9000坪の大規模開発がつないだ未来 ―朝日綜合グループ

賃貸経営地域活性

<<地場不動産会社が挑むまちづくり>>

地方都市の交流人口を増やす
9000坪の大規模開発がつないだ未来

 若者が楽しめる場所をつくりたい─、働く場所をつくりたい─、人が来て遊べる場所をつくりたい─。このようなまちづくりは、多くの地方都市が抱える課題だ。秋田県南部の中心都市横手市では、今から40年前、当時の若手経営者たちが立ち上がり、まちづくりにおける課題と向き合ってきた。不動産会社の朝日綜合グループの熊谷邦夫社長はその1人だ。現在、息子の熊谷剛専務も経営の一翼を担う。今では活動の成果が、大型商業施設やホテル、温浴施設、フィットネスジムなどとして表れ、市内のにぎわいを支えている。

朝日綜合グループ(秋田県横手市)
(左から)熊谷邦夫社長 熊谷剛専務

商業施設とビジネスホテル 地元人気スポットを管理

 JR横手駅から車で5分ほど走ると、ロードサイドに約3万3000坪の広大な敷地を有する大型商業施設が目に飛び込んでくる。ここは地元で人気のショッピングモール「イオン横手店」を中心とした一画だ。イオン横手店にはファッション、ホビー、美容、日用品、食料などの各種専門店が出店しており、週末などは家族連れで大にぎわいとなる。また同店の周辺には広大な商業エリアが広がっている。

ビジネスホテル「クォードインyokote」

 一方、駅から徒歩5分の場所にはビジネスホテル「クォードインyokote」がある。こちらは横手市を訪れる観光客やビジネス客が多く利用するが、併設の温浴施設、レストラン、フィットネスジムは地元住民に愛されている人気スポットだ。

 この市内2カ所の人気施設に、立ち上げから深く関わってきたのが秋田県の地場不動産会社である朝日綜合グループだ。現在、同グループの子会社であるアクト・ライズは、イオン横手店周辺の9000坪に大手家電量販店やスマートフォンショップのほか、100円均一ショップ、美容室、飲食店などが入る建物を8棟所有している。また朝日綜合グループの朝日綜合、朝日レジデンシャル、ホームクリニックもこのエリアのオフィスビルに本社を構える。

 

 さらにクォードインyokoteの建物もアクト・ライズが所有している。つまり朝日綜合グループはこれまで長年にわたり、横手市のまちづくりに大きく関わってきたのだ。

 同グループの邦夫社長は語る。

 「私は大学卒業後に地元に帰ってきました。ですが、ほとんどの同級生は都会で働き、横手の地を去りました。そんな環境で自分たちは商売をしていかなければなりません。まちが衰退していくのをなすすべくもなく見ているのではなく、少しでもこの流れを食い止めたいと考えたのです」(邦夫社長)

ショッピングモール誘致 人口流出を食い止める

 もともとアクト・ライズは、まちづくりのために地元有志が出資してつくった会社だ。

 この会社が生まれたのは1980年代の終わりから90年代の始め、邦夫社長が20代の頃にさかのぼる。

 当時邦夫社長は、青年会議所での活動を通じてまちづくりに尽力していた。地元の若手経営者が真剣に議論していたテーマこそ、人口流出への対策だったという。

 「地方から大都市への人口流出、つまり〝ストロー現象〟に危機感を抱いていました。仙台や東京といった大都市への流出はもちろんですが、秋田県内でも大仙市や秋田市に出て行く若者が多くいたのです。横手市は当時から県南の中心都市でしたが、人口の流出を抑えられなければその地位を失う可能性がありました」(邦夫社長)

 そんな折、商業施設「サティ(現イオン)」が横手市内に出店用地を探している、と地場不動産会社である朝日綜合に相談が来たのだという。

 当時、こういった大型ショッピングモールの開発は、もろ手を挙げて賛成される類いのものではなかった。それは、大型ショッピングモールに人出を奪われることで、駅前の商店エリアの空洞化が起きることが全国的な問題となっていたからだ。商店の客が減れば、そこで働く人は生活できなくなる。

 一方で、魅力ある施設が市内に1つできることの意味は大きい。特に若者の娯楽が少なかった横手市にとってはチャンスと捉えることもできた。このまま緩やかに人口が減少するのをただ受け入れていくのではなく、前を向いたチャレンジが必要だと邦夫社長は感じたのだという。

 「青年会議所の仲間と『サティができたらまちはどうなる』『何とか空洞化に対処できないか』と議論を始めました」(邦夫社長)

 行政とも話し合いを重ねた結果、サティの進出により市街地が空洞化した場合の雇用の受け皿をつくることを条件に、同店の誘致が認められたという。

 サティ以外に、競馬の場外馬券売り場・大型モニターでのレース観戦施設である「テレトラック横手」の誘致を、もう1つの目玉に据えた。そして、周囲に広がる9000坪を地元有志が開発していくことで、この一帯を広大な商業集積エリアとすることになった。大小8棟のテナントを建てることで、さまざまな店舗を構えているというエンターテインメント性を高めるとともに、市街地で商売が成り立たなくなった場合の受け皿とする計画だった。

