借り手を選べるバリのオーナー
皆さんお久しぶりです、夏水組の坂田夏水です。
今号から、フランス・パリの不動産について連載をします。
▲5階からの景色
難航した家探し
▲パリの家。1階が店舗で2階以上が住居となる街並み
私は現在、家族と一緒にパリで生活しています。移住して2年が経過しました。3カ月もあれば見つかり、引っ越しができるだろうと思っていたのですが大間違いで、パリでの家探しはかなり難航したのです。
日本にいるときは2~3年に1度、引っ越しを繰り返していたため、安易に考えていたのです。 夫の実家にいる間、1カ月に1~2度、物件の内見でパリに行き、初めこそパリの物件は夢があり楽しく、1日に6件程度内見しては入居申し込みを繰り返していました。
日本の場合は、申し込みに対して無視をすることはあり得ないことですが、こちらでは選ばれた人だけに連絡が入ります。一度、不動産事業者に電話をし「なぜ駄目なのか」と聞きました。彼はあきれた口調で「フランスでの年収証明が出せない人は家を借りることができない」と。日本での年収証明と銀行の預金残高は意味がなく、フランスにおいて仕事を継続して住み、収入が安定している人が求められるのです。
もちろん、それは東京でも同様ですが、パリは貸し手市場で、物件数が少なく不動産オーナーは借り手を選ぶことができます。中には、家賃をプラスいくら支払うからとオーナーにアピールする人もいるそうです。「あなたが申し込んだ物件は10件以上の申し込みがあって、あなたたちが選ばれる可能性はほぼない。今後も同じように探すならほかの手を考えたほうがいい」と教えてくれました。
そこで、私たちは知り合いのつてでの空き物件探しに切り替えました。空き物件の連絡をくれた知人がいて、オーナーに直談判。内見させてほしいとお願いし、その日のうちに申し込みました。
知人からもプッシュしてもらい、奇跡的に私たちは家を借りることができました。すでに不動産事業者に流れていたら私たちは今の家に住むことができず、パリ郊外の家に引っ越すしか選択肢がなかったのではないかと思います。
この武勇伝をフランス歴が長い知人に話したら、「やっぱりそうだったのね。途中で気付いて良かったわ」と言われました。皆さんももしパリで家探しをすることがあったら、正規では難しいことを覚えていてください。
日本の不動産市場との違い
それに比べて、日本では賃貸の借りるのがいかに簡単なことか。なぜ、このような差があるのでしょうか。 パリは東京と比べて売買も賃貸も物件が圧倒的に少ないということです。特に治安の良い中心部は探している人が多いですから、貸し手が強い立場にあります。
パリ市は東京でいうとJR山手線の内側程度の大きさです。市内での店舗は基本的に0階にあり1階は住居とオフィスが混在し、2階以上はほぼ住居です(パリでは地階は0階なので、0階が日本の1階、1階は日本の2階となります)。そして、大きなオフィスビルはパリ郊外にあります。
日本においては「銀座・和光」の向かいの建物の4階に住んでいるというのはあり得ないですが、パリの「ボンマルシェ百貨店」の向かいの建物の4階に住んでいることは普通にあるわけです。それとは反対に、パリジェンヌが「日本に行ったとき、ビルに入っているのが全部レストランで驚いたわ。みんなどこに住んでいるの」と言うこともあります。
街の歴史が違えば、建物内の構成も規制も違います。住居も店舗も、貸し手市場なので価格が下がることはありません。パリのレストランは希少価値があり、客が入らなくて困っているというようなこともないわけです。建物の歴史と用途が違えば、不動産の価値も変わるのだと体感した家探しでした。
▲室内
▲中庭
建材紹介
今号より、パリで使われている壁紙やタイル、床材や金物など、日本でも手に入るおすすめの建材を紹介します。 まずは、弊社が運営している「MATERIAL(マテリアル」」という海外の建材や装飾品を取り扱うネットショップを案内します。
MATERIALは住まいを育み、彩のある生活を楽しむための情報タブロイドサイトで、コンセプトは「もっともっと。日本の住まいをきらきら輝く空間に」一度のぞいてください。
プロフィール
夏水組(東京都武蔵野市) 坂田夏水 代表
1980年生まれ。2004年武蔵野美術大学卒業。アトリエ系設計事務所、工務店、不動産会社勤務を経て、夏水組設立。空間デザインのほか、商品企画のコンサルティングやプロダクトデザイン、インテリアショップ「Decor Interior Tokyo(デコールインテリアトーキョー)」、ネットショップ「MATERIAL」の運営などを手がける。22 年よりパリでの日本の建材店「BOLANDO(ボランド)」運営を開始、現在パリ在住。
(2024年5月号掲載)
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【連載】パリの賃貸不動産事情 第2回
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