賃貸経営の次なる成長のカギ 外国人の受け入れ法

賃貸経営トレンド

在留人数、労働者数ともに増加中 入居者ターゲットとして高まる存在感

在留外国人322万人 過去最高を更新

 厚生労働省は1月26日、2023年10月末時点の外国人労働者数を発表。204万8675人となり、過去最高を更新した。前年比で22万5950人増え、13年からの10年間で約3倍と、年々増加し続けている。実際に、国内に外国人が増えたと感じる人も多いのではないか。

 出入国在留管理庁によると、23年6月末時点の在留外国人の数は322万3858人で、こちらも過去最高を更新。在留資格別に見ると、「永住者」が最も多く約88万人、次いで「技能実習」が約36万人、「技術・人文知識・国際業務」が約35万人、「留学」が約31万人など。国籍・地域別では、中国が約79万人でトップ。次いでベトナム(約52万人)、韓国(約41万人)、フィリピン(約31万人)、ブラジル(約21万人)という順だ。

 分布を見ると、東京都が最も多く約63万人で約19・5%を占める。以下、愛知県(約30万人)、大阪府(約29万人)、神奈川県(約26万人)、埼玉県(約22万人)と続く。3大都市圏以外では静岡県(約11万人)や福岡県(約9万人)も10位以内に入っている。

 昨今、賃貸経営において、新たな入居者ターゲットに外国人を据える動きが出ている。 少子化で日本の若者が減少する中、今後も増加が見込まれる外国人について、今回取材した賃貸業界関係者たちは一様に「入居者として受け入れるべき」と声をそろえる。

34%が「積極受け入れ」 外国人閲覧、月15~20万人

*出入国在留管理庁報道発表(2023年10月13日)の公表資料を基に地主と家主で作成

 不動産情報ポータルサイト「LIFULL HOME,S(ライフルホームズ)」は23年11月、同サイトの検索サービスに「外国籍フレンドリー」として登録されている不動産店舗に対して調査を実施。回答者のうち約34%が外国人を積極的に受け入れていると回答した。

 日本エイジェント(愛媛県松山市)が、19年4月に開設した外国人向け住宅ポータルサイト「wagaya Japan(ワガヤジャパン)」には、外国人が入居可能な全国各地の物件が約17万件掲載されている。開設から1年ほどで約7万件まで伸び、その後も掲載数が増えていった。24年1月で、外国人の閲覧ユーザー数は月間で約15万~20万人、ページビュー(PV)は月間約50万PVだ。

 多数の契約や高い稼働率を実現した例もある。不動産の仲介、管理などを手がけるイチイ(東京都新宿区)は、約1万8500戸を管理し、そのうち約1180戸に外国人が入居している(21年度実績)。同社グループには、外国人と日本人が共同生活をするシェアハウスの運営会社などもあり、グループ全体の外国人向け賃貸契約は約1300件(23年実績)を数える。

 不動産賃貸事業を行う田丸ビル(東京都杉並区)の代表取締役で、東京都内に10棟117戸(23年12月末時点)を所有する田丸賢一オーナー(東京都杉並区)は、所有物件のうち約3割を外国人に貸し出し、「年間入居率100%を何度も達成しています」と語る。

トラブルには対応可能家主にもメリットあり

保証会社を活用すべき 安い初期費用が好まれる

 それでは、外国人入居者の募集はどのように行うのか。
 イチイの荻野政男代表取締役が著した「外国人向け賃貸住宅ノウハウのすべて」(住宅新報出版)によれば、日本で住まいを探す外国人たちの中には、日本語学校に通う学生、留学生、技能実習生や特定技能外国人、工場労働者やIT技術者、飲食店従業員といった日本で働く人々らがいる。もちろん、日本語レベルは個人によって差がある。
 大まかな募集の流れは、71ページのとおり。流れ自体は日本人の場合とさほど変わらない。重要事項説明や契約、生活マナーに関しては、相手の日本語レベルにかかわらず、一つ一つ項目を追って丁寧に行うことが必要だ。きちんと理解してもらえるように、時には筆談も使うといい。説明がしっかりとできていないと後述するようなトラブルが生じることがある。
 田丸オーナーにもポイントを挙げてもらった。外国人の間では口コミが大きな力を発揮し、入居につながる例が多いという。一例として、田丸オーナーは自身の著書「『入居率100%』を実現する『外国人大歓迎』の賃貸経営」(現代書林)の中で、「中国人とネパール人は口コミ効果が絶大」と紹介している。
 申し込み段階においては、外国人向けに強みを持つ家賃債務保証会社を利用することが「いわば絶対条件です」と田丸オーナーは強調する。その中でも、「複数の外国語に対応している家賃債務保証会社だと心強いです」と話す。また、田丸オーナーは、外国語対応の生活サポートサービスの利用も勧める。
 これらに加えて、荻野氏、田丸オーナーともに、初期費用が安いこともポイントになると指摘する。例えば、敷金は海外にも存在するが礼金はなじみが薄いのだという。日本の賃貸住宅にかかる費用を高く感じる外国人も多く、自然と初期費用が安いことが好まれるという。