 

 この時、9000坪の敷地での商業施設の開発や、サティ、テレトラック誘致のサポート、開業後の維持・管理などを行うために地元有志がつくった会社がアクト・ライズだ。96年、邦夫社長を含む15人の発起人と、発起人本人や地元の21人、14社から得た出資金1億円でのスタートだった。

 「新潟県長岡市に地元有志がショッピングモールをつくった先例がありました。そこを視察したり、横手市の開発予定地を彼らに見てもらったりしました。アドバイスを得るうちに、自分たちでまちづくり会社を設立するのがいいだろうとなったのです」(邦夫社長)

地元商店街からは猛反発 丁寧な説得重ねる

 もちろん開発は一筋縄ではいかなかった。コアメンバーだった邦夫社長は、サティやテレトラック誘致における地元との調整の傍ら、開発予定地の地主たちから土地を借りるための交渉を行い、アクト・ライズの開発分についてはテナント誘致さえも担った。それだけではなく、もともと田んぼだったこの地に、道路や交差点もつくる必要があったという。だがそこまでやっても、地元の理解を得ることは難しかった。

 

 「地元商店街は猛反対でしたね。地元の商売が駄目になると地元紙に書かれたこともあります。さらにはテレトラックの誘致そのものについても問題視されました。ギャンブルにはまり破産する人が増えるというのが理由です」(邦夫社長)

 地元商店街には丁寧な説明を重ねた。サティにテナントとして入居してもいいし、アクト・ライズがつくる予定の受け皿もある。テレトラック横手についても、実際に主要人物を招いた競馬体験会を企画して、徐々に周囲の理解を得ていった。

 必ずしも皆に応援してもらえるわけでもない中、邦夫社長は本業以外の時間を使ってまちづくり活動を行っていた。自身はアクト・ライズの役員ではあったが、黒字化するまでの15年間は無報酬を貫いていたという。心身の負担も大きかったのだが、邦夫社長に取り組みをやめるという考えはなかった。

 青年会議所のメンバーは地元の後継ぎたちの集まりだ。このエリアの多くの人が都会に出てしまい、地元にはあまり戻ってこない。がこの地に暮らすと決めている経営者だからこそ、自分たちでできることをやらなければならないとの強い思いがあったのだ。

 アクト・ライズは銀行から16億円を借り入れ、96年から順次テナント物件が竣工。97年には、サティとテレトラック横手が開業した。こうして、念願としていた「若者が楽しめる場所をつくりたい、働く場所をつくりたい、人が来て遊べる場所をつくりたい」という思いがこもった場所が完成したという。

 それから30年、この場所は横手エリア有数の大型商業施設として、テナントが入れ替わりながらまちの人の暮らしや楽しみを支えてきた。

デッドクロスが発生 ホテル開業により打開

 アクト・ライズによる9000坪の開発事業は、15年ほどでめどが立ち、安定収入が得られる状態になった。だが、今度はデッドグロスが襲ってきたのだという。

 デッドクロスとは、ローンの元金返済額が建物の減価償却費を上回ってしまう状態のことだ。

 テナントを新築してから15年たつと、建物設備部分の減価償却が終わる。それが主な原因となり経費計上できる減価償却費は大きく減ってしまった。そのため、実際の収入が変わらなくてもかかる税金が大きくなり、キャッシュフローが悪化したのだという。同時期に複数の建物を建てたので、デッドクロスの影響は深刻だった。

 「アクト・ライズの家賃収入にかかる法人所得税の負担が大きくなりました。本業で私たちが管理する賃貸物件のオーナーがデッドクロスに苦しむ姿は見ていましたが、これを自らも実感した形です。その対策として、減価償却資産を増やして税負担とのバランスを取っていくことにしました」(邦夫社長)

 そこで2010年に新築したのが駅前のビジネスホテル、クォードインyokoteだ。当初は本業としてノウハウを持つ朝日綜合で賃貸住宅を建てることも検討していた。しかし、ビジネスや観光の拠点をつくるほうが流入人口を増やすことにつながり、まちづくりに貢献できる。こうした考えから、ホテルを手がけることにしたのだという。

 アクト・ライズが11億7000万円を借り入れて建物を造った。宿泊する場所だけでなく、レストラン、フィットネスジム、温浴施設も設け、4つの役割を持たせたという趣旨で、英語で「4つの」を意味する「クォード」をホテル名に入れたのだという。

 レストラン部門、フィットネス部門、温浴部門は同社が運営を担う一方、ホテル部門は高い専門知識が必要だと判断し、運営会社に依頼する形で経営している。このホテル建設により減価償却費を計上できるようになり、アクト・ライズの財務状況は改善した。しかし、オープン当初、ホテル経営自体はなかなかうまくいかなかった。当初は4部門すべてで赤字を出してしまっていたのだ。

