないかもしれない。しかし、1棟しか所有していない場合、家賃収入はゼロになる。
二つ目のデメリットは、入居者との立ち退き交渉が必要になることだ。家主側の都合による立ち退きであるため、立ち退き料が発生する。
長期契約の入居者がいると、入居者も高齢になっている場合があるだろう。そうなると、次に住む場所を探す必要が生じる。複数の物件を所有している家主であれば、似たような間取り・賃料の物件に引っ越してもらえる場合もある。だが、代替物件がない場合は、長く住んでくれた入居者に、家主の都合で退去してもらい、その後は知らぬ存ぜぬというわけにもいかない。立ち退きに向けて不動産会社に相談しながら、引っ越し先の検討を行うというケアもすべきだろう。建て替える場合は、立ち退きのスケジュールをしっかり立ててから行うことが肝になる。
現金を手にできるのが強み だが一度手放すと取り返せない
最後に売却だが、リノベや建て替えにはない、最大の利点といえば、現金を手に入れられる点だ。
親の介護が必要になり、老人ホームへの入居費用がかかる、または子どもの海外留学が決まるなど、まとまった現金が必要なとき、物件を売却することができればそのメリットは大きい。
あるいは、売却益を別の資産に組み替えることもできる。賃貸物件のニーズがつかみにくい土地を売却し、別のエリアで物件を購入するのだ。さらに、株式などまったく別の資産にすることもできるだろう。
売却の場合、建物はそのままにするオーナーチェンジと、解体して更地にする方法がある。
オーナーチェンジの場合、売主が希望する価格で販売するためには、空室が少なく家賃を下げていない状況で売却するのが理想だ。そうすれば、収益価格で売却できる。収益価格は「1年間の純利益÷還元利回り」で計算されるからだ。
築年数が古ければ古いほど買主側に融資が下りづらくなり、結果として売りにくさにつながることも。木造は22年、鉄骨造は34年、RC造は47年と定められている法定耐用年数との兼ね合いがあるためだ。例えば、RC造の場合であっても、「法定耐用年数―築年数」が20年足らずになるため、その期間で融資を回収するためには、高い利回りを確保しながら売却しなければならない。
更地にして売却したほうが買い手がつきやすい場合もある。だが、更地にするということは、建て替え時と同じく立ち退き交渉が発生し、解体費も負担しなければならないことを考慮に入れたい。
売却という選択肢では、先祖代々受け継いだ土地を手放すことの難しさが、地主にとって最も高いハードルだといえるのではないだろうか。「親から言い聞かされてきたので、自分の代では手放しにくい」「もし売却してしまったら親戚の目が厳しい」といった声は地主からよく聞かれる。売却を検討するにあたっては、「売ってはいけない土地」「活用すれば収益を上げられる土地」「売却して現金化が最適な土地」といった「土地の色分けをしてから行うのがいいだろう。
一度売却した土地を取り戻すのは難しいため、事前の土地の色分けが売却、そして事業承継の成功につながるのだ。
選択肢1:リノベをして物件の寿命を延ばす
効果的なリノベは家賃アップだけでなく、新しい入居者層の獲得にもつながる。
退去が出るごとに1戸ずつ実施 91戸の稼働率は約98%
鈴木一哉オーナー(川崎市)
川崎市内に18棟180戸を所有する鈴木一哉オーナー(川崎市)。築35年、40年の2棟91戸のRC造物件では退去が出るたびにフルリノベを行っている。
12年前に家業に入って以来、大規模修繕やリフォームを行うことで入居率の改善はできていた。だが、3年ほど前から床のきしみや風呂の配管の亀裂など、リフォームではカバーできない不具合が発生するようになった。そこで、表面的なリフォームを行うだけでなく、リノベをして不具合を改善しつつプラスアルファの価値を与えることに踏み切った。
水回りは風呂、トイレ、キッチンをすべて取り換える。併せて、給排水管も耐久性の高い塩化ビニール管に一新。和室は洋室に変え、収納の数を増やす。構造上の問題で、間取りの変更はできないが、それ以外はすべて行うようなフルリノベを施す。
インターネット経由で検索をし、建材、設備ともにメーカーに直接、複数発注することでフルリノベでも43㎡につき300万円以内に抑えているという。
