築100年の空き家や洋館をホテルとパン屋へ ―PAAK DESIGN

賃貸経営不動産再生

<<文化を紡ぐ不動産>>

築100年の空き家や洋館をホテルとパン屋へ
事業として地域で使われ続ける不動産に

築約100年の空き家をホテルやパン店へ再生しているPAAK DESIGN(宮崎県日南市)。補助金と融資を組み合わせ、建物の状態や地域の需要、運営の担い手、収益性を見極めながら用途を決めて来た。こうした取り組みは、古い建物を事業として使い続ける可能性を示している同社。その取り組みについて鬼束準三社長に話を聞いた。

▲放置されていた空き家をパン屋へ改修し、直接運営している

PAAK DESIGN(宮崎県日南市)
鬼束準三社長
1983年宮崎県日南市生まれ。大学進学を機に東京に移住し、大学院、設計事務所を経て、独立したのち、Uターンで故郷に帰る。商店街活性化の取り組みを経て、17年にPAAK DESIGNを設立


 宮崎県日南市の城下町、飫肥。江戸時代の面影を残すこの街で、設計や建築、不動産活用、宿泊施設の運営などを手がけるPAAK DESIGNは、長年使われていなかった古い建物に新たな用途を与えている。

 2021年に、約20年間空き家だった築100年ほどの住宅を一棟貸しの宿泊施設「PAAK HOTEL 犀」に再生。26年6月には、同じく約20年間空き家だった大正期の建物を改修し、「ベーカリーおびにたすき」を開業した。

 2つの事例に共通するのは、古い建物をきれいに修繕すること自体を目的としていない点だ。建物の状態や地域の需要、運営を担う人材、投資額と収益性を見ながら用途を組み替え、継続的に使われる不動産へと変えている。

1日貸しで収益化

 同社の鬼束社長がPAAK HOTEL 犀の土地・建物を取得したのは、同社を創業した17年。約60坪の土地と建物を、鬼束社長の個人名義で225万円で購入した。売り出し価格は300万円だったが、老朽化した建物を将来解体する場合の費用を差し引いてほしいと直接交渉し、75万円の値引きしてもらった。

 元の所有者は宮崎市に住んでおり、両親が暮らさなくなってから約20年間、空き家になっていた。売却にあたっては、解体せずに活用してくれる人に譲りたいという意向を持っていたという。

 鬼束社長は物件を個人で保有した上、自らの手で屋根、外壁、構造部分を整備し、自身が経営するPAAK DESIGNへ建物を貸す形をとった。内装や設備、備品は法人が負担するため、スケルトン貸しに近い形だ。外観工事には約1800万円、内装工事には約1500万円を投じた。

▲2階は改修途中で、今後宿泊施設を検討している。改修前だが洋館としての味を感じる


 当初から宿にすることが決まっていたわけではない。まず住宅として貸すことを考え、その後は企業向けの賃貸オフィスも検討したという。しかし、同地域の住宅賃料は月5万~6万円程度。改修費を考えると、賃貸住宅では収支が合わなかった。企業相手なら月7万~8万円で貸せる可能性はあったが、古民家は6畳と8畳の部屋が柱や壁で細かく区切られている。自由にレイアウトを変更したいオフィスとしては使いにくいと判断した。

 「住宅として貸すには地域の賃料相場に対して工事費が見合わず、オフィスとしても間取りが使いにくい。それなら、月額で貸すのではなく、1日単位で貸せる宿泊施設にしたほうが収益性を高められるのではないかと考えました。スタッフが常駐しない宿なので、感覚としては宿泊事業というより、1日貸しの不動産賃貸事業に近いですね」(鬼束社長)

 損益分岐点として想定した稼働率は約28~30%。スタッフを常駐させない運営方法を採用することで、固定費を抑えた。現在の稼働率は38・6%で、想定した損益分岐点を上回っている。月ごとの変動はあるものの、年間の稼働率は緩やかな上昇傾向にあるという。