料金や宿泊プランなど ホテル運営を徹底的に改革

 ホテル経営が赤字では本末転倒。ホテル運営会社から同社に支払われる家賃が売り上げに比例した歩合制だったこともあり、ホテルの経営改革は急務であった。ここで邦夫社長は自ら動いた。

 アクト・ライズが運営を担う部門(レストラン、フィットネスジム、温浴施設)は、邦夫社長が月に1回、社員60人と面談し、業務改善提案の吸い上げや実行、働き方の合理化などにより細かい部分をブラッシュアップしてきた。例えば、料金やメニューの見直しは必要だと感じたらすぐに行っている。その結果、現在、人気プランの1つになっているフィットネスジム付き宿泊プランなどのアイデアも生まれたのだという。

 また邦夫社長は「経営者は最大の消費者たれ」という趣旨の多くの経営者の言葉に感銘を受け、積極的に同ホテルを利用。レストランではほとんどのメニューを食しており、少しでもおいしいものを提供できるよう日々向き合っている。邦夫社長の息子である剛専務もその精神を受け継いでおり、父と共に経営改善に取り組む。フィットネスジム付き宿泊プランは剛専務のアイデアだ。

 外部の専門事業者に運営委託しているホテル部門についても、ホテル運営会社とアクト・ライズで2週間に1度の経営会議を行っている。貸主の立場でありながらホテル運営にも関わるようになったのは、一度痛い経験をしたことも大きい。

 「ある時、がくんと客足が遠のいたことがありました。それは、運営会社が独自の判断で、需要によって宿泊料が大きく変わる『ダイナミックプライシング』を導入したことが原因でした。需要がある時期だからと日頃の2倍も3倍も高くなるようなやり方はこの辺りにはなじみません。『安心して使えないホテル』と地元住民に思われたことで稼働率が落ちました。回復するのには時間がかかりましたね」(邦夫社長)

 都会地では売上高を上げる有効な手段としてダイナミックプライシングを活用しているホテルも多いが、この地では完全に逆効果。すぐに宿泊料の変動幅が1000円程度になるよう戻してもらった。それを契機に、2週間に1度の経営会議を行うようになったのだという。

 「当社はあくまで賃料をもらう立場ですが、経営となると一心同体です。エリアに合った経営に協力してもらえればこそ、安心して委託できるのです」(邦夫社長)

 その後の改善に向けた地道な努力や、公共工事の関係者の宿泊先となるなどの好材料もあり、クォードインyokoteは現在、横手市内でも人気のホテルとなっている。最近も、全国で稼働率の良いホテルランキングで40位台にランクインするなど経営は好調だ。

建物をZEH・ZEB化 老朽化対策に注力

 まちづくり活動が主に不動産を通じたものだったこともあり、アクト・ライズは2021年に朝日綜合グループの子会社となった。今後は地域の支援を得ながら同グループでまちづくり事業を進めていく。

 事業の種がまかれてから40年、アクト・ライズができてから30年。時の流れによる需要の変化への対応や施設の老朽化対策も求められる時期を迎えている。例えばテレトラック横手。馬券をインターネットで買えるようになったことで、以前ほどの勢いはない。ここは同社の所有物件ではないものの、大型商業施設のシンボルでもあることから、まちづくりの観点で何らかのアイデアを提供したいと考えている。

 

 また開発した9000坪の土地は当初すべて借地だったが、それでは銀行による企業格付けや融資審査で評価が低くなってしまう。そのため、徐々に地主と交渉して土地を取得、財務内容や担保力を改善してきた。現状3分の2ほどが所有権となっているが、今後も割合を増やしていくという。

 最も重要視するのは修繕だ。

 資材高騰の折、新築での不動産経営は採算が合いにくい。残された道は適切な修繕で建物を長く使い続けることだと同グループは考えている。主業である朝日綜合では、自社管理物件約9000戸すべてに太陽光発電機を設置し、ZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)化することを目標としている。

 当然、子会社であるアクト・ライズが所有する建物も修繕していく。これからの修繕を率いていく中心人物は剛専務だ。

 「ZEHのビル版をZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)といいます。ショッピングモールやホテルもいずれ行うつもりです。既存建物のZEH・ZEB化は可能ですが、手間と技術が求められます。職人さんからすればかなり難しい仕事ですし、入居テナントを工事中どうするかという問題もあります。でも、経営を成り立たせて生き残るためには、その道しか残されていないと思うのです。私たちが率先して背中を見せていきたい」(剛専務)

 金銭面でも時間の面でも、今後も負担は大きい。だが、主業に対するシナジー効果もある。

 「真剣にまちづくり活動をしてきたことで、管理戸数を伸ばせたという面もあります。雇用が生まれれば住む人が増えますから。それに加えて、エリアでの信頼を得ることができたのも大きいですね」(邦夫社長)

 主業とまちづくり。不動産を軸に、趣を異にする2つの事業が両輪で横手市を支えていく。
(2026年10月号)

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