「築年数が40年を超えていると、リノベをしなければ入居者を決めることは難しいと思います。中途半端にリフォームをし続けていても、結局は修繕費がかさむばかりで家賃を上げることもできません。それならば、一度お金をかけて全面的に改修した方が、家賃アップや長期入居者獲得につながるでしょう」と鈴木オーナーは話す。家賃は周辺相場より若干高い8万円前後に設定しているが、募集開始後、平均して2週間以内には決まる人気物件になっている。
自由度の高い部屋を入居者に託す クリエーターが集まる物件に
吉浦隆紀オーナー(福岡市)
吉浦隆紀オーナー(福岡市)が祖父から「吉浦ビル」を引き継いだのは2012年のこと。築40年を目前にし、40戸中空室が2割ほどある状態だった。新たにローンを組んで建て替えをすることも視野に入れていたが、今後人口が減るといわれている中で、新たに賃貸物件を建てることに対して疑問が沸いた。新しい物件をどんどん建てていくのは、人口が増えていっていた時代の考え。今後はすでにあるものを使い続けることに社会的価値があるのではないかと考えたのだ。
そこで、当時空室になっていた4部屋のリノベを開始した。物件自体の寿命を延ばすためにも、一度スケルトンにして設備を一新した。3部屋にデザイン性の高いリノベを施していったが、最後の1戸のみスケルトンのまま募集をかけた。
そうしたところ、思いがけずスケルトンのままの1戸に多くの問い合わせがあり、結果として一番早く入居が決まった。これが「好きなようにDIYリノベできる部屋」というコンセプトが誕生するきっかけとなった。家主側で家賃の3年分をDIY費として負担することにして募集。現在までに26戸が同コンセプトでリノベされている。
家主側でフルリノベした場合、1戸につき400万円ほどかかっていたが、DIYリノベにすると、200万円で済む。そのうえ、家賃は1・5倍近い6万円に設定しても入居待ちが出るほどの人気物件になった。
DIYリノベ部屋が増えるにしたがって、入居者の顔触れも変わっていった。引き継いだ当初は、賃料2万6000円で生活保護受給者者向けに貸し出しをしていた。だが「自分の理想とする部屋をつくることができる」という付加価値により、職人や建築家、デザイナーといったクリエイターが入居するようになったのだ。
建物を引き継いでから地域づくりにも参画している吉浦オーナーは、入居者のパーソナリティーを重要視している。人が人を呼び、その人たちが地域に影響を及ぼし、地域全体を作り上げていくと信じている。

▲リノベを行った入居者に原状回復費は請求しない
一棟丸ごとスケルトンリノベ 間取りも大きく変えて収益増
小島里恵オーナー(東京都新宿区)
築52年の5階建てRC造マンションを一棟丸ごとスケルトンリノベしたのは、小島里恵オーナー(東京都新宿区)だ。東京メトロ丸ノ内線四谷三丁目駅から徒歩6分という立地の良さはあるものの、築年数の古さから、雨漏りがひどく全16戸中、貸し出せない部屋も出始めていた。
そこで、相続対策も兼ねて建て替えを検討し始めた。ところが、既存不適格物件であったため、建て替えると5階建てが3階建てになってしまうなど、5〜6割程度に床面積が縮小することが判明した。「収益物件であれば、収入予想は最大値で考えるべきです。そのため、床面積を大きく残すことができるリノベという選択をしました」と小島オーナーは話す。
耐震診断を行ったところ、躯体自体は丁寧につくられていることがわかり、新耐震基準に沿って外壁に追加補強を行った。また、建物のゆがみを直し、新たに平行・垂直をキープするため、部分によってはコンクリートを追加で6層分塗り直した。
間取りもできる限り手を加えた。周辺物件のマーケティングの結果、2LDK以上の物件の供給が少ないことがわかった。そこで、隣り合う1LDKとワンルームの壁を抜き、3LDKの部屋とした。
内装で大きくこだわったのは収納の多さだ。壁一面のクローゼットのほか、バス・トイレでもデッドスペースがあれば収納を設けた。大手不動産会社に勤務していた小島オーナーは「賃貸物件を決める際、決定権は女性にあるといっても過言ではありません。そこで、女性の立場から見てこの物件がいいと思わせる差別化を図りたいと考えました」と話す。
選択肢2:建て替えをして問題点を一挙に解決
賃貸経営の課題も、躯体の問題点も建て替えをすることでクリアできる。
需要の高いRC造で新築 計画してスムーズな立ち退き
渡邉一男オーナー(長野市)
シロアリの発生やトタン屋根の老朽化が修繕だけでは解決できなくなったのをきっかけに、築40年の戸建て6戸の建て替えを決めた渡邉一男オーナー(長野市)。前年に竣工したRC造物件2棟の入居率が高く、この地域での賃貸需要、とくにRC造物件の需要は高いと判断。19年、6戸解体後の150坪の土地に15戸のRC造マンションを新築することになった。
