「のこぎり屋根」が特徴の染色工場
クリエーターたちをつなぐイベントスペース化
クリエイターズビレッジ
栃木県足利市は古くからものづくりの町として栄えてきた。特に織物産業が盛んで、今でも市内には600を超える繊維関係の事業者が存在するという。そしてこの町の工場の屋根には特徴がある。「のこぎり屋根」と呼ばれ、のこぎりの⻭のように三角屋根が連なり、入る光の具合が工夫されているのだ。
(右から)Blidven(栃木県足利市)髙橋嶺代表取締役
朝日染色(同)田邉友紀代表取締役、田邉雅敏会長
こうした繊維の町ならではの工場を再生したのが、イベントスペース「クリエイターズビレッジ」だ。1918年創業の老舗染色会社、朝日染色(栃木県足利市)の工場1棟をリノベーションした。「もともと職人の力で栄えた足利ですが、人口減少とともにその数は減っています。そこで、ものづくりに携わる人々をつなげるコミュニティーをつくりたいと考えました」と Blidven(ブリドヴェン:同)の髙橋嶺代表取締役は話す。
大学時代こそ東京で過ごしたが、生まれも育ちも足利市の髙橋代表取締役は、家族が経営する朝日染色が事業縮小を決定した際に、工場の再生利用を提案。2023年よりリノベに向けて動き出した。
▲地場の事業者のアドバイスをもらいながらDIYをしていった
広さ547㎡の工場は、15年ほど倉庫として使われていた。運良く雨漏りをしている箇所は一つもなかった。また木造でありながら、一部は鉄骨で補強されていたことで、耐震性にも心配はなかったという。
とはいえ、これだけの広さの建物を、建築家でもない人間が一人で再生することは不可能だ。そこで、髙橋代表取締役は地域の大工や電気店などに建物再生の趣旨を説明。すると、各事業分野から賛同者が集まり、協力の輪が広がっていった。
リノベでは木材を多く使用。また味気なく感じた蛍光灯を温かみのある電球に付け替えた。こうして無機質だった工場に「人と人」が結び付く場としての雰囲気が生まれた。
24年5月の連休中に行われた「ココカラマルシェ」がクリエイターズビレッジの初披露の場になった。オーガニックをテーマにした食事や音楽、そしてワークショップを提供したのはおよそ40店舗。普段は、この町の若者は一体どこにいるのかと疑問に思うほど、集まる場所がないという状態だったが、クリエイターズビレッジができたことで、サービスを提供する側もそれを楽しむ側も一堂に会する場所が生まれたのだ。
ココカラマルシェの開催で県内外からの視線を集めた後も、イベントの開催やミュージックビデオの撮影などに利用されているという。髙橋代表取締役は、今後はビジネスマッチングの企画も行っていきたいと考えている。後継者がいない作り手とクリエーティブな仕事をしたい若者を結び付ける場所。これが「ものづくりの町」に残った古い工場の新しい使命なのだろう。
▲のこぎり屋根の垂直部分のガラスはすべて北を向いている。これは布の色や柄がよく見えるように設計されているからだ
(2025年 2月号掲載)
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