農家の敷地を音楽スタジオなど複合施設に ―ビルススタジオ

賃貸経営リフォーム・リノベーション

<<築古という財産>>

広大な敷地の農家の母屋と納屋、石蔵を
音楽スタジオとステージを含む複合施設に

 栃木県宇都宮市の「もみじ通り」を拠点に、20年間にわたり建物再生を手がけてきた建築事務所がある。ビルススタジオ(栃木県宇都宮市)だ。同社の塩田大成社長は、建築家としての設計力と宅地建物取引士としての実務能力を組み合わせ、これまでに飲食店やコインランドリー、民設図書館など、約150件の再生案件をプロデュースしてきた。

 ビルススタジオ(栃木県宇都宮市)
塩田大成社長

月約21万円の収益を生み出す

 2025年にオープンした「さなっぱ」は、もともと広大な敷地を持つ農家の母屋・納屋・鉄骨事務所、そして大谷石の石蔵で構成されていた建物を音楽スタジオにコンバージョンした事例だ。

 再生のきっかけは、70代になるオーナーの夫人が趣味のドラム練習場として石蔵の活用を希望したことだった。同社はこれを単なる個人利用に留めず、収益を生む複合施設へと転換させた。

 石蔵は3室のレンタル音楽スタジオへ、納屋はライブが可能なステージへと改修された。さらに、建物の間にあった200㎡超のアスファルトを剥がして天然芝の広場を創出。この空間を囲むようにカフェやエステ、フラダンススタジオなど、10㎡~50㎡程度の小規模な4店舗を配置した。改修費はおよそ3000万円。

 塩田社長は「オーナーが長く無理なく事業を続けられるよう、オーナーの日常的なオペレーション負担が少ない『家賃収入モデル』を提案しています。宿泊施設のような複雑な運営が必要な業態を避けました」と話す。

 入居テナントの募集は自社サイトのみで行われたが、コンセプトに共鳴するテナントによって全区画が埋まるなど、不動産としての高い引き合いを獲得。月21万円ほどの収益を生み出している。

再生後も訪問し繁盛具合を確認

 同社がこれまでに手がけたプロジェクトは違法建築の建物を適正化して商業施設にコンバージョンした例や、ホテルをシェアハウスに用途変更した例などがある。宇都宮市内にほぼ集約されており、特にもみじ通り商店街周辺の徒歩300m圏内に集中している。

 また、「建築をつくって終わり」とするのではなく、完成後も塩田社長が自ら客として定期的にその場所を訪れるという。

 

 「再生後が飲食店などであれば客として来店し、繁盛具合を直接確認したり、ほかの客の会話からお店の感想など、どう話しているかを把握したりするようにしています。ちゃんと盛り上がる物件をつくることができないと案件を任せてもらえなくなりますから。自分でつくった建物が市場に求められているものなのか、答え合わせは必要です」(塩田社長)

建築士×宅建士の知識で提案

 元々塩田社長は建築家としてキャリアをスタートさせたが、再生を行う中で宅地建物取引士の資格も取得。オーナーから物件活用を相談されるに従い、建築家の立場だけでは仲介や契約といった法的実務に対応できないという課題に直面し、不動産領域への参入を決意した。

 そのため同社が他の建築事務所と異なるのは、不動産的な視点を持ち、建物をどのように再生するかを提案できる点だ。具体的には「稼げる建物」への改修を提案する。「例えば『飲食店をやりたい』と相談を受けても、市場調査を行った結果、代替案を提案することもあります。また、ただおしゃれな物件にするのではなく、改修費も無理のない範囲で行い、費用をかけるべきポイントも助言します。かかる改修費も200万~2億円と幅広いです」と塩田社長は語る。

 現在では、物件の取得からマーケティング、企画、改修設計、入居付けまで、運営以外のプロセスを一気通貫で提供。

 対応領域を広げたことで、広告を打たずとも、紹介やOB顧客からの追加依頼を中心に受注を確保している。

周辺地域全体の価値向上に寄与

 塩田社長も宇都宮市出身。自身の身近な人たちの生活圏が衰退することを避けたいという切実な想いが、店舗誘致や住宅再生を生み、周辺地域全体の価値向上に寄与している。

 大学卒業後、設計事務所での勤務や留学などを経て06年に30歳で個人事業主として独立。11年に地元・宇都宮でビルススタジオを設立した。

建物の間にあった200㎡超のアスファルトを剥がして天然芝の広場に。来場者の憩いの場として生まれ変わった

 「私が建物の再生に取り組む原点にあるのは、エリアの価値を向上させたいとかそんな大それたことじゃないんです。『家族や友人、そして自分自身が豊かに暮らせる場所をつくりたい』と思っているだけ。でも、ありがたいことにそれがちゃんと地域住民にも喜んでもらえている。これからもそういう建物をつくっていきたいですね」(塩田社長)

同社がこれまで手がけた事例

木造アパートの1階を民設図書館へ
 空室が多かった木造アパートの1階を民設図書館「もみじ図書館」に。共用部として図書館をつくり、物件の価値を向上させた


(2026年11月号掲載)

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