<<まちづくりの現在地>>
多様な人々を地域に呼び込む 築古物件で生み出す経済活動
地方都市における「まちの再生」には大都市とは異なるコンセプトや手法が求められる。人口減少エリアの中で「小さく生んで、小さく育てる」ことや「一本足打法にしない」再生などだ。北陸の福井県でエリアの再生において成果を上げている2人の仕掛け人に迫った。
Case1 商店街再生
小さな開発で広がるまちの彩り 支えるのは地元に根づいた個性ある店
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まちづくり福井(福井市) 松尾大輔社長 総務省に入省後、地方行政や地域政策に携わり、福井県観光振興課長などを歴任。北陸新幹線開業期の観光施策にも関わる。退職後はまちづくり福井に参画し、JR福井駅周辺のエリアマネジメントや中心市街地の活性化に取り組む。 |
2024年に北陸新幹線の金沢|敦賀間が開業してから、新たに福井のアイコンとなった恐竜のイラストやオブジェが来訪者を出迎えるJR福井駅。西口を出ると目の前にはホテル、オフィス、飲食店などからなる複合ビル「FUKUMACHI BLOCK」、そして左手には複合施設「Happiring」がそびえ立つ。新幹線の開業から2年たった今も、駅前の開発はまだまだ活発に続いている。
だが、複数あるタワーマンションの建設現場を横目に6分ほど歩くと景色は変わり、昔ながらの低層階の商店が並ぶ「新栄商店街」が現れる。
1948年の福井地震後の闇市から始まった、70年近い歴史を持つこの商店街は、バブル崩壊以降徐々に客足が遠のき、近年ではいわゆるシャッター商店街と化していた。そんな中、空室になっていた店舗を使った「コノジナガヤ」が2025年にオープンした。

「ナガヤ」という名称が示す通り、この施設には小規模な7つのテナントのほか、シェアオフィスとシェアキッチン・イベントスペースが連なるように入居している。一点物の古着を扱うセレクトショップや国際的な活躍をする地元出身のアーティストのギャラリー、そしてスウェーデンとスリランカの紅茶を取り扱うこだわりの紅茶専門店といった、個性豊かな店がそろう。さらには古き良き福井駅周辺の雰囲気を求めていた元駅前店舗のオーナーが経営するカフェや、かつて同じ場所でカフェを営んでいた店主など、地元に密着したテナントがコノジナガヤを盛り上げる。
- ▲長屋の躯体を生かし、店舗が並ぶ ◀シェアオフィスの天井にかつての建物の表情が見える
もともとここには1階が店舗、2階が住居の築70年ほどの長屋が3棟立っていたという。5年前から新栄商店街の再生に関わり、このコノジナガヤの再生・企画を行ってきた地元の第3セクターがまちづくり福井だ。松尾大輔社長は次のように話す。
「約10年前まで人が住んでいた長屋もありましたが、40年前にはすでに空き家になっていたものもありました。ですから正直なところ、初めて長屋を目にした時は『朽ちていく建物』という印象を抱きました」
そんな老朽化した物件をあえて再生することになったのは、商店街の地権者たちから、まちづくり福井へ相談が持ち込まれたことがきっかけだった。
補助金利用を念頭に置く 3戸の長屋を1つの建物に再生
22年に福井県と福井市が「県都まちなか再生ファンド」を創設した。このファンドの中に新栄商店街向けのプランが設けられることになったのだ。小規模な2つ以上の連なる建物を共同でリノベーションした場合、補助上限額が高くなるというものだった。
そのタイミングで商店街の入り口に近い長屋3棟の地権者4人から「うちの物件を使ってみないか」と提案があった。そこで松尾社長は、この物件の再生に補助金を使いモデルケースをつくっていこうと考えたという。
「3棟の長屋に少し手を加えて貸し出せるレベルにリノベしたとしても、それは結局シャッター商店街をつくることと変わりないと思いました。それを防ぐためには、全く違うリノベ方法で建物に新たな役割を与える必要があると判断したのです」(松尾社長)
3つの長屋を1つの建物のようにリノベする再生法は、長期目線での経営を考えたときに理にかなっていた。またハード面から考えても、この再生法にはメリットがあった。長屋が柱を共有していたため、集合リノベをしやすかったからだ。
リノベ費用をなるべく抑えることと築古長屋の持つ「昭和のノスタルジー」の雰囲気を生かすことを考え、できる限り既存の建具を使用した。しかし、築70年超の建物に向き合う作業は苦労の連続だった。
