【連載】家主の悩みをスッキリ解決! 困ったときの賃貸経営Q&A

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第20回 購入した競売物件の住人が退去しないときは?

Q:初めて競売で物件を購入しました。しかし、もともと住んでいた住人がなかなか退去してくれません。どのような手続きを踏めば、スムーズに進められますか?

A:不動産引渡命令という手続きによって、訴訟手続きに比べて簡易迅速に住人(占有者)を退去させることが可能です。ただし、不動産引渡命令が認められない例外もあります。そのため、競売物件を購入する際には、いわゆる3点セット(現況調査報告書、評価書、物件明細書)のうち、特に物件明細書をきちんと確認するようにしましょう。

占有者排除の手順は3段階

 現在は競売手続きに家主が参加することも珍しくなくなってきました。読者の皆さんの中には、競売手続きに挑戦したいと考えている人もいるでしょう。1980年以前の不動産の競売においては、参加者は常連の不動産ブローカーなどに限られていました。しかも売却価格の調整があったようで、対象不動産が適正な価額で売却されないという問題がありました。

 現在の民事執行法は、そうした状況を改善し、一般の買い受け希望者が売却手続きに参加しやすくし、対象不動産を適正価格で売却しようという目的で制定されたものです。

 その一方で、競売物件は物件の所有者や住宅ローンなどの支払い義務を怠った債務者の意思に反して強制的に売却された物件です。そのため、通常の物件の売買とは異なり、問題がある物件が多く存在します。

 その中でも、物件を購入しても占有者がいて退去しないという問題が度々生じます。特に自己使用を目的とした買受人にとっては、致命的な問題になります。こうした場合には、法律にのっとって占有者を排除する手続きを取らなければなりません。

 不動産の所有者が占有者を排除するための原則的な手続きとしては、①不動産の明け渡し訴訟を提起する②判決を取得する③強制執行を行うことになります。ですが、これらの手続きには相当の時間がかかります。そのため、競売物件については、占有者を簡易迅速に排除できるようにし買受人を保護する目的で、不動産引渡命令(民事執行法83条1項)という手続きが定められています。

 不動産引渡命令の申立ては、原則として、買受人が代金を納付してから6カ月以内に裁判所に行う必要があります。定型の書式を用いることで、弁護士でなくても行えるよう配慮がされています。書式は、裁判所のホームページにも掲載されています。

 申立てがなされると、審尋(裁判所に当事者を呼んで陳述の機会を与えること)も原則として行わずに、速やかに裁判所の判断が出ます。裁判所が申立てに理由があることを認めて、不動産引渡命令を発令し、相手方が1週間以内に不服申立てを行わなければ、不動産引渡命令が確定します。不動産引渡命令が確定することで、判決の取得(前記②)と同じ効力を得ることになります。

 競売物件といえども、不動産引渡命令が確定した段階では、占有者が排除されることが多いでしょう。ですが、中には不動産引渡命令を無視してかたくなに占有を続ける者もいます。その場合には、買受人は、確定した不動産引渡命令をもって、強制執行を行う(前記③)必要があります。しかし、強制執行には相応の費用と時間がかかります。さらに占有者が高齢だったり、移転先の確保がおよそ困難だったりする場合などには、強制執行が認められないケースもあるため注意が必要です。

 また、そもそも買受人よりも占有者の権利が優先されるために、不動産引渡命令が認められないこともあります(同法83条1項ただし書)。買受人と占有者の権利のどちらが優先されるかどうかは、法律上のルールによって決まります。

物件のリスク把握を入念に

 例えば、競売対象の建物の抵当権の設定登記前から、当該建物を賃借して引き渡しを受けて住んでいる人がいるとします。この賃借人が有する賃借権は、抵当権よりも優先されます。そのため、抵当権の実行によって建物が競売にかけられ、買受人が落札しても、買受人は当該賃借人を退去させることはできません。

 他方で、競売対象の建物の抵当権の設定登記後に当該建物を賃借して引き渡しを受けている賃借人であれば、競売による買い受け時から6カ月間だけ明け渡しが猶予されることになります。しかしその後は、退去させることが可能となります(民法395条1項)。そして、この場合には、引渡命令の申立期限が例外的に9カ月以内となります。(民事執行法83条2項かっこ書)

 競売物件の購入に際しては、いわゆる3点セットと呼ばれる公開資料を念入りに確認することが重要です。

 このうち、一般的には現況調査報告書と評価書に目がいきがちだといわれますが、競売物件では、今回取り上げたような引渡命令を用いた占有者の排除などが必要になる場合があります。このあたりのリスクを把握するため、対象物件の権利関係や占有者についての裁判所の判断が記載された、物件明細書の確認も怠らないようにしましょう。

はじめ法律事務所(東京都千代田区)川崎達也 弁護士

2013年の弁護士登録以降、賃貸不動産経営者や仲介事業者などのクライアントを多数抱える。宅地建物取引士の資格を持ち、一棟ビルのオーナーでもある。自身も賃貸不動産経営を行っていることから、法律論を踏まえた、実践的かつ具体的な助言・対応に強みを持っている。

(2024年1月号掲載)

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