当時は10年以上の長期入居者ばかりだったが、立ち退き後の意向を半年前からヒアリングし始めた。2戸は3カ月以内に自己都合で転居予定だった。3戸は所有する別の物件に、これまでの家賃と変わらない金額で移り、1戸は家主負担で引っ越し代を出して転居してもらった。
建て替えの際、立ち退きをスムーズに進めるためにはしっかりシナリオを書くことが大事です」と渡邉オーナーは話す。戸建てのときは4万円だった家賃は、建て替え後、8万〜9万円にアップ。別の物件への転居後の賃料を戸建てと同様にした際の減収分を差し引いてもおよそ1100万円の増収となった。
間取りの悪さで家賃を上げられない 周りにない広い戸建て賃貸を新築
清水元美オーナー(埼玉県北本市)
木造は建て替え一択。鉄骨造はあと何年賃貸物件として入居者を獲得できるかを考慮してリノベか建て替えかを決めるという清水元美オーナー(埼玉県北本市)。だが、リノベに関しては、間取りを変更できる場合に限るという。
21年に建て替えをした築34年鉄骨造2戸については、躯体自体に問題はなかったので、賃貸物件としての寿命はまだあった。だが、いわゆる田の字形の古い間取りを変更できないままリフォームを行ってきた。設備に投資してリフォームを行ったとしても、間取りの人気のなさが足を引っ張り、思うように家賃を上げることができずにいた。
そこで、1戸が退去したタイミングで建て替えを決断。残った1戸に対しては、家賃3カ月分の立ち退き料を支払い立ち退いてもらった。
建て替え後は100㎡以上の3LDKの戸建てに生まれ変わった。建材や設備を分譲仕様とし、風呂も1620サイズのユニットバスを採用。プライバシーを確保するために、LDKは2階に配置する工夫をした。
「賃貸住宅は一生住む場所ではない。限られた期間であるなら、夢のある物件に住みたいと考える入居者に訴求したい」と語る清水オーナー。建て替え時こそ、そういった「憧れ」を反映できる物件づくりをして入居者の属性を変え、家賃アップにつなげている。
風呂なし木造アパートがテラスハウスに 20年後の地域活性につなげる
長戸隆彦オーナー(川崎市)
実家の裏にある築50年、風呂なし木造アパートの入居者が高齢者や生活保護受給者メインになっていた15年ごろ、立て続けに2件の孤独死に対応した長戸隆彦オーナー(川崎市)は、入居者層の改善を念頭に建て替えを決意した。
土地としては、RC造で4階建てでも十分建てられる条件だった。大手ハウスメーカーからも分譲仕様のさまざまなプランを提示されたが、所有するファミリー物件の返済が残っていることを鑑み、工事費は抑えて木造のテラスハウス型物件を採用することとした。
「この土地は実家の裏にあり、公園に隣接しています。将来的に実家も建て替えて活用する可能性がありますが、そのときにコミュニティーとして統一感を出せる物件を造っておきたかったという気持ちもあります」と話す長戸オーナー。
テラスハウスは、長戸オーナーがかつて住んでいたアメリカ・カリフォルニア州をイメージした明るいブルー。ウッドデッキやベンチなど、共用部と公園の境界線が自然になじむような工夫を凝らした。
家賃は周辺相場よりやや高めの14万円。入居者も若いカップルや外国人夫妻らで、長戸オーナーの狙いどおりの属性に変えることができた。
隣地を買い取り整形地に テナント誘致で安定収入を得る
秋田紘志オーナー(愛知県豊山町)
秋田紘志オーナー(愛知県豊山町)は11年、変形地に立つテナント2戸と長屋5戸を新築戸建てに建て替えるべく、解体を進めていた。だが、解体作業を見て、隣地の2戸が秋田オーナーに売却を持ちかけてきたことが転機となり、テナント誘致にかじを切ることにした。
当時はリーマン・ショック後の賃貸経営が苦しい時期。賃貸住宅を建てても入居付けに苦労すると考えていた。そこで、隣地と合わせて270坪の整形地になれば、テナントが誘致できると考えたのだ。
最寄り駅から徒歩10分程度だが、周りに店舗がなく寂しい地域だったため、飲食店やコンビニを誘致しようと売り込みに行くが、270坪という広さは「帯に短したすきに長し」という規模だった。テナントが決まらず焦りが出てきた頃、最後に手を挙げてくれたのが葬儀会社のティア(名古屋市)だった。
