※この記事は地主と家主(旧家主と地主)2023年12月号から抜粋した記事で、内容は取材時の情報です。
<<賃貸住宅フェア2023 座談会レポート>>
駅から遠くても満室を実現 小商い賃貸住宅の可能性
不便な立地にもかかわらず、人を集めにぎわいを見せる賃貸物件がある。地域の住民をつなぎ、交流を促すきっかけをつくる3者が登壇。小商いができる賃貸住宅の可能性について語った。
住人となりわいをシェアできる仕組み
ブルースタジオ(東京都中央区)大島芳彦クリエイティブディレクター

ブルースタジオ(東京都中央区)は、建築などの空間資源のみならず、街に暮らす人や自然環境など、さまざまな社会資源を編集し、場や街の使いこなし方をデザインする建築設計事務所です。
生業(なりわい)とは、商業(あきない)とは違い、自分の生活環境の中にある生きざまそのものだと考えます。趣味やその人らしい生きるすべ、生きる喜びといった生きざまが、住環境の中にはたくさんあります。
住宅地に住む高齢者や団塊の世代(1947〜49年生まれ)は多様なスキルを持ち、子育て世代もいろいろなことをやりたいと思っている人が多い。住民が交流できる場として、なりわい、つまりそれぞれの生きざまをシェアできる住環境が必要です。
今回紹介する店舗併用賃貸住宅「hocco(ホッコ)」は、住んでいる人が自身のなりわいを街に開くことができる、かつての住宅街における生活商店街の復活のような事業です。

▲かつての住宅街における生活商店街を復活
hoccoは東京都武蔵野市の住宅地のど真ん中の路線バスの終点折り返し所にあります。小田急バス(東京都調布市)と共に手がけました。月極駐車場だった場所に、13世帯の2階建ての店舗併用賃貸長屋を建て、1階の玄関先部分に店舗としての土間、その奥と2階が住居です。住人は本屋や総菜屋、植物屋などを開いています。土間を経て家の中に入る仕様で、玄関先はそのまま見せられる間取りになっています。
着工前に全戸でリーシングが完了
トライクコンサルティング(東京都渋谷区) 藤田弘之代表取締役

トライクコンサルティング(東京都港区)が東京都世田谷区の外れで取り組んだ店舗兼用賃貸住宅「トカイナカビレッジ」について話します。最寄り駅から徒歩30分という立地の物件です。
初期投資額を抑えて空室リスクを減らすために、着工前からリーシングを開始。説明会を行ったところ非常に好評で、物件がまだない状態でしたが、1カ月で全戸の入居者が決まりました。
建物は戸建て2棟と、6戸、5戸の長屋が2棟あります。周辺住民とコミュニティーを一つにするために、隣接する賃貸住宅との間にフェンスや塀を建てずに、通り抜けできるようにしました。入居者が使えるファイヤーピットも設置。一般的な賃貸では禁止されているたき火をできるようにしました。使い方のルールを自主的に決めて、運用してもらっています。

▲入居者が使えるファイヤーピットを設置
着工前にリーシングができれば、その人のニーズを工事に反映できます。これを最大の価値と考えて、入居者が自由設計できるようにしました。具体的には、商いのための土間スペースを3パターンから選んでもらうように提案。そのほか、壁の下地をすべて構造用合板にして、ビスを打っても、棚を作ってもいいことにしました。
自由設計に伴うコストは、入居者自身に払ってもらうようにしました。初期投資額を抑えて空室リスクを減らすというメリットにつながっています。
街と関わり、エリアの価値を高める
平和建設(埼玉県戸田市) 河邉政明代表取締役社長

平和建設( 埼玉県戸田市)は、空き部屋、空き家を改修し、そこに人を集めて、地域と交流するきっかけをつくる街の小さな不動産会社です。改修にはNPO法人CHAr(チャー:東京都大田区)が提供するデザインツール「モクチンレシピ」を活用しています。
本日紹介する「はねとくも」は、アトリエ、コモンスペース(共用部)を有する合計3世帯の小商い型集合住宅です。最寄り駅から15分離れた住宅街の真ん中にあります。
一般的なワンルームや集合住宅では、プライバシーやセキュリティー面が重要視され、場合によっては、1階は賃料を下げて貸し出すことがあります。
その一方で、小商い型は1階を街に開いており、1階のほうが価値があるという扱いになります。アトリエ部分の中を見せて、入居者の間でシェアできるスペースを持つことで、街との関わりをつくり、エリアの価値を高めます。現在、ジュエリー職人の夫婦やクッキー&マカロン屋が入居中です。

▲コモンスペースは入居者と一緒に活動するための拠点
コモンスペースは、入居者と一緒に活動するための拠点です。マルシェを開催して地域の人たちとコミュニケーションを取ることができます。地元で大きなイベントがあると、「出張マルシェ」として入居者みんなで参加。一般的な集合住宅では考えられなかった貴重な体験ができています。
いい入居者が集まるには「地域愛」を持つ心構えが大切
【テーマ①】入居者募集はどのようにしていますか?
大島:「こんな環境を含めて住んでみませんか」というビジョンを提案して、SNSを使って重点的に知らせました。
藤田:単体で店舗を借りるにはハードルが高いという人でも、店舗併用で、暮らしの場の一部が店舗になっているのであれば何とかなるという人からの問い合わせが多かったです。初期投資で非常にメリットがあるという反響がありました。
河邉:不動産は大手ポータルサイトでしか流通できないと思っていました。アトリエ付き住居という商品が特殊でジャンルがなかったので、流通ラインに乗せられない意味では苦労しました。
【テーマ②】 オーナーにはどんな心構えが必要ですか?
大島:私の場合は、オーナーが鉄道会社やバス会社で、地域愛を持っていました。公共交通を担う会社だからこそ発することができる「地域がこうなってほしい」というメッセージがあり、それが共感につながりました。これは、企業であれオーナーであれ、いい住人が入ってくれるための必要な心構えではないかと思います。
藤田:工夫次第、やり方の順番次第で、リスクを取らずに新しいことができる方法が世の中にはあるということを頭の片隅に置いておきます。私は、初期投資費用をかけずに、最初に住む人が決まってから家づくりができるということがわかりました。ぜひ、広い視野、観点で賃貸事業を見ていきたいです。
河邉:はねとくもで、一番良かったのは同じ思いを持った人が入居してくれたことです。普通の集合住宅では絶対に出会えないような入居者が来てくれました。
(2026年7月公開)

【2023年の賃貸住宅フェア 振り返り】座談会レポート
イベントレポート:需要拡大中の高齢者賃貸
入居者の希望に沿った改修で差別化 ―神吉不動産
既存住宅の活用と維持保全を考える



