<築古という財産>
古い蔵に新たな命を吹き込む
移築で実現する伝統の承継
利用も解体もされずに放置されている蔵。エブリプランでは、そのような蔵を移築という形で再生させる事業を行っている。所有者の頭を悩ませていた不動産が、別のオーナーの元で新たな役割を担うことができる。解体でも、放置でもない「第3の道」として注目される。

島根県に残る蔵
エブリプラン(島根県松江市)
事業創発室
守山基樹室長

いにしえより続く移築の技法
放置された蔵を救うカギに
エブリプランは1996年の創業以来、人口減少が進む島根県で地域創生に特化したコンサルティング事業を手がけている。その中で2023年、古民家と蔵の移築事業を開始。26年4月には同事業をさらに幅広い層に届けるため、蔵に特化したサービスとしてリリースした。
同サービスでは、エブリプランが蔵を手放したい人から譲り受け、購入を希望する事業者の敷地へ移築・再生する。移築とは、建物の柱や梁などの部材を取り外し、別の場所に運んで再び組み上げる建築手法のこと。この技法自体は古くから日本で行われてきたものだ。
「製材コストが高かった時代は、部材を使い回すほうが経済的でした。そこで、再利用を前提にしたくぎを使わない木組み構造が発達し、移築という技法が用いられるようになったのです」
こう話すのは同サービスを担当する事業創発室の守山基樹室長だ。京都大学の建築学科で助教を務めた後、島根県にUターンした。もともと大学時代より同県の古民家に着目し、研究してきた守山室長。島根県には特に質の高い建築技法で建てられた古民家や蔵が多いのだという。というのも、島根県はかつて「たたら製鉄」や「北前船」の流通拠点として栄え、商家やその蔵が数多く建てられたからだ。
しかし近代化の波に乗り遅れ、人口は急減。結果として古い建築物は引き継ぎ手が見つからず、所有者が解体費用を工面できないまま放置されるケースが多くなっている。そうした古民家や蔵は居住要件を満たすこともできず「空き家バンク」にも登録できない。
「そうなると、所有者に代わって行政が建物の解体まで含めた処置を行う『行政代執行』がなされるリスクがどんどん高くなっていきます」(守山室長)
一方で、こうした古民家や蔵に魅力を感じて利用したいというニーズもある。守山室長がその可能性に気付いたきっかけは「東京ビッグサイト」で開催されていた見本市「インテリアライフスタイル」に、解体した古民家 の梁を展示した際の来場者の反応だった。
- 浴室の天井に移築された唐傘天井
- 床のタイルは古民家の屋根瓦を用いた
「その時、意外にも『蔵を使いたい』という声が来場者から多く聞かれたのです」(守山室長)
そこで放置されている古民家・蔵と利用希望者をつなぐアイデアが生まれた。
同社が最初に手がけた移築プロジェクトは、24年に行った宿泊施設「輪島屋」の事例だ。出雲大社の裏手にある集落・鷺浦に残された古民家に、島根県江津市の古民家の一部を移築した「空き家と空き家のドッキング」だった。
昭和初期に建てられた江津市の古民家からは利用可能な部材を移築。例えば、唐傘天井を浴室の天井に移設し、屋根瓦をカットして浴室タイルに転用。敷地内にあった蔵は個室風呂へと改修した。
「古民家をただ保存するのではなく、現代のライフスタイルに合わせて更新し『循環型建築』として再解釈しました」(守山室長)
新しい活用の道が示される
オーナーの安心感につながる
蔵を所有しているオーナーにとって、このサービスには3つのメリットがある。
まず1つ目は、固定資産税からの解放だ。移築により、建物分の固定資産税は課されなくなる。
2つ目は解体費が不要な点だ。基本的に、同社は所有者から蔵を無償譲渡という形で譲り受ける。しかし、そもそも解体も活用もできない建物だった点を考えると、解体費が不要というのはオーナーにとって大きなメリットだろう。
そして3つ目は廃棄物になるのではなく活用してもらえるという点だ。
「廃棄物になることは避けたいと思っているオーナーは多いです。だから誰かに使ってもらえるというのはすごく喜んでもらえます」(守山室長)
蔵の利用希望者からは、サウナや飲食店、花屋といった小規模事業の拠点として、蔵を移築して使ってみたいという問い合わせが寄せられているという。
「今回、蔵に絞ったサービス展開にした理由は、問い合わせの大半が小さなビジネス向けに利用したいという内容であるためです。蔵であれば20~30坪というサイズでカフェやサウナに適しています。3000万円前後から工事を行えます」(守山室長)
現在の蔵のストックは島根県内が中心だが、全国どこでも対応可能だという。
「製材コストが高いという理由で生まれた移築の技術ですが、時代が変わって今は『持続可能な建築』という新しい文脈で見直されています」(守山室長)
放置されている蔵を所有するオーナーにとって「生かして手放す」という選択肢になりそうだ。
移築は建物を守るだけではない。「移築を通して職人の技を伝承する機会を生み出しています」と守山室長は言う。移築のためには手作業で柱や梁の木組みを1つ1つ外していく。建築を巻き戻す作業を通して、過去にどういった工程で建てられたのかを学ぶことができる。
そしてこの技術は国内だけでなく、海外からも注目されている。実際、島根県松江市の古民家を使ったワークショップにはデンマーク人やフィンランド人も参加。また土着技術を研究・習得する専門家たちにとっても、日本古来の大工技術を学ぶ機会になっている。

▲ワークショップの様子
(2026年8月号掲載)