外観工事の8割に補助金

 多額の資金を投じての改修を可能にしたのが、補助金と融資の組み合わせだ。PAAK HOTEL 犀が立地する飫肥地区は、国の「重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)」に選定されている。市の審査を経て、建物の外観や構造など、街並みの保存に関わる工事への補助を受けることが可能だ。具体的には「伝統的建造物群保存地区内の修理・修景補助金制度」を活用した。日南市飫肥は、文化庁が定める重伝建に指定されており、街並みを保存するための補助金が支給されている。

 ただし、補助制度があるからといって、すぐに利用できるわけではない。保存地区内で補助を希望する建物は多い一方、年間に工事できる件数には限りがある。タイミングによっては、着工まで数年待つこともあるという。

 「毎年度の予算枠があり、建物の改修や石垣の補修などを順番に進めています。やりたいと申し出ても、タイミングによっては3年ほど待つこともあります。実際、次に手がけた『ベーカリーおびにたすき』では、工事をする約1年前から行政に相談し、準備を進めました」(鬼束社長)

 補助金を活用するためには、制度を調べるだけでなく、早い段階から行政と事業計画を共有することも欠かせない。

▲3000万円以上をかけて改修された古民家は、「PAAK HOTEL 犀」として宿泊施設となり現代によみがえった


 PAAK HOTEL犀では、外観工事費約1800万円に対する補助率は8割で、約1440万円が補助された。残る約360万円や物件取得費は鬼束社長が個人で負担した。一方、補助対象にならない内装や設備には別の資金が必要だった。20年に法人で約2000万円の融資を受け、そのうち約1500万円を内装整備に充て、21年に開業した。

650坪の土地を1500万円で取得

 2棟目に取り組んだ事例として、おびにたすきがある。この建物は、日南市の同社オフィスの向かいに立つ。土地は約650坪、建物は延べ床面積約90坪。以前から行政が活用候補として注目し、域外の事業者を招いて内覧会などを行っていた物件だった。

 しかし、新型コロナウイルス禍などの影響で行政主導の計画は立ち消えとなり、その後も活用されない状態が続いた。オフィスのすぐ近くにあることもあり、この物件を何とか活用できないかと考えていた鬼束社長。そこで、行政を通じて関東在住の所有者と連絡を取り、直接会って意向を確認し取得を決意したという。23年ごろから取得手続きを進めた。購入額は1500万円。取得の判断基準は、10年以上借り続けた場合の総賃料よりも購入額のほうが安かったことだった。

 今回はPAAK DESIGNが法人で取得した。最初の物件で隣地境界を巡る問題を経験していたことから、不動産会社を介し、売買前に境界も確定した。土地家屋調査士や司法書士への報酬、仲介手数料など、購入額とは別に約300万円を要した。古い不動産の取得では、建物価格や改修費だけでなく、境界や権利関係を整理する費用も見込む必要があるのだ。

 また建物の再生可能性を判断するうえで、鬼束社長が最も重視したのは雨漏りの有無だったという。

 「宮崎では、雨漏りによって木材が湿ると、すぐにシロアリが来ます。構造材が食べられてすかすかになり、建物の強度が落ちています。早ければ2〜3年で状態が大きく悪化します。この建物は約20年間空き家でしたが、雨漏りとシロアリの被害がほぼなかった。それが再生できると判断した一番の理由です」(鬼束社長)

 外観工事には約3000万円を投じた。約40カ所ある窓には、既存の木製建具を残しながら外側に新たな建具を設置。台風に備えた2重窓にした。構造専門の設計事務所による解析も行い、筋交いや2階床に火打ち材を加えて補強した。

地域資源と事業継続性

 内装や設備、外構には約6800万円を投じ、物件取得費用を除いた事業費で総額が約1億円となった。当初は建物全体を宿泊施設にする案もあったが、規模が大きく、宿泊事業だけで投資額を回収することは難しいと判断。1階には別の事業を入れることにした。

【PAAK HOTEL 犀】


 鬼束社長が考えたのは、農産物、水産物、畜産物など、日南の豊かな食を伝える場所だ。当初はレストランを検討したものの、県外から料理人を呼び、地域に定着してもらうことに難しさがあった。料理人が辞めれば事業そのものが立ち行かなくなるリスクもある。