「設計図どおりに全然いかないというか、開けてみないとわからない状態。設計図が本体を追いかけてくるようなものでした」(松尾社長)
いざ工事が始まってみると柱の下部分が腐り落ちている箇所が多数。どこかのタイミングで違法に建てられた3階部分を解体する必要もあったが、解体の順番によっては残すべき場所にも影響が出てくる。
「この長屋、よくここまで持ったな、というのが正直な気持ちでした」(松尾社長)
こうして苦労をしながら柱や外壁、梁をできる限り残した松尾社長が念頭に置いたのは「明るさ」の創出だった。
「ノスタルジーはありつつも、古い物件特有の薄暗くちょっと怖い部分をなくして明るさを出したい。相反するこの2点をどうにかしたいなと」(松尾社長)
そこで役に立ったのが、長屋時代にごみ捨て場になっていた建物裏側の細い通路だった。長屋は商店街の通りに向かって、背中合わせで立っていた。そのため、建物の裏手に細い通路があった。通路といっても人が通るというよりはごみが置いてあるニッチ部分。以前は長屋をより古く、汚く見せていた部分でもあった。
この通路を生かして「コの字」のように中央に空間を作り出した。その結果として建物内に日の光が入り、明るさが届く形に落とし込めた。これがコノジナガヤの名前のゆえんにもなり、特徴にもつながった。
▲コノジナガヤのテナントや共用部。コの字にしたことで建物の中に日が差し込む
リノベの総工事費は約1億6000万円。そのうち約7700万円を補助金で賄った。
こだわったのはテナント賃料の設定だ。駅前の商業施設では坪2万円程度で賃料を設定している。大手の飲食店しか出店できない金額だ。
「それではまちづくりとしてはうまくいかない。小さくても『光る』店をどれだけ集められるかが重要。まちの多様性―私は『まちの厚み』と呼んでいますが―につなげるためです」(松尾社長)
コノジナガヤではテナントには坪1万円程度の賃料で貸し出しており、回収期間は20年を見込んでいる。
「この物件で大きく収益を上げるのではなく、あくまでもモデルケースをつくっていきたいと思っています」(松尾社長)
築古再生にある 既存不適格という問題
築古物件を持つオーナーにとって、共通の課題になってくるのが既存不適格の問題だろう。既存不適格とは、建築当時は適法だったものの、法改正や都市計画の変更により、現行の建築基準法に適合しなくなった建物のこと。例えば、セットバックして接道部分を増やさなくてはならなくなることが多々ある。収益物件では、それだけ収益化できる面積が減ってしまうことにもつながる。コノジナガヤの場合もセットバックの必要はあった。
リノベという手法を取れば、セットバックは不要になる。さらにコノジナガヤの場合は、昔の風情を残し、入居テナントを引き付ける魅力にもつながった。

▲床の間を残したことでノスタルジックな雰囲気となった
スモールスケールが肝 地方都市での小さな開発
松尾社長はまちづくりを一言で表すと「持続的な地域経済の活性化」だという。
「新幹線ができたからとりあえず行ってみようと考える観光客はしばらくはいるでしょう。ですが、その人たちが今後も継続的に来てくれるわけではありません。まちのにぎわいを維持するためにはまず地元住民が楽しめないといけないわけです。住民が足を運ばない場所は結果として経済が回らなくなり、飲食店すら撤退していきます。行き着く先はまちの廃虚化です」と松尾社長は強調する。
大手の飲食店しか出店していない場所では、次第に訪れる理由がなくなってしまう。一方で、物販やギャラリーといった光る個性を持つテナントが出店すれば何度も訪問する理由になる。ゆえに、そうした個人店が入居できるよう賃料を低めに設定して、出店のハードルを下げる必要があるのだ。
さらに、人口減少でマーケット自体が縮小する時代では、スモールスケールのビジネスが地方都市を救うと松尾社長は語る。
「スモールスタートをすれば、損益分岐点も低くなります。大もうけはできないけれど、自分の手の届く範囲でこだわりのある商売をする。1日に10~20人の来客があれば十分成り立つような商売もある。そうした小さくとも魅力的な店をどれだけつくれるかが、小規模な地方都市の生き残る道になるのではないでしょうか」(松尾社長)
「小さく生んで、小さく育てる」スケールでのエリア開発が、地方都市でのキーワードになりそうだ。
Case 2 築古ビル再生
