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最終回 賃料を改定したいが、特約を結ぶことは可能?

Q:物価上昇が続く中、修繕、管理の費用も上がってきています。例えば「契約を更新するごとに、賃料の0.5%ずつ賃料を上げていく」といった賃料に関する特約を結ぶことはできるのでしょうか?

A:賃料に関する特約は内容が合理的なものであれば有効とされています。質問における特約は、賃料の自動改定特約(スライド条項)として有効です。ただし、物価上昇が継続することが特約の前提となっているため、反転して物価の下落が続いた場合には特約が無効とされるおそれはあります。

特約で賃料改定はできる

 賃料の定め方は賃貸経営の肝の一つでしょう。居住用物件では、契約期間中に物価や公租公課の著しい変動がある場合には別途賃料の増減額請求ができるとしつつも、賃料は契約期間中不変とすることが一般的かと思われます。

 もっとも、質問のとおり、およそ物価の上昇が見込まれる場合に、賃料も上昇させる合意をすることも合理的なものと思われます。また、契約期間中にも賃料を柔軟に改定したいというニーズもありますが、果たして有効でしょうか。賃料に関する特約について説明していきます。

【自動改定特約】
 あらかじめ基準を決めてそれに従い、特別な手続きをしなくとも賃料を増減する合意を、自動改定特約といいます。自動改定特約は、賃料改定に関する紛争を前もって回避することを目的としており、特約の内容が合理的ならば有効とされています。

 裁判例で有効とされたものでは、3年ごとに賃料を改定して改定額は物価指数によって定める旨の特約(東京地判昭和56年10月20日)、期間は2年間の契約で更新の際の賃料1割値上げとする旨の特約(京都地判昭和60年5月28日)などが挙げられます。そのほか、3年ごとに6%増額する旨の特約(東京地判平成17年3月14日)、借地契約において賃料を固定資産税の3倍とする特約(東京地判平成6年11月28日)などもあります。

 他方で、特約の基礎となる事情に変更があったときには、必ずしも特約には拘束されないと判断されています。 東京高判平成10年9月29日の例です。バブル期においてバブルが継続するという予測を基に、3年後の賃料および共益費について自動的に9%増額されるものとする自動改定特約が合意されました。 

 しかし実際には、バブルが崩壊して地価や賃料の下落傾向が継続していました。こうした中で、合意当時このような事態になるとは予測し得なかったことであり、特約に基づいた増額はバブル崩壊後の経済事情の変動や同種ビルの賃料水準との比較において、不合理な結果になるものといえるとされました。

 そこで事情変更の原則により、特約は適用されない旨の判示がなされています。

【不減額特約についての注意】
 注意が必要なのは、借地借家法上の賃料減額請求権を行使しない旨の特約(不減額特約)については、定期借家契約でのみ有効であって、普通借家契約では無効とされていることです(借地借家法38条9項、同法32条1項)。

 従って、増額方向の自動改定特約があっても、普通借家契約の場合には、借主から自動改定特約に反する内容の賃料減額請求がなされた場合、その効力を否定できないのです。

 言い換えれば、どのような場合にも賃料減額とならないようにするためには、定期借家契約にする必要があるということです。


【売り上げ歩合】
 売上高を基準として賃料額を定める旨の特約(売り上げ歩合賃料特約)も有効です。商業施設のテナントで、多く採用されています。

平時からの法務対策を

 以上のように賃料に関する特約は柔軟に定められます。質問における特約も有効なものといえますが、物価上昇が継続することが特約の前提となっているため、物価の下落が続いた場合には、特約が無効とされるおそれがあることには留意してください。

 本連載は、今回が最終回となりました。賃貸経営における法務は、平時では優先度が低く後回しにされがちです。しかし、何も対策をしていないと、いざトラブルが起きたときに解決のため相当なコストがかかったり、気をもむことになったりしてしまいます。そのため、むしろトラブルが起きていない平時に契約書のひな型の改定を行うなど、予防的に対策を図ることをおすすめしています。

 家主業は賃貸経営業であって、家主は経営者です。それを忘れずに事業を自分ごととして捉えること、そして賃貸経営における法務は人と人との信頼関係にまつわるものですから、借主や取引先といった利害関係を持つ人との信頼関係を意識して誠実に対応することが大切です。これらを意識することで、トラブルに遭う可能性は大きく減ると思います。

 私自身も、弁護士業とは別に家主業を営んでいます。本連載にあたっては、家主の立場から見て身近なテーマについて実践的な解説を行うことを心がけてきました。本連載が、少しでも皆さまの賃貸経営の役に立てば幸いです。ありがとうございました。

はじめ法律事務所
(東京都千代田区) 川崎達也 弁護士

 2013年の弁護士登録以降、賃貸不動産経営者や仲介事業者などのクライアントを多数抱える。宅地建物取引士の資格を持ち、一棟ビルのオーナーでもある。自身も賃貸不動産経営を行っていることから、法律論を踏まえた、実践的かつ具体的な助言・対応に強みを持っている。

(2024年5月号掲載)

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