空室リスクを減らすマスターリース契約とは?
不動産オーナーにとって、空室対策は大きな課題です。せっかく不動産を所有していても、空室ばかりのビルだと資産価値が下がってしまい、収入を得ることができません。今回は、空室対策の一つの手段であるマスターリースについて紹介します。マスターリースについては、これまでの連載の中でも度々紹介してきましたが、連載が1年経過した今、改めて情報をまとめました。
二つのマスターリース運営方針で選び分ける
マスターリースとは、ビルを一棟丸ごと借り上げることを意味します。大きく分けると、オーナーに支払われる賃料が固定されている「賃料固定型」と、賃料が変動する「パススルー型」の2種類があります。
賃料固定型のマスターリースは、不動産事業者が不動産オーナーから一棟丸ごと借り上げるため、空室が発生してもオーナーの賃料収入には影響しません。毎月固定の収入が確保できるため、運用計画が立てやすく、安定した経営が可能になります。ビルの管理やテナント側との調整業務を専門の不動産事業者に任せたい人にもおすすめです。
もう一つのパススルー型のマスターリースは、コンセプトに沿った不動産運用を行いたい人に向いています。パススルー型では、管理費などのプロパティマネジメント報酬が差し引かれた金額が不動産オーナーの収入になるため、空室状況により収支が変動します。空室発生時に収入が得られないリスクがある分、一般的に賃料固定型より高い賃料収入が望めます。テナント管理や交渉、煩雑な契約から解放されつつも、業種・業態を厳選しながら店舗不動産への投資運用を行っていきたい人におすすめです。
安定した賃料収入事務負担減がメリット
マスターリース契約は、テナントとの間に不動産事業者が介在するため、直接契約を行うより賃料は少し低くなることがほとんどです。そのため、マスターリースを敬遠するオーナーも少なくはありませんが、マスターリースならではのメリットがあります。
第一に、賃料固定型のように空室の有無に関係なく、一括して貸し出しを行った場合、安定した賃料収入が確保できるため、事業計画を立てやすくなります。また、契約も一本化できるので、各テナントとの細かい調整やテナント管理といった事務作業も減り、オーナーにかかる事務負担を軽減することができます。テナント入れ替えの際に発生する内装工事などについても目を通してもらえるので、法令順守に優れたビル運営を望めます。
一方で、パススルー型ではなく賃料固定型の場合、市場賃料の相場が上昇した際など、柔軟に条件を変更しにくいといった点がデメリットとして挙げられます。また、テナントを選定することが難しくなりがちです。しかし、こういった問題は、間に入る不動産事業者を選ぶ際に、オーナーの考えや要望にも真摯に耳を傾け、意向をくみ取ってくれる信頼できる会社を見つけることができれば、解消します。
オーナー側の負担や責任も契約前には把握が大切
最後に、マスターリースについて勘違いしやすい点を紹介します。マスターリース契約を締結したからといって、不動産の修繕もすべて不動産事業者の負担になるわけではありません。一般的な賃貸借契約と同様、建物所有者区分は建物所有者負担での修繕となります。マスターリース契約を締結する際は、不動産オーナーとしてどのような負担が発生するのかを事前にしっかりと確認してから行うようにしましょう。
資産である不動産の価値を損なわないためにも、目先の利益に惑わされず、信頼でき、長期的に付き合っていける不動産事業者を見極めることが大切です。安定した賃料収入があったとしても、空室が長期間続いてしまえば、暗く人けのないビルという印象を与えかねません。信頼できることに加え、できれば保有している不動産に合ったリーシング力を持つ不動産事業者を選ぶことをおすすめします。
マスターリースのメリット・デメリット
■メリット
・安定した賃料収入を確保できる
・賃料収入の算出が行いやすく、将来的な運用計画を立てやすい
・契約の一本化が行えるため、管理業務・事務作業のスリム化を図ることができる
・法令順守が優れているビル運営を望める
■デメリット
・直契約より低い賃料設定になりやすい
・賃料や契約要件の変更を行いにくい
・テナントの契約解除や選定を思いどおりに行いにくい
TRNグループ
TRNシティパートナーズ 柳文基取締役
2019年、店舗流通ネット入社。自社物件のコンストラクションマネジメント業務や、物件購入後のバリューアップ業務に従事。22年4月、TRNシティパートナーズ設立に伴い出向し、23年6月に同社取締役に就任。24年4月には、戦略的視点を持って、取得する商業不動産の価値を最大化させることをミッションに、取締役兼プロパティマネジメント事業部部長に就任。
(2024年7月号掲載)
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