【電子版連載】次世代不動産経営オーナー井戸端セミナー:第4回(2)

賃貸経営リフォーム・リノベーション

「韓国におけるDIY リノベの活動とその意義」から「リノベーションの社会的意義と効用の多様性」を考える

【電子版連載】次世代不動産経営オーナー井戸端セミナー:第4回(1)に続き、Yoon Zoosun(ユン・ズソン)氏の講演をレポートする。

Yoon Zoosun (ユン・ズソン)氏(韓国)

[プロフィール] 韓国の国立忠南大学建築学科教授。中小ベンチャー企業部長官政策諮問委員。第18回ベネチア・ビエンナーレ国際建築展(2023年)の韓国館作家。東京大学都市工学科博士。前・国務総理室傘下建築空間研究院auri村再生センター長。

 

未来の建築の姿

未来の建築は、新たに造るだけでなく、既存のものを壊しながら再利用することが重要だと考えています。空き家を利用して新しい空間をつくり出す活動の一環として、2023年9月に「5 Days Parking Day(ファイブデイズパーキングデイ)」というイベントを開催しました。車中心の街から歩行者中心の街へ変えることを目指し、忠南大学の近くでカフェを復活させたり、老朽化していた木材をすべて取り外して新しくDITで再制作したりしました。これを通じて、歩くことを楽しむ文化を広めたいと考えています。

 

DIT七つのマニフェスト

私がDITで特に注目している部分は七つあります。その七つについて、私とstudio UDTT(スタジオ ウダンタンタン:韓国・大田)のチェ·アラム代表は、現代美術の祭典である23年のベネチア・ビエンナーレでDITの核心となる価値として、マニフェストの形で提案しました。
1.JUST HAVE FUN!
まず何よりも楽しくて面白く、元気いっぱいでやることが大切だと思っています。
2.IT’S CULTURE, NOT DRUDGERY
労働というよりは文化の一環であり、辛い仕事ではなく、楽しい文化として捉えるべきだと信じています。
3.SEEING BUILDS TRUST
見ることは信じることであり、理論書や難しい説明ではなく、現場で体を動かしながら学ぶことが大切です。
4.IT’S OKAY TO BOTCH IT!
たとえ結果が不完全であっても、それもまたユニークな魅力になります。何事も完璧である必要はなく、むしろ少し壊れていたり、不完全であったりすることにも価値があると考えています。
5.NO ONE LEFT BEHIND
誰でも参加できることを大切にしています。年齢や能力に関係なく、誰でも歓迎です。
6.AN ASSEMBLED FAMILY
DITは家族だけでなく、新しいコミュニティーをつくり出す力があります。参加する人々との関係性を深め、まるで関係人口のように新しいつながりが生まれる場です。
7.DIRECT ACTION MEETS SPACE
何はともあれ、アクションすることが重要だということです。

人が人を呼ぶDITプロジェクト

韓国では、こうしたDIYやDITのイベントはまだ少ないのが現状です。現在DITワークショップを企画して活動しているチームは八つほどで、これらのチームは私の友人たちで構成されています。DITをコンセプトに据え、さまざまな場所で空き家やパブリックスペースをより楽しく、面白くつくり上げています。
私は以前、群山(クンサン)という都市でDITの活動を7年間にわたり行っていました。その活動を進める中で、さまざまな関係者がどのようにコミュニティーを形成し、どのように深化させていくかを調査してダイヤグラムで表現しました。

最初は単なる参加者だった人が、やがてクライアントになったり、逆にクライアントだった人がディレクターとして関わるようになったりすることがあります。さらには、参加者が自分の家族、例えば配偶者やきょうだいを呼んで一緒にプロジェクトに参加することも増えています。こうしてDITの活動がどんどん広がり、さまざまな人たちがつながりを深めていく様子が見られました。
韓国でのDITは、その多くが地方政府からの支援を受けて都市再生事業の一部として行われています。しかし、DITやリノベに対する理解が公務員や行政に携わる人々に十分浸透しているとはまだいえません。報告書や資料で説明するよりも、まずは経験してもらうことが大事だと思っています。時間はかかるかもしれませんが、DITを新しいムーブメントとして市民レベルまで広げていくためには、未来に向けた大きなステップだと考えます。

 

𠮷原オーナーのまとめ

DIYではなく、DITの「T」が「Together」の意味であるという点を聞いて「なるほど、そういうことか!」と非常に驚かされました。私たちはこれまで空間の「ハード面」ばかりに注目していましたが、先生の話を聞き、すでにその概念を超え、地域や国全体としての捉え方に変わっていることに感動しました。特に、地域からアプローチする街づくりの考え方は、不動産という枠を超えており非常に新鮮でした。
これから日本でも空き家が増えることが予想されていますが、韓国ではそれがさらに速いスピードで進んでいるとのことで、私たちはまだそこまでの発想に至っていないように感じています。これまでの日本、そして多くの国々でも、完成形を提供することが価値とされてきました。不動産においても、完成したものを消費者に提供するというのが主流でした。
しかし、今は未完成のものを提供し、そこから一緒につくり上げていくというプロセスに価値が移ってきており、さらにその過程を「体験」として提供する方向に進んでいるのを感じます。Yoon先生がそうしたアプローチを体系化して、DITとしてまとめておられることに感銘を受けました。特に、人間関係の図は興味深いです。まさに「社会関係資本」というものを可視化し、証明しているようなものです。これからは、そうした社会関係を構築していく方向に進んでいかなければならないと強く感じています。

(2024年12月公開)
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