 そこで浮上したのがパン店だった。PAAK DESIGNのスタッフの中に、東京などでパン作りを学び、自ら10年以上店を経営した元パン職人がいたためだ。最終的に同店はパン屋としてPAAK DESIGNが直接運営。地元産の食材を積極的に使ったメニューを展開している。

 「日南の食を発信する事業をしたいという思いが先にありました。レストランも考えましたが、シェフを地域に定着させることが難しい。そんな中、社内に元パン職人がいたので、もう一度パンを作ってくれないかと頼みました。ただ、パン屋の仕事は大変なので、引き受けてもらうまでに1年ほどかかりました」(鬼束社長)

 

▲(左)地元でとれる飫肥石を活用したエントランス。色を使いすぎずシンプルに仕上げている ▲(右)パンを陳列する台などは、同社が別の場所から集めてきた古材等を用いているという ◀ベーカリーおびにたすきの店内でパンは作られている。実際に製造している職人も自社スタッフだ

 

 ベーカリーおびにたすきでも外観工事費約3000万円の8割にあたる約2400万円は保存地区の補助制度を活用。残る約600万円は自己資金で賄った。また内装や設備、外構の整備には、総務省の「ローカル10000プロジェクト」を利用。地域での雇用創出や経済循環につながる事業として、2500万円の交付を受けた。

 同プロジェクトでは日南市議会の承認に加え、あらかじめ金融機関から融資の内諾を得ることが求められた。そこでPAAK DESIGNは宮崎銀行と日本政策金融公庫から合計3000万円を調達し、残る約1300万円を会社の自己資金と、鬼束社長個人から会社への貸し付けで賄った。

 「補助金だけを申請すればいいわけではありません。先に金融機関から融資の内諾を得て、それを事業計画に記載する必要がありました。自治体、金融機関、事業者の三者で計画を成立させる仕組みです。補助金を活用しても自己負担は生じるため、会社にも一定の資金余力必要でした」(鬼束社長)

 2つの再生物件の開業にあたって鬼束社長が大切にしたのは、物件の元オーナーの思いを受け継ぐことだった。

 PAAK HOTEL 犀の開業時には2日間の内覧会を実施し、それぞれ100人を超える地域住民が訪れた。その際、元所有者も招待した。この時、PAAK HOTEL 犀の改修中に屋根裏から見つかった棟札を見ながら、元所有者は、家族が建物を手に入れた当時のことや、そこで暮らしていた頃の思い出を語ったという。

 ベーカリーおびにたすきについては、元オーナーは体調の問題から改装後に同物件をまだ訪れてはいない。これについて鬼束社長は、「長く大切に受け継がれてきた建物が、新たなかたちで活用されている現在の姿を、ぜひ元家主様にも実際に見ていただきたい」と話す。

 生まれ育った土地で思いのこもった建物をなんとか残したいと考えているオーナーは多い。しかし、建物を残したいという所有者の思いだけでは、空き家を維持し続けることは難しい。一方で、収益性だけを見て解体すれば、建物に積み重なった地域の記憶も失われる。新たな用途をつくり、事業として使い続けることが、結果として建物の物語を次世代へ残すことにつながるのだ。

 もっとも、PAAK DESIGNが今後、自社所有物件を次々に増やす考えはないという。安価な空き家であっても、取得と改修を繰り返すには資金的な限界があるためだ。むしろ古い建物を活用したいと考えるオーナーとの連携を提案している。

 同社が構想するのは、建築の専門家として建物の再生可否と改修費を見立て、仕入れから改修、再販売まで行う買い取り再販事業だという。

 「一般の人が古い建物を見れば、ぼろぼろでどうしようもないと感じるかもしれません。しかし、建築事業者であれば、どこを修繕すれば再生できるか、そのためにいくらかかるかを判断することができます。市場に戻せる見込みが立てば、改修して新しい所有者へ渡すことができる。自社で何軒も所有するのではなく、地域の古い建物を活用するオーナーを増やしていきたいです」(鬼束社長)

 地域の古い建物を活用するオーナーを
  増やしていきたいです

 一棟の空き家を抱え込むのではなく、建物の可能性を考えて、事業をつくり、次の所有者や利用者へつないでいく。2つの再生事例は、地域の古い建物を使い続けるための、新たな可能性を提示している。

(2026年10月号掲載)

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