「最期まで暮らせる賃貸」を地主の土地活用に ―ノビシロ

土地活用賃貸住宅

<<特化型賃貸で資産活用>>

独自の運営で実現した多世代交流型賃貸住宅
「最期まで暮らせる賃貸」を地主の土地活用に

築20年を超えるアパートでありながら、周辺の新築物件の相場を2割近く上回る賃料で入居者を集める。そんな賃貸住宅を運営しているのがノビシロだ。同社が神奈川県藤沢市で運営する「ノビシロハウス亀井野」は、高齢者と若者が同じ建物で暮らす多世代交流型賃貸住宅であり、高齢者の孤立を防いでいる。こうした住まいを提供する場合、福祉目的が強く収益性が軽視される場合も多いが、同社の特長は、地主にとっても収益性の高い土地活用として提案できる点だ。ノビシロの鮎川沙代社長に、その仕組みと事業に込めた思いを聞いた。

ノビシロ(東京都港区)
鮎川 沙代社長

 

築古でも賃料は相場超え その暮らし方に人が集まる

 ノビシロハウス亀井野は、小田急電鉄江ノ島線六会日大前駅から徒歩10分ほどの場所に立つ。2004年築の軽量鉄骨造で、住戸はワンルーム8戸。21年に改修し、ノビシロハウスとして運営を開始した。

 入居するのは高齢者と「コミュニティメイト」と呼ばれる若い世代だ。だが、ここでいうコミュニティメイトとは、福祉の有資格者を指すものでも、介護や身の回りの世話を求める仕組みでもない。割安な家賃で暮らす代わりに、高齢の入居者に原則週2回以上声をかける役割を担う普通の入居者を指す。

 廊下ですれ違った際に声をかける、最近の出来事を聞く、食卓を囲む。そうした緩やかな関係を日常の中につくることで、体調や暮らしの変化にも気付きやすくしている。

 特徴的なのは、こうした運営が福祉や社会貢献だけで終わらず、賃料にも反映されていることだ。ノビシロハウス亀井野の高齢者向け住戸の賃料は月額8万円だが、同エリアの新築ワンルーム相場は6万円台後半。築年数や駅からの距離だけで比較すれば、むしろ相場を下回っても不思議ではないが、この価格でも暮らし方そのものに価値を感じる入居者が集まってくるのだという。

 相場よりも高く賃料設定できる魅力が、ノビシロハウスの収益構造の肝でもある。全住戸の約8割を周辺相場と比べて高めの賃料で一般入居者に貸し、残る約2割をコミュニティメイトに、その半額程度で貸す。
「地主さんへの支払いを減らして社会貢献をするのではなく、入居者が感じる暮らしの価値を賃料に反映することで、地主さんの収益と見守りやコミュニティーなどの運営に必要な費用の確保を両立させています」(鮎川社長)

 同物件の魅力の高さは、相場賃料以上でも入居者募集への反響が多いことからわかる。実際、同物件の入居者募集は一般の賃貸ポータルサイトには掲載していないが、テレビなどでノビシロハウスを知った人から同社サイトに問い合わせが入る。そして退去が決まると、クリーニング期間中に次の入居者が決まるという状況が続いている。開設から約5年、入居者が見つからなかったことは一度もないと鮎川社長はいう。

 「私たちが提供しているのは、ノビシロハウス亀井野という物件そのものではなく、『ノビシロのある暮らし』です。だからこそ、築古でも周辺の新築相場以上の賃料で貸すことができます。退去後も、長くて1カ月、通常は2週間ほどで次の入居者が入ります。空いてから探すのではなく、退去が決まった段階で次の人が決まっている状態です」(鮎川社長)

 また入居については、一定の条件を設けている点も特徴だ。ノビシロハウス亀井野では定期的に開くお茶会は入居者全員が参加し、有志で開催される夕食会には希望者が集まる。そのため入居前に、入居希望者本人がお茶会に参加することを必須としている。交流のある生活を本人が望んでいるかどうかを確認するためだ。開設当初、本人が見学しないまま家族の希望で入居したものの、本人は人との交流を望んでおらず、早期に退去してしまうという経験があった。それ以降、鮎川社長自身が入居希望者と会い、ノビシロハウスの暮らしに合うかどうかを判断するようになったという。