定期借家契約も方法の一つ

イチイ
(東京都新宿区)荻野政男代表取締役(69)

 40年以上にわたり、外国人賃貸事業を手がけてきた荻野氏。自身の著書の中で、外国人入居者を受け入れて成功した家主の事例を紹介している。

 例えば、14室中13室が空室だった東京都内の築50年の木造アパートを外国人向けシェアハウスに転換し、初期費用ゼロ、保証人不要にしたところ、満室になったなどだ。

 荻野氏は「外国人入居者の受け入れは、なにも東京など大都市に限ったことではありません。福島県いわき市の家主の物件は、全体の3割となる11世帯が外国人です」と語る。地方においても、大学があれば留学生を受け入れている可能性があるため、そこでは外国人の家探しのニーズが発生すると指摘する。

 外国人の受け入れに伴い、71ページからのようなトラブルの事例もあるが、対策は十分可能だ。それでも不安な家主には、「リスクヘッジとして、定期借家契約を結ぶのも方法の一つです」と語る。1カ月間や3カ月間程度の契約にしてみて、トラブルが起きるようだったら期間満了で契約を打ち切り、何も問題がなければ長期の契約に変更すればいい。荻野氏によれば、定期借家契約は海外では一般的であるため、外国人も抵抗がないという。近い将来に建て替えを計画している物件などへ受け入れる際にも有効だ。

 荻野氏は「外国人入居者を受け入れると、われわれ日本人の国際感覚を養うこともできます。日本の若者の国際性を豊かにする後押しにもなりますから、ぜひ受け入れを検討してみてください」と語った。

偏見は絶対禁物

田丸賢一オーナー(41)
(東京都杉並区)

 田丸オーナーが代表取締役を務める家業の田丸ビルは、田丸オーナーの祖父が創業した。田丸オーナーは3代目だ。

 1968年の会社設立前に賃貸経営を始めていた同社は、数十年前から外国人入居者を受け入れていた。受け入れをさらに本格化したのは2012年ごろからだ。

「年間入居率100%を何度も達成」するこつの一部は、退去する外国人に、次の入居者を紹介するよう依頼し、契約が決まれば、退去時のルームクリーニング費用や原状回復費用の支払いを要求しないというもので、自身の著書でも紹介している。

 田丸オーナーは、外国人入居者を受け入れる際の重要な点として、「とにかく偏見を持たないことです」と声を大にして言う。「トラブルが起きるのではないか」といった懸念も、相手を理解していないことから生まれる誤解だとする。

 また、トラブル事例とは別に、外国人入居者の支払い能力について次のような指摘もする。「例えば家賃が5万円だとします。日本よりも物価が低い国から来た外国人入居者からすれば、日本人にとっての5万円よりも高いはずです。それを払うわけですから、同じ家賃5万円を支払う日本人よりも支払い能力が高いということも推測できます」(田丸オーナー)

 近年は事業用のオフィスも外国人に貸し出しており、IT事業を起業した中国人やネパール人と契約した。

「当社にとって、外国人の借主の中でも、彼らのような起業家は今までにはなかった新たな層です」と語る。

ごみ分別は色や数字で 臭い対策には定期清掃

 家主や仲介会社、管理会社などの業界関係者の中には、外国人入居者を受け入れることで、さまざまなトラブルを懸念する人もいるだろう。実際にトラブルは起きている。しかしながら、多くは対策可能なものだ。以下、主な事例を挙げる。

Ⅰ 騒音問題
 友人を自宅に招きパーティーをしたり、母国と日本の時差により、夜間に電話をする。
対策:マナーを守ってもらうよう説明する。

Ⅱ ごみ問題
 分別をしない。粗大ごみを放置する。
対策:色や数字でごみの種類をわかりやすく表示する。マナーを守ってもらうよう説明する。

Ⅲ 油汚れや香辛料の臭いなど
対策:入居者負担で定期的にルームクリーニングをすることを契約に含める。

Ⅳ 家賃の滞納、不払い 
対策:家賃債務保証会社を利用する。

Ⅴ 転貸や多人数同居 
対策:無断転貸や多人数同居は禁止であることを説明する。

※荻野氏や田丸オーナーへの取材を基に地主と家主で作成

未然防止には 母国語での説明が大切

 これらトラブルに向き合う際に大切なのは、「外国人だから」「○○人だから」と一様に決めつけるのではなく、あくまで、その入居者個人の問題だと捉えることだ。というのも、居住のマナーやルールを、「なぜそうしなければならないのか」と理由を添えて丁寧に説明すると、多くの外国人はこういったトラブルを起こさないのだという。

