老舗企業と不動産:400年の歴史を背負う21代目社長①

土地活用その他建物

西町(青森県八戸市)
400年の歴史背負い次世代につなぐ
21代目社長はホテル事業を拡大

青森県八戸市、街の中心地の一角にある柏崎エリアの代々続く地主である石橋家。その歴史は古く、初代は江戸時代初期、3代将軍徳川家光の頃にこの地で商売を始めたという。現在の当主で21代目にあたるのが西町(青森県八戸市)の石橋伸之社長だ。長年の間に築いてきた信用を生かしながらホテル、介護施設、駐車場経営など、主に先祖伝来の土地を活用し、事業を拡大している。

西町(青森県八戸市)
石橋伸之社長(51)

1997年西町入社。2012年同社社長に就任。石橋家21代目として、先祖から受け継いだ土地で事業を行う。近年はホテル事業を順調に伸ばしている。介護や駐車場、飲食など周辺事業にも力を入れる。

現在の経営はホテル中心

 石橋家は江戸時代から代々この地を受け継ぎ、現在は西町としてホテル、介護、駐車場、レンタカー、飲食などの事業を多角経営している。売上げの中心を占めるのはホテル事業で、全売上高の約75%を占める。続いて、介護事業が20%、駐車場事業5%。従業員数は115人だ。
 収入の核となるホテル事業では3棟を運営しており、そのうち2棟は地元の八戸市に、もう1棟は埼玉県内にある。いずれも「アパホテル」のフランチャイズチェーン(FC)に加盟して経営している。
 本社のある代々の所有地に建つのが「アパホテル本八戸」。7階建てで全112室だ。元は別のホテルとして2003年にオープンしていたが、15年のアパホテルへのリブランド後に売り上げを大きく伸ばしている。八戸市内ではもう1棟「アパホテル八戸中央」も経営している。こちらは24年から始めたばかりだが、元々は他社が別ブランドで経営していたホテルを買収してリニューアルを実施したもの。同じくアパホテルにリブランドして経営している。8階建てで86室だ。

 そしてもう1カ所、埼玉県草加市で経営するホテルは、アパホテル本部からの紹介で始めた「アパホテル埼玉谷塚駅前」だ。6階建て97室で、22年にオープンして3年目だが、八戸の2棟と同様、売り上げは好調に推移しているという。
 ホテル事業以外でも、土地を活用したビジネス展開は同社が得意とするところだ。古くは50年以上前の1970年に「西町駐車場」を開業し、パーキング事業を始めたのに続いて、ビル経営を展開してきた。さらに近年は、本社の近くの遊休地を活用し、レンタカー事業と介護事業も行っている。
 「安定収入を得られる事業を増やしたいと思いました。そのためには日々賃料収入が入ってくる事業がいいですよね。家の土地をどう活用するか考えた結果、今の形になりました」(石橋社長)

 まず13年にニコニコレンタカー八戸柏崎店をオープンした。すでに隣地で開業していたホテル宿泊者の利便性を高めることを狙ったもので、相乗効果を得られているという。さらに、宿泊者以外にも地元出身者が帰省の際に使うことも多く、想定していたより好評だった。当初3~4台から始めたのが今や20台以上が稼働している。
 また同年には、介護事業として居宅介護支援事業所「ケアプラン西町」を開設した。さらに14年にサービス付き高齢者向け住宅「セリシール柏崎」を竣工、訪問介護を行う「ヘルパーステーション西町」も開業した。

▲介護施設でのイベントの様子

 現在、ケアプラン西町は年間約100人が利用、セリシール柏崎は35人が入居する。ヘルパーステーション西町も、約50人が利用しているという。
 介護事業の収入はホテルに比べれば少ないが、季節などの影響を受けることがなく、より経営が安定しているのが強みだ。
 「特に新型コロナウイルスの流行期は、ホテル事業がどうしても落ち込んでしまいました。地域に必要とされる介護事業が、自社の業績も下支えしてくれてとてもありがたかったです」と石橋社長は話す。

 石橋家は江戸初期の3代将軍徳川家光の時代である1630年から400年近く続く家で、元は八戸市内の大きな商家だった。当時から、今は社名となっている「西町屋」の屋号で商売をしていた。だが、廃藩置県を機に事業の多くは撤退してしまった。
 その後、石橋社長の祖父の代までは、家業としては受け継いだ土地を資産管理するだけの状態だったという。
 第二の創業ともいえるのが、この祖父の時代だ。祖父は定年退職するまでは北海道の会社で雇われ社長をしていたが、定年後に地元八戸市に戻り、自分が受け継いだ土地を生かして商売をしようと考えたそうだ。1970年に西町駐車場を開業。84年に西町を有限会社化し、その頃には石橋社長の父も家業に入ったという。駐車場の事業を堅実に育てつつ、父は客商売や小売業に目を向けた。「麻雀(マージャン)クラブパーク」や本やCDの小売事業を行う「西町書店」を立ち上げ、所有地に店舗を建てたり八戸市内のショッピングモールに出店したりして事業を伸ばしてきた。

▲西町駐車場

西町屋として400年 八戸の大きな商家
 石橋家は2030年に400年目を迎える歴史のある家だ。大名である南部利直が八戸城を築城した際に有力商家だった西町屋を呼び寄せたのが始まり。石橋家は1630年に城下町にあたる現在の所有地付近の廿八日町に居を移したという。初代当主は石橋徳右衛門だった。
 その後、石橋家は八戸藩の御用商人として馬の飼育や、清酒や味噌の製造、鉄山の経営など手広く商売を行うようになっていく。まさに八戸の経済発展を支えた家である。
 「現在と海岸線の位置は違いますが、今の本社から海岸近くまで石橋家の土地だったようです」と石橋社長が語るように、所有土地は相当に広いものだった。
 八戸は元禄、宝暦、天明、天保などの大飢饉に見舞われる頻度が高く、財政は必ずしも安定したものではなかった。石橋家でも多大なご用金を上納した記録が残っている。

▲江戸時代の八戸市の地図(八戸市立図書館蔵)

 

(2025年6月号掲載)
次の記事↓
老舗企業と不動産:400年の歴史を背負う21代目社長②

一覧に戻る

購読料金プランについて

アクセスランキング

≫ 一覧はこちら