 「人と関わることが本当に嫌な人には、ノビシロハウスは合いません。ただ、きっかけがあれば輪の中に入れる人や、少し背中を押してもらいたい人には合う。最初の失敗から、家族だけでなく、必ずご本人に来てもらい、ご本人がこの暮らしをいいと思うかを確認するようになりました」(鮎川社長)

▲入居説明会では社長自ら思いを伝える

家主が高齢者を断る理由は仕組みで解決できる

 鮎川社長は、もともと不動産業界の出身ではない。九州で約10年間、フリーターとして働いていた。転機となったのは11年の東日本大震災だ。社会の役に立つためにとにかく雇用をつくろうと考え、何も決めないままスーツケース1つで上京した。

 しかし、仕事も住まいもない状態での部屋探しは難航。そして、その際に部屋探しを依頼した不動産会社の対応にも疑問を感じたことが、翌12年、未経験から賃貸仲介会社エドボンドの立ち上げにつながった。

 同社は広告による集客に頼らず、顧客からの紹介やリピーターを重視した。外国籍の人、生活保護受給者、仕事が不安定な人など、他社で断られた人の仲介にも対応した。丁寧な接客が口コミで広がり、やがて個人の住み替えだけでなく、企業のオフィス移転や社宅探しも依頼されるほどになったという。

 そんな中、高齢者の住宅問題に気付いたのは15年ごろだった。60代後半の単身男性から、東京都内で家賃15万円ほどの1LDKを探してほしいと依頼された。男性には十分な資産があったが、すでに退職しており、年齢を理由に入居審査を通過できなかった。数多くの物件を当たったものの、鮎川社長は依頼者に「見つけられませんでした」と伝えた。これまでどんな人であっても住まいを見つけることができた鮎川社長にとって、これは相当な衝撃だったという。

 この時まで「外国人やLGBT(性的少数者)などが入居を断られる背景には、貸主の偏見があると考えていた」と鮎川社長は話す。しかし、偏見だからこそ、必ずどこかには逆に受け入れてくれる価値観の人がいるため部屋探しはできた。だが、高齢者を断る貸主には、孤独死や認知症、ごみ屋敷化、ほかの入居者への影響、物件の資産価値低下など、具体的な不安があった。

 「高齢者の場合、大家さんが心配しているのは、必ずしも家賃滞納ではありません。認知症になってごみ出しができなくなる、ほかの入居者に迷惑がかかる、室内で亡くなって発見が遅れるなど、所有物件の資産価値が下がる出来事が起こるのではないかという不安です。仲介会社として『責任を取れるのか』と聞かれたら、当時の私には取れませんでした。ただ、断る理由が具体的なら、仕組みをつくることで解決できるとも思いました」(鮎川社長)

 当初考えたのは、見守りセンサーの導入だった。室内での動きを感知し、一定時間反応がなければ知らせる機器を約500台仕入れた。亡くなった場合も早期に発見できれば、貸主の不安を軽減できると考えたためだ。

 しかし、準備を進める中で違和感を抱いた。亡くなった後、早く発見されることが、高齢者本人の望む暮らしなのか。貸してもらうことだけを優先し、入居者の幸せを置き去りにしているのではないかと考えたという。

 「見守りセンサーは部屋を貸してもらうための仕組みにはなります。でも、高齢者は、亡くなったらすぐに発見してもらうために部屋を借りるわけではありません。亡くなるまでの間、どんな暮らしをしたいのか。最期まで幸せに暮らせる賃貸住宅とは何かを考えなければ、根本的な解決にはならないと気付きました」(鮎川社長)

 そこで、認知症ケアに取り組む介護事業者や訪問診療の医師、研究者らを訪ね、地域包括ケアについて約3年間学んだ。医療・介護関係者の勉強会にも継続的に参加し、不動産の側から高齢者の地域生活を支える方法を模索した。そして19年9月、高齢者の住まいの問題を解決する会社としてノビシロを設立した。

土地活用の1つとして「死ねるアパート」の選択肢

 ノビシロハウスを増やす際の基本的な事業スキームは、一般的な賃貸住宅の土地活用に近い。地主は所有する土地に合うように建物を建築し、土地と建物を保有する。ノビシロは土地の条件に合わせて設計や賃料計画を提案し、完成後に建物を一括で借り上げて、入居者募集から日常の運営までを担う。あるいは、すでに地主が土地に加えて建物も所有している場合には、その築年数がたった建物をリノベーションして活用することもあり、ノビシロハウス亀井野はこのパターンだ。