当時、専業家主を目指して家賃の増収を図りたかった秋田オーナーは、土地貸しではなく、新築した建物を30年契約で賃貸する方法を選んだ。融資はほぼフルローンで、毎月の手残りは80万円弱。敷金として1000万円が入ってきた。現金の増加を受けて、賃貸物件の買い増しに進むことができた秋田オーナーは「このテナントへの建て替えは賃貸経営拡大の足掛かりになった」と振り返る。
選択肢3:売却をして現金を手に入れる
物件ごと売却した例、更地にした例をそれぞれ見ていこう。
支出の増加が売却のタイミング 利回りが15%あれば築古でも売れる
松山貴広オーナー(さいたま市)
栃木県足利市の築44年のRC造物件を21年に売却した松山貴広オーナー(さいたま市)は、売却のタイミングの一つとして「維持費の支出が増えてくる時期」と考えている。
築39年で購入した当初およそ半分だった入居率を9割にまで押し上げることはできたが、一度退去すると次の入居に苦労することもたびたびだった。また、排水管のトラブルも多く、毎週のように「水が漏れている」と管理会社から連絡が入っていたという。漏水が起こるたびに塩化ビニール管に替える工事を行い、工事費も20万円ほどかかった。そこで、手間がかからない新築あるいは1都3県の物件に資産組み替えをするべく、売却することとした。
築30年以上の物件の場合、買い手に融資が下りにくいこともあり、一般的に売却に際してハードルがあると思われる。だが、松山オーナーは「どんな築古物件でも、利回りが15%程度あれば買い手がつくマーケットが存在する」と考える。
例えば、松山オーナーが所有していた足利市の物件を購入したのは、本業がある企業の賃貸部門だった。「こうした買い手の場合、本業がしっかりしていれば、築年数に関係なく融資は下りるからです」(松山オーナー)。また、ノンバンクであれば、法定耐用年数にかかわらず融資を出すこともある。
また、木造に関しても売却は難しいかというと、必ずしもそうとはいえないという。都心にある物件の場合、買主側からすれば土地の価格で買うことができたら損はしないため。地方の場合は、築古物件であれば利回りが良くなるので収益性が上がるからだ。
「福島県に所有していた築20年の木造アパートも売却しました。木造で法定耐用年数ぎりぎりあるいは超えている物件でも信用金庫で融資が下りる可能性もあります」と松山オーナーは話す。
建て替えでは容積率が低い 更地にして実需に販売
田丸賢一オーナー(東京都杉並区)
「築60年の1テナント付き木造アパートを更地にして売却しよう」。田丸賢一オーナー(東京都杉並区)がそう考えたのは、11年の東日本大震災がきっかけだった。
首都直下型地震や南海トラフ地震など、今後30年以内に起きると考えられる大震災がにわかに「自分ごと」として考えられるようになったという。「築古アパートの耐震改修をせず、旧耐震のまま震災が起きたら、賃借人から損害賠償請求を起こされる可能性もある」と考えたためだ。そもそも木造なので、耐震補強工事をしても、大きな期待はできない。そこで、建て替えを検討した。
ところが、第三種高度地区であったため、容積率が400から248と大きくカットされることがわかった。収益物件を建てるには条件が悪く、売却することにした。
JR中央線荻窪駅にほど近く、広さが278㎡という点では悪くない土地だが、環状8号線に隣接していたため、賃貸住宅としての需要は低いと予想。
可能性としては、クリニックやテナント用途であろうことから、古家付きでは売却しにくいと見越し、更地での売却とした。
更地にするためには、建て替えと同じく立ち退き交渉が必要になる。そこで、退去が出るたびに新規入居は定期借家契約で1年ごとの再契約に切り替えていった。テナントに対しても田丸オーナーが次の入居先を見つけたため、大きなトラブルもなく立ち退きが進んだ。
売りに出したところ、思いがけず実需の戸建て向けに購入希望が入り、予想していた価格以上の金額で売却することができた。「環状8号線という大きな道路に隣接していたので、まさか自宅向けにという購入希望が出るとは想像していませんでした。更地にしていたからこそ売却できたのだと思います」(田丸オーナー)
高度地区とは、建築物の高さ制限を定める地区のこと。都市計画法に基づき、用途地域内において市街地の環境を維持するために設けられている。高度地区の制限内容は、自治体ごとに異なる
(2026年8月公開)

どうする? 築30年超物件
「正直者がばかを見ない」賃料増額交渉 ―ブエナビスタ
大規模修繕の見積もり比較を支援 ―KOSON
皆でつくる物件の「ウリ」



