Q. 先日、建具の不具合の点検のため居室に入った際、入居者が勝手に居室の一部をリフォームしていることがわかりました。この場合、法的にどのように対応すればいいでしょうか?
A. 家主としては、①契約解除を求める②原状回復に際して精算するという対応が考えられます。いずれにしてもリフォームの具体的な内容、範囲などについて、写真を撮ったり借主にヒアリングしてメモを作成したりするなどして証拠を残しておくことが、後の交渉を有利に進めるために重要です。
契約解除か精算で対応する
家主としては、いくら物件がきれいになったからといって、勝手にリフォームされたのでは困ってしまいますね。対応としては①契約の解除を求める(程度が悪質な場合)②原状回復に際して精算することができるでしょう。
まず、①契約の解除を求める対応についてです。これは、無断で増改築工事を行ったことを解除の理由とするものです。
本連載で繰り返し伝えているように、借主による契約違反を理由とした賃貸借契約の解除が有効と認められるためには、単なる契約違反だけでは足りず、当事者間の信頼関係が破壊されたといえることが必要となります(信頼関係破壊の法理)。そのため、リフォーム工事の程度が大きく、また、悪質なものに限って契約解除が認められると考えてください。
無断で増改築された場合に契約解除が認められた裁判例として、東京地判平成29年3月29日では、建物の現状を維持したままシェアハウスに利用するという約定にもかかわらず、約1カ月かけて無断で大規模な改修が行われたという事案がありました。改修内容は、間仕切りを設置したり壁の一部を撤去したりするといった間取りの変更、2階和室の畳の撤去、フローリングへの変更などです。この事例では、信頼関係が破壊されているものとして、契約解除が認められています。
他方で、契約解除とはならなかった事例もあります。東京地判令和2年11月30日では、木造瓦ぶき平屋建ての建物において、賃借人が床を抜いて掘りごたつをつくる、台所の壁が屋根の庇ひさしから約70cmはみ出すような台所の工事を行う、建物の屋根の大部分を瓦ぶきからトタンぶきに変えるというリフォーム工事を行った事例でした。
躯体に一定の変更を加える工事ではあるものの、長年続く賃貸借契約の中で、賃貸人は建物の維持・管理を賃借人に相当程度任せており、各工事が行われた時点では賃貸人にとって許容できないものではなかったとうかがわれること、それに加えて各工事が行われてから長期間が経過していることなども考慮され、契約解除が否定されています。
次に、②原状回復に際して精算するという対応についてです。これは原状回復費用に関する賃貸借契約上の定めにもよりますが、借主によるリフォームが修繕と評価できるものであれば、その分借主の原状回復の負担は減ることになります。
裁判所もよりどころとする国土交通省作成の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」では、「入居者を確保する目的で行う設備の交換、化粧直しなどのリフォームについては、 ……経年変化及び通常使用による損耗等の修繕であり、賃貸人が負担すべき」とされています。そのため、リフォーム内容が入居者を確保する目的で行う設備の交換、化粧直しなどにあたる場合には、借主が負担すべき原状回復費用から差し引くことで、実質的に家主負担として精算する方法もあるでしょう。
放置せず迅速な状況確認を
以上の①②のいずれの対応を取るにしても、リフォームの具体的な内容、範囲などについて証拠を残しておくことが、後の交渉を有利に進めるために重要です。写真に客観的な状況を収めるのはもちろん、借主にリフォーム内容や範囲、費用、理由などをヒアリングし、メモとして残しておいたほうがいいでしょう。
居室に立ち入った際にこれらの証拠を残しておくことができれば一番いいですが、後日改めて借主に事情を説明し、借主立ち会いの下で立ち入る形でもいいと思います。
いずれにしても、そのまま放置しておくと、家主として承諾していないリフォームを事後的に承認したものとして不利に扱われてしまうおそれもあります。発見した時点での速やかな対応が、重要になってきます。
加えて、家主は、借主からリフォーム費用が有益費にあたるものとして償還請求を受けるリスクがあるので、この点も留意したほうがいいです。有益費とは、物を改良し、物の価値を増加させるための費用のことです。例としては、店舗建物賃貸借でトイレを改修するなどの内装のリフォーム費用が挙げられます。
もっとも、有益費の償還請求については特約で排除することができます。家主としては、あらかじめ賃貸借契約書にその旨の特約を設けておいたほうが望ましいでしょう。
はじめ法律事務所(東京都千代田区)
川崎達也 弁護士
2013年の弁護士登録以降、賃貸不動産経営者や仲介事業者などのクライアントを多数抱える。宅地建物取引士の資格を持ち、一棟ビルのオーナーでもある。自身も賃貸不動産経営を行っていることから、法律論を踏まえた、実践的かつ具体的な助言・対応に強みを持っている。
(2024年2月号掲載)
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