 地主にブランドや運営方法だけを提供し、地主自身に運営してもらうのではない。ノビシロが同物件での暮らし全体を支えるのが基本スキームとなっている。

 「土地活用を検討している地主さんに、一般マンションや介護施設と並ぶ土地活用の選択肢としてノビシロハウスを提案します。土地と建物は地主さんに所有してもらい、私たちが一括で借り上げ、運営までさせていただく。地主さんから見れば、1つの不動産投資商品として判断してもらえる仕組みです」(鮎川社長)

 地主にとっては、建物の売却や転用など出口を確保しやすい点も利点になる。ノビシロハウスは、介護施設ではなく、あくまで一般の共同住宅であることも特徴だ。バリアフリーへの配慮は行うものの、特殊な介護設備の設置は前提としない。そのため、将来的に一般賃貸に転用したいとなった場合も、特に建物に大きな工事などを行うことなくそれが可能となる。

 入居者も暮らし方を目的に入居するため、築年数の経過に伴う賃料下落の影響は受けにくいとみる。実際にノビシロハウス亀井野ではそうだという。

 一方で、どの土地でも成立するわけではない。高齢者が地域で生活することが前提のため、スーパーなどの生活利便施設が徒歩圏にあることや、地域住民が行き来しやすいことが求められる。また介護施設ではないため、体の状態や本人・家族の意向によっては、別の住まいに移るケースもある。

 鮎川社長が目指すのは、どのような状態でも住み続けることを強制する住宅ではない。本人が望む限り、外部の医療や介護サービスを利用しながら、地域の賃貸住宅で暮らし続けられる選択肢をつくることだ。
「施設や病院だけでなく、賃貸住宅でも最期まで暮らせる社会にしたいと思っています。言葉は強いですが、私たちがつくりたいのは自分らしく暮らせる『死ねるアパート』です。その選択肢を提供したいのです」(鮎川社長)

31戸の2棟目を東久留米に 40年までに100棟が目標

 27年には、東京都東久留米市で2棟目を開業する予定だ。5階建て31戸で、同年5月に完成し、6月から入居を目指している。

▲2棟目のノビシロハウスは27年に東京都東久留米市で開業予定だ

 ワンルーム8戸のノビシロハウス亀井野に対し、規模は約4倍となる。コミュニティメイトも2人から6人に増やす。さらに、2人で暮らせる広めの住戸も設け、夫婦や親子での入居を想定する。1階には地域住民も利用できる飲食店を設ける。

 開設の約1年前から地域との関係づくりも始めた。26年3月には近隣で「ノビシロのある暮らし体験会」を開催。生き方や住まい、死後に残したいものまでを考える参加型のワークショップなどを行った。

 建築確認が下りる前から入居希望者からの問い合わせが相次いでいる。7月に行った説明会では、予約枠60人のところ、90人以上の予約が入った。次回のイベントにもすでに予約が入り始めているほど反響は大きい。

 「東久留米という場所を最初から希望していたのではなく、『次のノビシロハウスが東久留米にできるなら、そこに住みたい』といってくれる人がいました。地主さんは土地を動かすことができません。だからこそ、立地だけで人を集めるのではなく、暮らし方を目的にその土地へ来てもらえることは、土地活用として大きな強みになると思います」(鮎川社長)

 ノビシロが掲げる目標は大きい。具体的には2040年までに100棟計画という目標を立てているが、鮎川社長によると、それでもまだまだ足りないとのことだ。国内には賃貸住宅に住む高齢者単身世帯が300万世帯ほどある。仮にその1%が入居するとしても3万戸が必要になるという。

 現在は、秋田県や兵庫県など遠方からノビシロハウス亀井野へ移り住む高齢者もいる。住み慣れた地域を離れることは、高齢者にとって大きな決断だ。それでも移住を選ぶ人がいる事実が、従来とは異なる生活、すなわちノビシロハウスのような暮らし方への需要を示している。

 高齢者を受け入れることを、貸主に負担を求める社会貢献で終わらせず、相場を超える価値を生む賃貸事業にする。藤沢市で実証したモデルを東久留米市で拡大させ、全国の地主に新たな土地活用の選択肢を示せるのか。今後ノビシロが手がける事業の〝伸びしろ〟には、賃貸市場から大きな注目が集まりそうだ。

(2026年11月号掲載)

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