馬主道 ―馬と社会貢献 「ホースホテル」の可能性

コラム馬主道

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第8回 馬と社会貢献 「ホースホテル」の可能性

馬主かつ不動産経営者だからこそできる
引退馬の行き先づくりと社会貢献事業

 今回は「馬と社会貢献」について考えてみたい。

 馬は、走るだけの動物ではない。引退後の馬たちをどう扱い、地域に生かし、次の世代につなぐか。この問いに向き合った時、馬の事業は一気に「社会的な意味」を持ち始める。そしてそれは、不動産オーナーが得意としている「地域に根差した事業」と大きく重なるのだ。

引退馬のその後の活動を考える

 競走馬として活躍した馬も、いつかは引退する。問題は引退した後の行き先だ。乗用馬への転用や繁殖に回る馬は恵まれている。そして残念ながら、すべての馬がそうなるわけではない。

 日本では年間約7000頭の競走馬が誕生するが、引退後の行き場所が確保される馬は多くない。これは競走馬産業全体が抱える構造的な問題である。

 競走馬のオーナーとして、引退した競争馬のその後について考えることは、大変重要だ。もちろん、乗馬クラブや学校の馬術部、あるいは神馬として神社などに行くパターンもある。しかし現状は、行き先のわからない馬が確かに存在している。

▲6月、「ゴールデンデビュー名古屋(2歳新馬)」で勝利した愛馬のリンクディエンド

「ホースホテル」を地域資源に

 そこで、われわれ不動産オーナーができることは何かと考える時、日頃、不動産と馬を掛け合わせる事業を行う私が注目しているのが「ホース(馬)ホテル」だ。

 ホースホテルとは、引退馬や休養中の馬を一時的・長期的に預かる施設のこと。競走馬の休養やリハビリ場、乗用馬転用のためのトレーニング場、さらには観光客や地域住民との触れ合いの場として機能するケースもある。簡単にいえば「馬のための宿」であり、それと同時に「馬と人がつながる場所」でもある。

 地方では、競馬場の近くであっても、馬に関する施設が少ないことがほとんだ。そのような場所で、ホースホテルを地域の資源として活用できる可能性はあると思う。

 この発想は、不動産オーナーにとっては非常になじみのあるものではないだろうか。空き地や遊休農地、使われなくなった農業施設─。それらをホースホテルとして活用すれば、土地の価値を生み出すことができる。民泊のように運営する、あるいは牧場として賃貸に出す、という形も考えられる。馬主のネットワークを通じて、馬の預け先を探している馬主にホテルの提案をするだけでも、新しいビジネスが動き出す可能性がある。

 実際に、引退馬の預かり施設は全国的に不足している。需要はあるのに、受け皿が足りていない状況だ。不動産オーナーの目線で見れば、これは「空白のマーケット」である。しかも、ホースホテルの利用者は馬主や厩舎関係者、乗馬クラブなど、信頼関係を大切にするコミュニティーに属する人が多い。利用者とのつながりができれば、そこから長期的な取引が生まれやすく、空室リスクが低くなる。その点でも、不動産経営に近い安定感がある。

馬で地方に産業をもたらす

 ホースホテルの話を突き詰めると、地方創生という大きなテーマにつながってくる。日本の農村部や過疎地には広大な土地と豊かな自然があり、そこはまさに、馬が生きる環境として理想的だ。その土地に馬が行くことで、馬に関する仕事が生まれ、人が集まり、地域が動き始める。

 具体的に考えてみよう。ホースホテルを1カ所設けると、馬の管理スタッフ、獣医師の定期往診、飼料の調達、施設の維持管理、観光客向けの案内スタッフが必要になり、雇用が生まれる。地域の農家が飼料用の牧草を栽培する副業を始めるケースもある。馬1頭が、地域経済を動かす小さなエンジンになるのだ。

 この「馬を置くだけで人が集まる」というのは、大げさな話ではない。特に注目しているのは、廃校や空き農地との組み合わせだ。特に全国で増えている廃校は、その広い敷地と建物を活用されずにいる。そこに馬を連れて行けば、乗馬教室、引退馬のリハビリ施設、子どもたちの農業体験プログラムとの連携など、さまざまな可能性が開ける。これは不動産投資の「遊休資産の活性化」と本質的に同じ発想だ。不動産オーナーの強みを馬の事業に持ち込むことで、地域に新しい価値を生むことができる。

社会貢献が事業になる時代

 少し前まで「社会貢献」と「事業」は別物だと思われていた。「社会のためになることは大事だが、もうけにはならない」という感覚だ。しかし今や、そのバランスは確実に変わってきている。SDGsへの注目、地域活性化につながる事業に対する補助金の充実、ふるさと納税との連携など、社会的な意義を持つ事業ほど、行政から支援を受けやすくなっている。

 馬と社会貢献の掛け合わせは、まさにこの流れに乗る分野だ。引退馬支援という社会課題に向き合いながら、ホースホテルで収益を上げ、地域雇用を生み出す。この三位一体のモデルは、行政から、補助金や連携協定という形で後押しを受けられる可能性がある。不動産経営で培った「地域との関係づくり」の経験は、ここでも大きな武器になる。

 馬は地域を動かす存在になり得る。私はこれからの馬の事業を、競馬の世界だけに閉じ込めてはいけないと思っている。引退馬を支え、地方に産業をもたらし、人と馬が共存できる環境をつくる。これは馬主としての社会的な責任であると同時に、新しいビジネスの種を育てることでもある。不動産経営で「地域に価値を生む」経験を持つ人こそ、この分野で大きな役割を果たすことができると信じている。

 私自身、レースの結果だけを追いかけていた頃と、引退馬の行く末や地域への貢献を考えるようになった今とでは、馬の事業に対する見方が全く違っている。そして馬と社会貢献を掛け合わせた事業に取り組む経験は、不動産経営者としての自分をより豊かにしてくれると感じる。

 不動産経営をしている人にこそ、馬を通じた社会貢献に目を向けてほしい。そこに、利益と社会貢献が両立する、新しい事業の形が見えてくるはずだ。


仲尾正人氏(三重県桑名市)
2015年に地方競馬馬主、23年にJRA馬主に登録。25年より一般社団法人愛知県馬主協会会長。通算100勝・累計賞金1億1000万円を達成する。生産・育成・厩舎と広く連携し、不動産経営と馬主事業を融合させた新しい資産形成モデルを提唱する。


(2026年9月号掲載)

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