 説明にあたっては、きちんと理解してもらうためにも、相手の母国語で伝えることだ。

 仲介会社や管理会社は、外国語を話せるスタッフを雇用するか、それが難しければ、最近はいろいろな翻訳ツールが商品化されているので、それらを活用する方法もある。家主は、そういった対応をしている仲介会社や管理会社に相談するといい。

3点ユニットでも人気 支払い能力高い人も存在

 外国人入居者の受け入れは、家主にとってもメリットがある。日本人に不人気で空室が埋まらないような物件でも、金銭面で余裕のない外国人には好まれる場合があるからだ。

 例えば、3点ユニットがある物件。外国人はシャワー派が多いこともあるが、何より家賃が安いことに彼らは魅力を感じるという。また、職場や学校に通ううえでの立地は気にするものの、それが必然的に「駅から近くでなければならない」ともならない。築古物件も気にしない。日本の物価を高く感じる属性の人の場合は費用を抑えようとするほか、母国の文化との違いを背景に、物件に対する捉え方も日本人と同様ではないためだ。

 また、「中には支払い能力が高い外国人もいる」との指摘もある。日本エイジェントの草薙匡寛執行役員東京本部部長は、「母国の経済発展もあってか、15万円ほどの家賃を払う中国人留学生もいます。日本人学生では、なかなかそうはいきません。そのため、新築物件に中国人留学生を受け入れたいという声も増えています」とする。不動産仲介支援業務を行うスマイルホーム(東京都新宿区)の長谷佳美代表取締役は、「日本人の1人あたりの家賃はバブル期以降下落が続いています。今は東京都の平均家賃単価が8万円。一方、海外から就職のために日本に来る外国人は会社から住宅手当をもらえます。私が過去に家探しをサポートした外国人の中には、16万~25万円、多い人で約50万円の家賃を払う人がいました」と語る。

ポータルサイト事業で大阪進出

日本エイジェント(愛媛県松山市)
草薙匡寛執行役員東京本部部長(42)

 日本エイジェントは23年10月から、wagayaJapanを運営する事業部の大阪支店を稼働させた。これまで同事業部は東京本部内にあったが、大阪府は東京都、愛知県に次ぎ在留外国人が多く、大阪・関西万博を控えて、さらなるグローバル化も見込まれるため、関西エリアの不動産会社や外国人を雇用する企業との連携を深める。

 wagayaJapan事業の責任者でもある草薙氏は、賃貸業界における外国人入居者の受け入れの広がりを実感している。草薙氏は、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会(東京都千代田区)主催のセミナーで、21年から3年連続で外国人入居者受け入れに関する講演を行っており、年々受講者が増えているという。

「引き続き業界全体に対する啓発が必要です」と話す草薙氏。同時に、外国人に対して日本で生活するためのサポートにも力を入れる。その一つがwagayaJapan内にある「wagayaジャーナル」。日本の文化や慣習、住まいなどに関する記事を集めたページだ。これまでに300本以上を掲載している。


 今後、外国人入居者の受け入れがさらに広がるためには、仲介会社や管理会社の多言語対応が重要になるとも指摘する。

▲wagayaジャーナルのページ。多言語表記にも対応して▲る

優良顧客たり得る 外国人入居者

 日本人に不人気な物件にも入居し、中には割高な家賃を支払うことができる人もいる―。外国人入居者は、優良顧客たり得る存在であることがわかる。
 まだ外国人入居者を受け入れたことがない家主は、相手をよく理解せずに「外国人だから」と決めつけて二の足を踏む必要はない。これからは積極的に受け入れを検討してみてはどうか。

外国人仲介を支援するクラウドツール

スマイルホーム(東京都新宿区)
長谷佳美代表取締役

 外国人に対応した仲介会社の業務を不動産テックで支援するスマイルホーム。同社はこのほど、クラウド型プラットフォームの「スマイルホーム」を商品化した。

 外国人ユーザーは物件探しから内見依頼・予約、申し込み、契約、生活サポート依頼などをクラウドを通して行い、仲介会社は同じくクラウドにおいて、物件のマッチング、審査、進捗管理などができる。全部で5言語を表示可能だ。ユーザーと仲介会社が、翻訳機能付きのチャットをすることが可能で、必要に応じてスマイルホームの社員も加わった3者間チャットができる点も特徴の一つ。契約書など、翻訳された重要書類をダウンロードすることも可能だ。

 「仲介会社によっては、窓口での外国人対応に数時間を要することもあります」と話す長谷氏。そういった仲介会社の生産性の低さに着目し、スマイルホームの開発に着手。接客の迅速化、簡素化に寄与できるよう工夫した。同社の調査では、スマイルホームを利用すれば、直接雇用による一般的な外国人対応と比べて、コスト削減率が4割を超えるという。

 賃貸業界の外国人入居者受け入れを、不動産テックの立場から後押しする。

▲スマートフォンでも利用可能なスマイルホーム

(2024年4月号掲載)

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