所有不動産をホテルにコンバージョン ―水星

土地活用その他建物

<<不動産×宿泊事業の可能性>>

所有不動産をホテルにコンバージョン
観光で人を呼び込み地域を盛り上げる

 空室を埋めることができない築古テナント物件や、遊休不動産を活用し切れない不動産オーナーにとって、新たな選択肢として考えられるのがホテルへの活用だ。しかし、大手のホテルチェーンなどでは坪数などの条件があるため、ある程度以上の大きな不動産でないと難しい。そんな中、小規模物件であっても、築年数が古くても、その地域ならではの「一点もの」のホテルとして企画、運営する会社が現れた。京都市に本社を置くその名も水星だ。

水星(京都市)
プロデュース事業部
ユニットマネージャー
高見将大

 同社はホテル開発、空間プロデュース、地域ブランディングなどを手がける企業だ。「観光とライフスタイルの新しい選択肢をつくる」をミッションに掲げ、自社ブランドホテルの運営にとどまらず、ホテル立ち上げを支援するプロデュース事業も積極的に展開している。

 同社のホテルプロデュース事業が注目を浴びることになったきっかけは2021年の「香林居」のオープンだった。

 同物件は、いわゆる「うなぎの寝床」のように細長いタイプの9階建てのテナントビルだった。コンバージョン前は低層階にギャラリー、上層階はクリニックや学習塾が入っていたという。

 建物の築年数は50年を超え、旧耐震基準物件だったため、オーナーは耐震工事の必要性を感じていた。しかし、オフィス・テナント用途のまま耐震工事を行っても、投資回収のめどが立てられなかったのだ。

 そうした折、建物管理を担当していた施工会社を通じて同社に相談が舞い込んできた。石川県金沢市の目抜き通りである百万石通り沿いで「金沢21世紀美術館」まで徒歩5分という立地。そばには公園があり、緑あふれる景観もある。同社はビルの立地に圧倒的なポテンシャルを感じたという。プロデュース事業部のユニットマネージャーである高見将大氏は「実は、金沢には富裕層の旅行者が泊まりたいと思うホテルが不足していたのです。そうした需要を取り込めるホテルを手がけることができると思いました」と言う。

 そこで、全18室のホテルへのコンバージョンを提案。大規模な耐震補強と用途変更を含む全面改修は、コスト面では新築と同程度になる見積もりだったが、同社はターゲットを国内外の富裕層に据え、コンセプトを「新しい金沢時間を処方する」に設定した。館内には精油を精製する蒸溜所やサウナを備え、五感を満たす体験を提供できる唯一無二のホテルにコンバージョンする内容だ。

特徴的なファサードはそのまま生かした

 「平均40㎡の客室を一泊6万~8万円で設定。元々同エリアではかなり高い水準ですが、さらに年々上昇できています」(高見氏)

 このターゲット設定とコンセプトが見事に当たり、高水準の宿泊費にもかかわらず、稼働率は8割を超えているという。

 ホテル事業は、テナントや住宅とは異なる地域の人流を生む拠点となり得ると高見氏は言う。

 「例えば、1階をカフェにして街に開いたホテルをつくったとしましょう。そうすると、外から人がやって来る。人の往来を生み出す物件になります。その結果、1棟の不動産だけでなく、地域全体へのインパクトも大きくなります」(高見氏)

 「そこにしかないホテル」をつくり出すことで地域活性の一翼を担うことができるのだ。

 「自分の所有する物件の利活用だけでなく、地域全体を考えて賃貸経営を行う地主と、当社のプロデュース事業は親和性が高いと考えています」(高見氏)

 続く事例が、京都府北部の宮津市に25年に開業した「mizuya」だ。宮津市が保有していた福祉施設を民間事業者が取得し、水星がプロデュースしてホテルへコンバージョンした。客室数はわずか9室。

 「金沢に比べると都市規模は小さいですし、商圏も比較的小さい。一方で、物件の規模も小さいため投資金額を抑えることができました」(高見氏)

 9室という客数でも成立する見込みがあったのは、この建物が福祉施設だったためだ。

 「福祉施設だと間取りがきれいで、ホテルへのコンバージョンがやりやすかったのです」(高見氏)

 テナントビルと違い、居室が整然と並ぶ福祉施設は、客室への転用と相性がいい。それに加えて、補助金を活用することで初期投資をさらに圧縮した。

 その土地の持つ伝統を味わってもらおうと、宿泊プランには京都府北部・丹後エリアの郷土料理である「ばら寿司」の朝食を付けている。宿泊費は3万~5万円で設定している。

 

所有物件を生かしながら 地域活性化にもつなげる

 こうした事例を積み上げることで「自分が持っている不動産もホテルにすることはできるだろうか」と全国の不動産オーナーから問い合わせが来るようになった。その数、月40〜50件にも上るという。

 「この4年で確実に増えているという感覚です。観光事業が伸びているという要因もありますが、建築費上昇の局面で、建て替えることは現実的ではないと考えるオーナーが多いこともあるでしょう」(高見氏)

 不動産オーナーが水星に依頼するメリットは2つある。1つは、プロデュースから運営まで一気通貫で依頼することができる点だ。同社はホテルにコンバージョンした物件を定期借家もしくは運営委託契約で借り上げ運営を行う。契約期間はおおむね10〜25年だ。

 「当社が不動産を取得してホテルとしてプロデュースしている物件もありますが、定期借家契約を結び、ホテルの企画・運営面を当社が担うあるいは企画・開発のみを担うケースが多いです」(高見将大氏)。

 さらに、固定賃料に加えて売り上げに連動した賃料をオーナーに支払う。テナント側のリスクヘッジではあるが、香林居の例のように、宿泊料金が年々上がっていけばオーナーへの賃料支払いも増えていく。

 2つ目は前述の通り、同社では大手のホテルフランチャイズ事業では坪数などで条件が合わない小規模かつ築古物件をホテルにコンバージョンできることだ。

 同社ではその土地の文化や歴史、自然を深くリサーチしてホテルを設計し、独自の世界観で「一点物」に仕上げることで、長期的な需要を取り込む。客室数で勝負する大手事業者とは別の視点でのホテル運営だ。

 「『行く理由がある』ホテルに仕上げなければ、長期的に選ばれ続けるホテルになることは難しいでしょう」(高見氏)

 唯一無二のホテルは、メディア露出やリピーターを生み続ける。それが稼働率と室料を長期的に安定させ、ひいてはオーナーへの賃料を支えるのだ。
(2026年9月号掲載)

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