入居者の客人が室内を傷つけた際の修繕は?

法律・トラブル入居者トラブル#困ったときの賃貸経営Q&A

Q. 単身者向けのマンションの女性入居者が、居酒屋で知り合った男性をそのままマンションに連れてきました。その際、泥酔した男性が激高し、廊下やドアを傷つけていきました。入居者に修繕を頼むことはできますか?

 

A. 入居者は物件の保管義務を負うため、入居者自身による破損でなくても、入居者に責任があれば入居者が修繕義務を負うことになります。泥酔した男性による破損行為は、入居者の責任と評価できるため、入居者には修繕義務があります。したがって、家主は入居者に修繕を頼むことができます。

 

修繕は家主負担が原則、保管義務違反時は入居者が

 家主としては入居者に修繕を求めたいところですよね。しかし入居者は、自分ではなく男性が一方的にやったことであって自分には非がないと反論してくるかもしれません。法的な取り扱いを検討していきましょう。

 借主は、賃貸借契約に基づき、善良な管理者の注意をもって借りている物件の保管義務を負っています(民法400条、601条)。そのため、借主は、自ら廊下やドアを傷つけた場合だけでなく、第三者の行為であっても借主が保管義務に違反したものと評価できる場合には、責任を負うことになります。

 今回の件は、強盗が入居者の意思に反して侵入し、物件に傷をつけたといった場合と異なり、入居者が自らの意思で男性を物件内に入れたことは確かでしょう。そのため、入居者は貸主との関係では、物件の保管義務として、泥酔した男性による物件内の破損行為がなされないように注意しなければなりませんでした。しかし、これを怠り破損行為が起きてしまったことから、物件の保管義務に違反したといえるでしょう。

 一方で、物件の修繕義務は家主が負うのが原則です(民法606条1項本文)。そうすると、今回のケースのように入居者に保管義務違反がある場合にも、家主が修繕を行わなければならないのでしょうか。

 実は、2020年改正前の民法にはこの点に関する定めがありませんでした。しかし改正民法606条1項は、「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない」と定めています。このように、入居者に責任があるときには、家主は修繕義務を負わない旨が明記されているのです。

 したがって、今回の場合では、家主ではなく入居者が修繕義務を負うため、家主は入居者に対して修繕を頼むことができる、というのが回答となります。

 

修繕義務ある入居者、費用負担してもらう方法

 では、家主が依頼しても入居者が修繕を行わなかった場合には、どうすればいいでしょうか。

 例えば、家主が自ら修繕事業者を手配して修繕を行い、その費用を入居者に負担させるという方法が考えられます。入居者は、借主として修繕に協力する義務があります(民法606条2項)。仮に入居者がこれを拒むと今度は賃貸借契約違反の問題が生じますので、入居者としては退去を求められるリスクが出てきます。家主から入居者にそこまで説明すれば、修繕への協力はおそらく得られるでしょう。

 万一、修繕事業者への費用を入居者ではなく家主が支払った場合には、家主が入居者にその費用を請求できますが、入居者が支払いを拒むこともあり得ます。この場合には、ひとまず敷金から控除したうえで別途不足分の敷金を差し入れてもらったり、明け渡しの際の原状回復費用の精算で考慮したりすることになるでしょう。

 そのほか、修繕をしなくても入居者が困らないのであれば、明け渡し時の原状回復工事の際に一緒に修繕を行い、かかる修繕費用分を入居者に請求するという方法も考えられます。このように修繕を先延ばしにしたことで、仮に物件の一部が使用できなくても、入居者の責任によって破損行為が生じたことが原因であるため、賃料は減額されません。法的には、入居者の賃料減額請求権は認められないということになります。

 また、後に入居者が自ら修繕をしてその費用負担を家主に求めてきたとしても、家主はこれに応じる必要はありません。法的には、入居者の必要費償還請求権は認められないということになります。

 

入居者が修繕義務に応じない場合は…?

◦家主が事業者を手配して修繕をし、その費用を入居者に負担させる。もしもこれを入居者が拒むと、賃貸借契約違反となる。
◦家主が費用を支払った場合も、入居者への請求ができる。入居者が支払わない場合は、ひとまず敷金から控除する。
◦明け渡し時の原状回復工事の際に修繕をし、修繕費用分を入居者に請求する。

 

はじめ法律事務所

(東京都千代田区)

川崎達也 弁護士

2013年の弁護士登録以降、賃貸不動産経営者や仲介事業者などのクライアントを多数抱える。宅地建物取引士の資格を持ち、一棟ビルのオーナーでもある。自身も賃貸不動産経営を行っていることから、法律論を踏まえた、実践的かつ具体的な助言・対応に強みを持っている。

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