西町(青森県八戸市)
400年の歴史背負い次世代につなぐ
21代目社長はホテル事業を拡大
ホテル事業が家業を伸ばす
同社がホテル事業を始めたのはそうした小売事業に暗雲が立ち込めたのがきっかけだった。
90年代は本やCDが売れに売れていた時代。大学を卒業し、家業に入った石橋社長自身も書店員として店に出ていたという。しかし、2000年を迎える頃にはすでに書籍やCDの販売にはかげりが見えてきていた。
そこで石橋社長は、父と相談しながら新たな事業としてホテル事業を選んだ。仕入れのための資金繰りに追われ、在庫を抱える小売事業はリスクが高い。しかも来店客を増やすために集客力のある商業施設などに出店すれば、その店舗の賃料も大きなコストとしてのしかかる。その点、所有している土地を活用する事業であれば収益性は高い。
「05年に小売事業から完全撤退したのはタイミングとしてはギリギリでした。小売事業で赤字が出るようになってからでは遅かっただろうと思います。祖父が土地を活用して事業を興したように、私たちの代でも所有地を生かして事業を行おうと父と話しました」(石橋社長)
それまで、ホテル業界の経験は皆無だったが、不安はなく、代々所有している土地が、広さも場所もホテルに適していると判断した。八戸市はビジネス街で工業が盛んな地。建設需要が高く、工事現場で働く人々が多い。そのため、出張してくる人の需要が見込める。さらに八戸市内から車で1~2時間離れたエリアに出向く人も、飲食店の多い八戸市を拠点にすることが多いからだった。
一部の自己資金のほかは銀行からの借り入れを行い、03年に「ハイパーホテル八戸」(当時)を竣工した。
「建築費も今より安い時代でした。石は中国、レンガはイギリス、家具はチェコからとこだわって建てました」(石橋社長)
ホテル勤務経験のある社員を雇用できたことで運用面も問題なく進めることができた。
FC加盟で客単価を上げる
当初見込んだとおり、工事現場で働く出張者の需要は高く、ホテル経営は堅実に利益を上げていた。11年に同ホテルを「ホテルメセナ八戸」と名称変更した後も、工事関係者を中心に宿泊客は安定して入っていた。とはいえ、単価が低いことに対しては問題意識があったという。
たとえ満室になっても、単価が安ければ収益は上がらない。さらに周辺に競合のホテルが建てば、集客力が低下するリスクもあった。
そんな中、転機になったのがアパホテルFC本部との出合いだった。
▲(左:Before、右:Afte)ルームドアを交換し、洗練された雰囲気になった廊下
12年に石橋社長が社長に就任。その直後となる13年にFC契約を結び、同ホテルのフルリノベーションを行い、アパホテル本八戸としてリニューアルオープンした。リノベ前は2段ベッドが置かれていたのもグレードアップしたツインルームに変更し、シングルルームもインテリアをおしゃれにした。テレビも小型のものから大型サイズに変更。椅子も革張りのものに替えるなど、全体的に高級感を高めた。
▲(左:Before、右:After)テレビは大きいサイズのものに取り替え、見やすくなった
「以前も、稼働率は悪くありませんでした。しかし、なるべく安いホテルに泊まりたいというお客さまに選ばれていたように思います。これからは工事関係の出張者の中でも管理者層など、今までよりも高単価の客層を狙いたいと考えリニューアルを決めたのです。リニューアル後は実際に単価が大きく上がりました」(石橋社長)
▲(左:Before、右:After)大きなベッドを置いて空間を広々と使う
アパホテルのFCでは、ほかのホテルブランドからリニューアルすることはよくあり、その場合の売り上げの伸びは平均で140%だという。そんな中でもアパホテル本八戸は平均を大きく上回る157%の数字をたたき出している。
「13年当時、建築時のローンはほぼ返済が終わった状態だったので、リノベに投資するにはいいタイミングでした。売り上げが伸びたことで、返済ももうすぐ終わりそうです」(石橋社長)
1棟目のホテル事業がうまくいったこともあり、アパホテルFC本部の紹介によって 22年には埼玉県草加市にアパホテル埼玉谷塚駅前の経営に乗り出した。元々ホテルだった物件をオーナーから賃貸し、同社は運営を担当している。
「アパホテル本八戸とアパホテル埼玉谷塚駅前の共通点は、工事事業者の宿泊需要があることです。客層が近く、通じるものがあると感じています」(石橋社長)
その後、24年にはアパホテル八戸中央をオープン。元はホテルだった物件取得してフルリノベした。アパホテル本八戸で満室が続いたことから確かな需要を感じ、近距離に2棟目を構えたものだが、結果は期待どおりだったという。
「03年にホテルを始めた時の従業員数は20人弱でした。それが今や115人。事業が成長したのもホテルで土地活用ができたからです」(石橋社長)

▲「アパホテル埼玉谷塚駅前」の外観
年商を2倍にして次世代に
「父から私の代で年商は5倍になりましたが、ここから次世代に引き継ぐまでの間に、さらに今の2倍にすることを目指していきたいと考えます。昔から比べると面積は小さくなりましたが、先祖伝来の土地も守っていきたいです」と石橋社長は話す。
具体的には、ホテル事業ではさらに多くのホテルの経営を行ったり、今より客単価を上げるよう手を打ったりしたいと考えているという。
24年には新規事業も立ち上げた。アパホテル八戸中央の1階のレストラン運営から派生して、飲食店を経営するOAK child(オークチャイルド:青森県八戸市)という子会社を設立。今後は飲食事業での店舗も増やしていきたいという。「30年には、初代がこの地で西町を創業してからちょうど400年になります。節目にあたるので、これまでの家の歴史をまとめて本にすることを考えています。編集作業を通じて、地域や家の歴史をより深く知りました。過去を知ることで未来につなげられることは多い。これからどのように地域に役立つような仕事ができるか考え、実行に移していきたいです」(石橋社長)

▲「アパホテル八戸中央」にあるイタリアンレストラン「trattoria il Cuore(トラットリア イル クオーレ)」
(2025年6月号掲載)
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