不動産業界の挑戦者:資産運用をサポート

賃貸経営不動産投資#不動産投資#空き家

地主、富裕層以外の層も可能な不動産による資産運用をサポート

 ヤモリ(東京都渋谷区)は不動産投資家に向けた情報発信や物件購入・経営支援などのサービスを提供するベンチャー企業だ。2月に、DNX Ventures(ディーエヌエックスベンチャーズ:東京都港区)、三菱UFJ信託銀行(東京都千代田区)など3社から合計10億円を資金調達。三菱UFJ信託銀行とは協業して日本初となる空き家賃貸ファンドの組成を目指す。日本全国にある空き家物件の再生を加速させるヤモリの藤澤正太郎代表取締役に、同社のミッション「不動産の民主化」とその取り組みについて聞いた。

▲会場に700人、オンラインで250人参加した「ヤモリサミット」 

ヤモリ
(東京都渋谷区)
藤澤正太郎代表取締役(36)

 ヤモリは設立してまだ5年にも満たないベンチャー企業だ。代表取締役の藤澤氏は、不動産を地主や富裕層などの限られた層が所有するものから、多くの人が所有、運営できる状態にすることで流動性を向上させたいと思い、起業した。そんな思いを「不動産の民主化」と表現し、同社のミッションとする。

 主な事業は、不動産投資における基本知識の提供や物件購入・運用・管理のサポートサービスの提供だ。具体的なサービスとしては、不動産投資の基礎知識を体系的に学ぶことができる「ヤモリの学校」、クラウド型の不動産経営管理システム「大家のヤモリ」、投資方針に沿った物件購入や運営においてアドバイスをする「ヤモリの家庭教師」などを展開している。

 現在会員が1600人ほどいるヤモリの家庭教師では、属性に応じて生徒ごとに投資方針を定め、購入物件を絞り込む。生徒は、物件の選定、システムを活用した収支シミュレーションの作成後、融資を受けて物件を購入し、運営するという一連の流れを学びながら実績を積むことができる。これまでサービスを通じて生徒が購入した物件の総額は50億円を超え、平均利回りは20%を上回るという。

 同社のサービスの特長は、物件や運用状況にまつわるデータを蓄積し、次の投資へと活用している点だ。生徒が購入物件を運用するにあたり、周辺の生活施設、相場賃料、対象入居者、推奨設備などの細かい情報を不動産会社から聞き取り、データベース化。これまでに集まった1000棟以上に関するデータを、今後の物件購入の際に役立てる。

共同創業者との出会い

 藤澤氏は大学卒業後、三菱商事(同)に入社し、海外における電力・水道事業のほか、都市開発にも携わった。20代で海外事業を主に担当してきた藤澤氏は、31歳で退職し、起業を志す。着目したのは、不動産だった。市場が大きい不動産ビジネスの出発点にいるオーナーの課題を起点に、サービスを展開していこうと考えたのだ。

「不動産投資の経験はありませんでしたが、これまで担当してきたインフラ投資でアセットマネジメントもやってきたことから共通していることが多いと感じました」。当時をこう振り返る藤澤氏は、知人からの紹介や家主の会にも顔を出して100人以上のオーナーに会い、事業のヒントを探った。

 そんな中、出会ったのが当時先輩から三菱商事の「不動産王」と紹介され、現在同社の共同創業者で取締役の廣瀬涼哉氏だった。藤澤氏は廣瀬氏との出会いによって、新しい事業に対しての「解像度が上がった」という。そこで折しも早期リタイアを考えていた廣瀬氏を誘い、大学時代の知人のエンジニアも含めた3人でヤモリを立ち上げた。

 不動産経営管理システムとなる大家のヤモリを無料公開しながら、投資家向けの情報発信を始めた。「ユーチューブ」と「インスタグラム」で、情報を発信し、閲覧者を増やしていった。その後、ヤモリの学校を開始するも、動画を見るだけでは実際の不動産投資に踏み込めないと考え、ヤモリの家庭教師を考案。SNSで募集を告知すると、すぐに250人ほどから応募があった。仲間が仲間を呼び、今も新規募集するとすぐに定員に達するほど人気だ。

 同社の最大の強みは、ファンが多いことだろう。ヤモリは創業時からITを駆使しつつ、アナログによるコミュニティーづくりに注力してきた。家主向けのイベントを創業時から実施。1期目は30人くらいの規模、2期目は3回に分けて合計240人が集まる会を開催した。交流することで自分たちの事業を理解してもらった。

 その結果、3期目の22年から「ヤモリサミット」という名前で、22年は550人、23年には会場に700人、オンラインで250人の参加者を集めた。「コミュニティーの力が価値を持つと思っていなかった。当初会員はお客さんの集まりだと思っていましたが、ヤモリの理念に共感して協力してくれる組織になっています」(藤澤氏)

空き家の課題解決に前進

 ヤモリはこれまで、第1ステージで中古不動産オーナーを増やし、第2ステージでは自社で中古不動産を再生するスキームを構築した。今回10億円の資金調達により、第3ステージへと展開していく。

 実はこの資金調達に貢献したのも、ヤモリの会員だ。設立5年未満のヤモリがこれだけの資金調達ができたのは、三菱UFJ信託銀行の担当者であるヤモリの会員が、「詳細まで事業モデルを理解した稟議書」(藤澤氏)を情熱を持って作ってくれたからだという。

 この資金調達により具体的に進めていく事業は、大きく分けて二つ。一つ目は、不動産事業にヤモリが融資する「ヤモリローン」の提供だ。ヤモリが、物件の取得や修繕に対して無担保、金利5%、返済期間15年で300万円まで融資し、中古物件への投資をしやすくする。

 二つ目は出口戦略に関する仕組みづくり。生徒が購入後にリフォームした物件をヤモリが買い取り、運用していく体制を強化することで、出口戦略を取ることが難しい中古物件の賃貸事業に取り組みやすくする。

 さらに、三菱UFJ信託銀行との協業による「ヤモリファンド」の開設も予定する。個人が買いにくい条件の物件をヤモリが購入、再生したのち、小口化して投資家に販売するスキームを想定している。「空き室賃貸ファンドの組成で空き家再生戸数を拡大します」と藤澤氏は意気込みを語る。

▲創業メンバーの廣瀬による「ヤモリの学校」

(2024年6月号掲載)

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