「負動産」に複数のキャッシュポイントをつくる
成功のカギは補助金利用とソフト面の管理
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ピンタイ(福井市) 高岡勇治代表 2004年、明治大学経営学部卒業。07年、早稲田大学芸術学校建築設計科卒業。UDS上海事務所を経て16年に独立。出身地・福井県にて企画設計事務所としての活動を軸に、自社プロデュースによる築古ビルの再生や家具建材の商品開発などを行う。 |
コノジナガヤがある新栄商店街からさらに西へ10分ほど行くと、趣のある建物が散見されるエリアに入る。かつて花街として栄えた浜町だ。中央大通りを挟んで反対側は片町。こちらは古くからの歓楽街で、現在も飲食店が立ち並ぶ。
「福井市は第2次世界大戦、そして続く福井地震で一度街が壊滅しました。その後、昭和30年代に復興したという歴史があります。そのため築60年前後の同じような規模のビルが多く存在しています。こうしたビルは現在、オーナーの高齢化や相続問題で空室化しているのです」
こう話すのは、このエリアで3棟の築古ビルを再生し、管理・運営を行うピンタイの高岡勇治代表だ。2018年、初めて運営に関わった「CRAFT BRIDGE(クラフトブリッジ)」は、築50年超の3階建て。もともと賃貸住宅とオーナー住居があったRC造物件だったが長年空室化していた。この物件の1階を日本酒バーとオフィスに貸し出し、2階をコワーキングスペース化。3階はキッチン付きレンタルスペースとして運営している。
22年にオープンした「LUFF」は築60年ほどの元服飾専門学校の校舎で、20年近くも使われていなかった建物だった。再生によって1階は飲食店に貸し出し、2、3階をシェアオフィスとして運営。3階にはレンタルスタジオも備える。
- ▲かつての専門学校そのままの外観
- ▲LUFFのシェアオフィス
最も新しく25年にオープンした「HATTO」も、築50年を超す3階建てのビル。1階に帽子屋が入居していたものの、13年前に退去。賃貸住居や洋品店だった2、3階も相続後に空室になっていた物件だ。現在は1階にポップアップイベント向けのスペースとサロンが、2、3階にはそれぞれ1室ずつのマイクロホテルがある複合ビルとなった。2階ではレンタルキッチンも運営している。

▲左からHATTOのホテル部分、ポップアップ向けスペース、レンタルキッチン
3棟とも築古で空室期間が長く、いわゆる「負動産」となっていた物件ばかりだった。しかし現在、コワーキングスペースとシェアオフィスはどちらも満床。マイクロホテルの稼働率も70〜90%と順調だ。長い年月、賃料収入がゼロ、固定資産税を考えるとマイナスになっていた物件を再生によって見事に収益につなげている。
高岡代表の再生スキームには共通点がある。①既存の内装を残しリノベのコストを下げること②補助金を活用すること③1つの物件で複数のキャッシュポイントをつくること。そして再生後には④運営に関わることだ。

▲HATTO外観はかつての洋品店の看板そのまま
5割を残して造り替える 3年での投資回収を目指す
築50年超の建物の再生となると、費用はいくらでもかかってしまう。そこで①リノベのコストを下げるために同社では既存の内装を50%程度生かすことを念頭に置く。古い床やタイルなどの建材をそのまま使うことで、建物の持つ歴史の積み重ねによる魅力を引き出しつつ、改修コストを抑える効果があるからだ。
そして基本的に外壁はそのままにする。リノベ費用を抑えるだけでなく「外の古さと中のおしゃれな雰囲気」というギャップも利用者の心をつかむ要素になる。
「当社がビル再生を考える時、リノベのコストをできるだけ下げることによっておおよそ3〜5年で投資回収することを念頭に置きます」(高岡代表)
それに加えて、同社の再生事業をサポートするのが②の補助金活用だ。
HATTOでは市が行う多様な宿泊施設整備支援事業を申請。リノベ費のうち、1000万円を補助金で賄うことができた。
またLUFFでは県と市の協力のもと地方創生テレワーク交付金を申請。約1600万円の補助を受けるなど、効率的に資金調達を実現した。
キャッシュポイントは複数 物件ありきで企画を立てる
次に、③複数のキャッシュポイントをつくることについて、高岡代表は「一本足打法で、1つの用途に特化してしまうと心もとない。そこでビルを複合施設として再生します」と説明する。
