著者インタビュー:付言実行

賃貸経営入居者との関係づくり

付言実行(ふげんじっこう)遺言書に魂を込め幸せ相続を迎えるために

思いを伝え、相続人の争いを防ぐ

─遺言書における付言とは何かを教えてください。
 遺言書の本文の後に付け加える添え書きのことで、手紙でいう追伸です。遺言書の本文は、法的な効力を持たせるために、「何を、どれだけ、誰に相続させる」と明確に記す必要があり、文の調子も事務的になります。一方、付言は法的な効力がない半面、自由に書くことができます。「今までありがとう」「〇〇をお願いします」といった家族への感謝の言葉や要望など、遺言者本人の思いを心を込めて伝えることができます。

─なぜ付言に注目したのですか。
 きっかけは、ある女性からの相続手続きの相談でした。女性は母親を10年間自宅で介護した後にみとりましたが、母親は遺言書を残していませんでした。女性には、30年間連絡が取れていなかった疎遠な弟がいました。弟は遠方で自身の家族をつくり、母親の介護には一切関わっていません。ところが、遺産分割協議が始まると、「僕は子どもの頃から母と姉にかわいがってもらえていない」と言い、2分の1ずつの配分を拒絶し、結果的には弟が6割、女性が4割を相続して、母親の葬儀代も女性が負担しました。母親が遺言書とともに、女性への感謝と弟への気遣いの言葉を付言で残しておけば、弟も心を開いて母親のことを思い直したのではないかと感じ、改めて付言が重要だと気付きました。

─付言が効果を発揮した事例はどういったものがありましたか。
 お互いに80歳を超えて、3度目の結婚で結ばれた夫婦がいました。妻ががんで先立った際、財産を夫ではなくて長年疎遠だった一人娘にすべて譲る遺言書を残していました。ただし、妻は夫への愛情と幸せだった2人での生活への感謝の気持ちをしっかりと付言で伝えていたのです。夫も付言を何度も読み返し、「妻の気持ちはよくわかりました」と優しく答えました。遺言の内容にも納得できたのです。

─付言を書く際のポイントは。
 言葉の選び方です。簡潔かつ丁寧にし、お礼の言葉を必ず入れること。また、遺産配分が少ない人がいる場合には、配慮の言葉を述べることです。付言は、「遺言を書く理由」を述べることでもあります。まずは付言から書いて、次に本文という順序にすると、気持ちと頭が整理されたうえで、遺言を書くことができるでしょう。

著者プロフィール
木本直美(きもと・なおみ)

行政書士、大分県行政書士会別府支部支部長。亡くなった父の相続手続きをしていた母が過労で倒れたのをきっかけに、相続で困っている人を助けたい思いで一念発起。44歳から大学院に通い、不動産会社にも勤めて、相続に関する法律や不動産の知識を習得した。2018年に遺言相続専門の行政書士事務所を設立。遺言者の思いを付言で言語化することを推奨している。

著者:木本直美
出版社:ビジネス教育出版社
価格:1650円(税込み)
<概要>
生前に言えなかった思いを伝え、時には遺言内容の一部を強調し、注意喚起にもなるという付言。同書では、付言を書く際のポイントや実際の記載例を紹介している。付言がある遺言と、ない遺言とで遺産分割協議や遺族たちの気持ちがどう違うのか、具体的な事例も満載だ。「遺言を書く理由を記すことができるのも付言」と語る著者が、現状あまり知られていない付言の効果と重要性を解説する。

(2024年7月号掲載)

一覧に戻る

購読料金プランについて