絵を描く
Profile:永井ゆかり
東京都生まれ。日本女子大学卒業後、「亀岡大郎取材班グループ」に入社。リフォーム業界向け新聞、ベンチャー企業向け雑誌などの記者を経て、2003年1月「週刊全国賃貸住宅新聞」の編集デスク就任。翌年取締役に就任。現在「地主と家主」編集長。著書に「生涯現役で稼ぐ!サラリーマン家主入門」(プレジデント社)がある。
顔が見える関係性
地主や家主は、第三者にスペースを貸したり、そのスペースを使ってサービスを提供したりしている。つまり、不動産を有効活用することが、その地域で生活を営む人に影響を与えることになる。
そう考えると、所有する不動産は、その場所に関わる人たちの生活環境づくりを担っているといえる。
恐らく、普段からそのことを意識して不動産賃貸事業を営む人は多くないだろう。だが、これから人口や世帯数の減少が進むと、その地域住民の生活環境づくりに、向き合わざるを得なくなると思う。
こうした地域との付き合いについて話を向けると面倒くさいと感じる人もいるかもしれない。だが、その地域がよほど都市部の中心エリアでない限り、今後その地域に魅力がなくなれば、人が新たに転居してこなくなってしまう。特に地主は地域とのつながりを避けると賃貸経営はうまくいかないのではないか。
そのことに8年前に気付き、活動している地主がいる。相模原市の地主、渋谷洋平・純平兄弟だ。
彼らは、地域創生の活動を行うまめくらし(東京都練馬区)代表の青木純氏が主宰する「大家の学校」に参加。青木氏が提唱する「大家が変われば、街は変わる」を体現すべく、自分たちが思い描く理想の地域の絵をイラストレーターに描いてもらった。それに向けて試行錯誤しながら自分たちの身の丈に合ったことからチャレンジしてきた。2人が大事にしてきたのは、顔が見える関係性づくりだ。
地元で面白い人100人
まず、実家に隣接する生産緑地で、ヤギを飼い始めた。所有地を上手に街に開きたかったからだ。立地的に小学校の前にあり、子どもたちもよく通る場所。子どもたちがヤギと戯れることができるように対応したことから、地元でにわかに「ヤギがいる場所」として、話題になってきた。
これを知った地元の大学の教授から連絡が入る。2人の地域を盛り上げたいという気持ちを知り、「さがみはら100人カイギ」と呼ばれる企画の運営スタッフにと誘ったのだ。このさがみはら100人カイギは地元の人を毎回5人ほどゲストに招いて話してもらう企画。2人は地元で登壇したら面白そうな人を探した。苦労しつつも100人を集めて終えることができたという。
「100人カイギで地元の人とつながることができたのは自分たちにとっても大きな財産となった」と2人は異口同音に話す。
この経験を経て、所有マンションの地下1階の長く飲食店に貸していた場所を、地域の人や自身が活動する場所へと改装した。「kichka(キチカ)」と名付けたこの場所は、イベントを行ったり、知り合いや、同マンションの入居者に貸し出したりしている場所だ。
「ボードゲーム大会」やマルシェなどを企画。スナックバーを営業する時もあるという。参加するのは地元の人たちだ。
地域を活性化するというと、スケールが大きいと感じて、二の足を踏む人も多いだろう。だが、身の丈に合ったサイズ感から始めることで、少しずつ大きくしていくことはできる。
まずは絵を描くことから始めることが重要になるだろう。
(2024年6月号掲載)
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