同社の場合、基本的に賃料が高く設定でき、入居付けに苦労しない1階部分はテナント貸しにする。一方で、苦戦の可能性がある2、3階を自社で運営している。自社運営しつつ、1つの使い方だけでなく、ホテルとシェアキッチンを併設したり、シェアオフィスとレンタルスタジオを備えたりする。
どういった用途の複合施設にするのかは、建物によりけりだ。
「例えば、HATTOは住戸として使われていた部分を生かしてマイクロホテルという選択ができました。だからといってほかの物件もホテルに再生できるかといえばそうではありません。ビル再生の場合、絶対にこの形に再生したいという当社としての希望はなく、建物の構造や立地などの条件をトータルで考えます」(高岡代表)
運営としてしっかり関わる 人と人、人と建物のハブになる
そして最後のポイント④再生後の物件の運営に関わることは、同社のビル再生には欠かせないものだという。高岡代表自身が運営にしっかり関わり、ソフト面を充実させている。これを裏付けるのがCRAFT BRIDGEの成功だ。
- ▲CRAFT BRIDGEの外観
この物件は、もともと別の運営会社が16年に最初の再生を手がけた。福井の工芸を世界に発信する場所として、ものづくりに携わるクリエーター向けのコワーキングスペースとして再生したものの、管理・運営に課題を抱えていた。
そこで高岡代表が運営を請け負うことになったのだが、その直後、新型コロナウイルス禍が発生。前運営者から引き継いだ利用者がすべて契約を解除してしまったことでゼロからの募集となってしまった。
「なかなかつらかったですね」と今でこそ笑って話す高岡代表だが、運営を引き継いでからは「クリエーター向け」というコンセプトを緩めて、広く利用者を募った。
自社ウェブサイトを制作しSNSでの発信も行った。問い合わせにも迅速に応対するようにすることで、徐々に契約者が増えていった。
「21年になると、事業規模を縮小したのでコワーキングスペースで十分という会社や、福井市にIターンやUターンでやって来る人たちからの問い合わせが増えました」(高岡代表)

▲屋上で行われたイベントの様子
一度はコロナ禍によりゼロになった利用者だが、今度はテレワークや地方移住といった同時期に生まれた新しい動きに後押しされた。CRAFT BRIDGEでは現在、20社ほどが契約しているという。
こうした利用者と顔を合わせて話し、時には利用者同士をつなげる役割を担うのも運営者である高岡代表だ。利用者がラウンジを使ってイベントを行う時は顔を出す。
特に築古ビルの再生となると、建物そのものに魅力があるわけではない。何か新しい価値を与えなくては再生にならないが、その際、見た目を整えてオフィス仕様の家具を入れただけでは価値にはなり得ない。
運営側がしっかり発信を行い、対応し、人と人、人と建物をつなぐハブとしての役割を担えるかが大きなカギになっていく。
▲キッチン付きレンタルスペース(左)とコワーキングスペース
築古物件の持つ混沌感 多様な人々を呼び込む建物に
以上のような共通点を持ちながら築古ビルの再生を続ける高岡代表。建築費の高騰で、新築物件に建て替えることが難しい時代、再生という形がビルオーナーにとってますます現実的な選択肢になってくるという。
ただそれは、新築ができないから仕方なくというネガティブな側面だけではなく、特に地方都市では人を引き寄せる魅力に変えられると考える。実際に、LUFFのシェアオフィスには個人事業主もいれば、大企業の福井支社がテレワークオフィスとして契約しているケースもある。
「築古ビルと一口に言っても60年かけて積み上げた魅力を持つとも考えられます。歴史や周辺の人の流れをくんで今の物件がある。過去と現在の混こん沌とんとした感じは1つの『クールジャパン』として、海外からの利用者を引き付けると思っています」(高岡代表)
中国・北京を中心にアジア圏での長年の勤務経験を持つ高岡代表だからこそ、根源的なところで人種や国籍に関係なく多種多様な人が混じり合う場所づくりをしたいという思いがある。そのためにも、関係事業者の理解がもっと広がるべきだと感じているという高岡代表。
「銀行、不動産会社、施工会社、職人まで含めて、新しい考え方を共有していく必要があります」(高岡代表)

▲LUFFの共用部は高岡代表が過ごした中国の雰囲気を持っていたり、専門学校時代のミシンをインテリアに置いたりするなど、センスが光る
(2026年6月号掲載)








