【連載】パリの賃貸不動産事情 第2回

賃貸経営トレンド

第2回パリの賃料規制と売買事情

▲セーヌ川にかかるサン・ミシェル橋を望むパリの風景

 ボンジュール! 今回は、パリと東京では売買金額や家賃が実際にどれくらい違うのか、1㎡当たりの単価を示しながら説明したいと思います。

賃料上昇率に歯止め

 日本では貸し手が家賃を自由に決められるので、家賃はどこまでも高くなります。店舗もそうですが、その結果借りることができる人がいなくなって、街がフランチャイズチェーン(FC)店ばかりになるという現象は問題になっています。

 私が移住前に住んでいた東京都武蔵野市の吉祥寺も同様です。住みたい街ナンバーワンになってから店舗も住宅も家賃は上がり続け、昔からあった評判のいい店舗は高い家賃が支払えず廃業、または移転が繰り返されました。その結果、吉祥寺の中心部はFC店だらけの街に…。多様性と歴史は街の価値ですから、それが失われてしまうのはとても残念なことです。

 日本とは反対に、パリの街は守られていると住み始めてわかりました。まず、中心市街地の2階以上に店舗をつくってはいけないことは、昔からの国の規制で決まっています。2014年からは、上がり続ける中心市街地の家賃に歯止めをかけるため、法律で家賃の上昇率の上限が決められました。

 条件は一律ではないですが、わが家の場合は年に3・5%が上限で、大家は契約の1年後に3・5%の賃料アップを求めてきました。住み続けたいので賃料アップを容認するしかありません。私たちが退去してもすぐに次の入居者は決まるし、私たちは住み替える家が見つからず困りますから。

パリならではの不動産価格

▲図1:パリの不動産の価格差分布図
※フランス政府の資料(2023年)を基に地主と家主で作成

 図1は、パリで不動産売買をする地域によって、どれくらい価格差があるかという地図です。例えば、私が住んでいる6区は1㎡あたり約154ユーロですから、日本円坪単価にすると800万円程度で、東京・銀座のマンションと同じくらいです。賃貸住宅でいうと、一番高い6区の1㎡あたりの毎月の賃料の平均価格は36ユーロで、70㎡の家で想定すると約2500ユーロ、日本円換算で40万円程度です。意外とパリは安いのだという印象ではないでしょうか。

▲歴史を感じさせる建物

 また、建物は基本的にすべて古いので、日本のように減価償却や築年数の古さによって価格が下がるという概念はありません。カルチェ・ラタンという古い地域には歴史的な建物が多数残っており、むしろその古い建物の賃貸または売買物件は高値が付くようになっています。

▲パリ6区の古い街並み

 私が住んでいる家は1760年に建てられ、築260年以上です。築古物件などといっている場合ではありません。地震が少ないため、銀行が築年数で不動産価値を算出することもありません。

▲200年前のパリの住宅内装

 もちろん、古いゆえの建物の問題、例えばエレベーターが設置できないことや給排水管の劣化などはありますが、住居内部は現代的なリノベーションが行われています。屋根や窓の断熱、床の防音のほか、キッチン、風呂などの設備や、使われている建材も日本よりも格段にレベルが高いです。

リノベによる価格の差別化

 また高価な売買物件は、素晴らしい内装と高級家具をセットにして売り出されています。いかにいい材料を使ってスタイリッシュに家のメンテナンスをしているのかが売買の価格と関係してきます。そのため、売買のためのインテリアコーディネーターが入り、部屋の中をリノベすることも珍しくありません。売れたら大きな金額が動くことになるので、しっかりと家を整えてほかの物件と差別化するのです。

 次回は、パリで人気の賃貸物件について伝える予定です。

【建材紹介】

「夏水組ウォールペイント」はパリらしい色が30色、どんなインテリアにも相性が良く、壁紙や家具とも自然になじみます。淡いグレーから、印象的な赤色、落ち着いたブルー、大人っぽいダーク色まで取りそろえています。原状回復時のペイントとしても利用できます。

夏水組(東京都武蔵野市)
坂田夏水 代表

プロフィール

1980年生まれ。2004年武蔵野美術大学卒業。アトリエ系設計事務所、工務店、不動産会社勤務を経て、夏水組設立。空間デザインのほか、商品企画のコンサルティングやプロダクトデザイン、インテリアショップ「Decor Interior Tokyo(デコールインテリアトーキョー)」、ネットショップ「MATERIAL」の運営などを手がける。22 年よりパリでの日本の建材店「BOLANDO(ボランド)」運営を開始、現在パリ在住。

(2024年6月号掲載)

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