エリア座談会  第2回名古屋市

賃貸経営家主の会#エリア座談会

家主5人が語る未来につなげる賃貸経営 第2回名古屋市

愛知県のみならず、中部地方で最も多くの人口を抱える名古屋市。賃貸住宅も多く存在する中、地主として事業を承継する5人に話を聞いた。

▲愛知県を中心とした地主の会「チームJ」のメンバーの皆さん

─自己紹介をお願いします。

伊藤智洋オーナー(以下、伊藤)
 名古屋市内で3棟70戸ほどを父と2人で経営しています。賃貸経営に関わるようになったのは約10年前からです。


小林憲生オーナー(以下、小林)
 名古屋市内をメインに、戸建て1戸を含む5棟88戸、それに加えて土地1区画を所有しています。父親が病に倒れたことをきっかけに、2008年くらいから家主業に入りました。


岸洋行オーナー(以下、岸)
 私は2棟28戸、それに事業用テナントとコインパーキングを所有しています。10年前まではサラリーマンでしたが、父親が急逝して賃貸経営を引き継ぎました。6年前から専業家主になっています。


志水紀美江オーナー(以下、志水)
 私の場合は、嫁ぎ先が地主でした。戸建て1戸を含む6棟150戸を所有しています。約25年前より、家賃の明細書を管理会社から受け取るなど少しずつ手伝い始め、本格的に関わるようになったのは18年前からです。


加藤亜紀オーナー(以下、加藤)
 私は名古屋市名東区という、割と転勤族の多いエリアをメインに9棟198戸を経営しています。私で3代目になる地主ですが、父が不動産投資好きで、今は東京にも区分マンションを9戸所有しています。15年くらい前から賃貸経営に関わっていますが、海外や沖縄県に住んでいたこともあり、遠隔で自主管理をした経験もあります。

─皆さん、2代目、3代目ということですが、先代とは賃貸経営のスタイルは変わってきていますか。

伊藤 私の父は典型的な昔の家主です。現状維持で、すべてを事業者にお任せ。それに対して私は、バリューアップをして他物件との差別化を図り、入居者を含めた三方良しを目指したいです。
加藤 伊藤さんと反対で、私は事業者に嫌われている家主だと自覚しているのですが、それは事業者から甘く見られたくないと思っているからです。2年ぐらい付き合うと、だんだんと見積もりを高くしてふっかけてきたりして…。それは家主側として気を付けなければならないと思います。

志水 だから、ところどころくぎを刺しつつ、「こちらもわかっていますよ」という表情を出しながら、相手にも利益を出していただく。結果として、こちらの依頼も聞いてもらえるという関係をつくるのが一番いいのかなと思います。

─賃貸経営での交渉術ですね。

小林 私は、自主管理をしながら、今も会社員なのですが、会社の仕事で培ったことは、賃貸経営においても役に立っていますね。
岸 僕の場合は会社員時代に法務もやっていたので、契約書を自分で作成するのが得意です。そういった会社でのキャリアは役に立ちました。事業者との交渉もやっぱりスムーズでしたね。

─それはこれから引き継ぐ次世代にもそうであってほしいということですね。

岸 若いうちに代替わりしたいという親世代もいますし、次世代でも早く自分がやりたいという人もいます。私としては賃貸経営を引き継ぐのは40~50歳くらいで十分なのではないかと思います。経験値を積んだほうがいい。

志水 子どもたちは、今はいろいろな仕事をするのがいいと思います。私は、子どもの人生をこの賃貸事業で縛ってはいけないと思うのです。地主だとエリアが限られるじゃないですか。土地の近くにいないと仕事にならないですし。健康なうちに、どんどん外の世界に出たらいいでしょう。

伊藤 私は今40歳ですが、今後の賃貸事業は、ただ住まいとして貸すというところから脱却する必要があると考えています。介護や飲食などを組み合わせた物件作りをしていきたいです。そのため、各業界で働く経験もしています。

小林 引き継ぐ側の考えもありますからね。私には娘が2人いますが、私のように自主管理家主になるのは難しいと思います。滞納が発生した際に、家賃債務保証会社を使わずに、自分で話をつけにいくのは、私だからできていると思う。

一同 そう思いますよ!

小林 父親世代の、家賃手帳に印鑑をもらいながらお金を回収していく賃貸経営を見ていましたし、クリーニング会社もない時代でしたから、親が掃除に行って「次の人が入るね」と話したり。入居者との関わりは信頼のうえで成り立つ人間関係という意識が強いので、管理会社に依頼するイメージも湧かなかった。でも、次の世代にそれを強いても無理でしょう。これから形態を変えて、どのように承継していくかが悩みですね。
加藤 子どもたちの世代にはその世代のアプローチの仕方があると思うので。反面教師みたいな感じで、代々、変わっていくのではないでしょうか。

▲岸オーナー(左)と志水オーナー

承継を念頭に物件を購入する

─引き継ぐという話で言うと、古い物件をどう承継していこうと考えていますか。

加藤 次は必ずしも賃貸物件でなくていいと思います。例えば、老人ホームが増えてきていますし、そういった福祉施設も選択肢に入るでしょう。賃貸物件にこだわらず、今ある土地をどう利用するかではないですかね。ただ、私の継いだ物件の場合はほとんど同時期に建てられており、一斉に古くなるので、解体して新しく建て直すまでのすべてを子どもたちに託すのは、荷が重すぎるかなという心配があります。

小林 その心配があるので、私は所有物件の築年数のバランスがよくなるように意識して購入しています。築年数が同じ物件ばかりになると、今、加藤さんが言ったように一斉に建て替え時期がやってくる。それを10年に1棟ずつ解体して新築にしていくというサイクルをつくっていくといいと思うのです。

 RC造の物件を仮に50年で建て直すとすると、その50年の中で5棟を10年ごとに分散すればできるでしょう。もちろん、自分が50年も関われるとは思わないので、20~30年に1回建て替えするところを横で見させれば、娘たちも経験を積むことができる。建てる、管理・運営をする、中古を買う、解体する、また建てるというサイクルを分散することがいいかなと考えています。

岸 私の場合は、父親が生きているうちは、本人が建てた物件に愛着があり、なかなか解体することができませんでした。当事者である親が判断してくれればいいけれど、親がいる前で子どもが判断することはできない。僕はその点で苦労しました。



伊藤オーナー(左)と小林オーナー

─引き継ぐには資産を増やしたり、組み換えたりしていく必要があります。

加藤 息子には「名古屋の田舎にこんなに土地を持ってどうするの?」とよく言われます。彼は今、東京で暮らしているのですが、恐らく次の代では名古屋の物件を売却して、東京の物件に資産を組み換えるのではないかなとみています。

志水 でも、資産の入れ替えはプラスに働くのではないですか? 場所を変えて、東京の立地のいいところに物件を購入していけば、建物が小さくなっても価値は上がっていきます。
岸 「地主あるある」ですが、先祖代々の土地だからといって、ずっと持ち続けるのは、どうなのかなと私は思います。
小林 理屈はそうだとしても思い入れがあるから、なかなかね。

一同 そうですね。

小林 賃貸経営を「事業」として考えています。そうすると、止まることはできないので、娘たちの事業承継の意思を固めてもらう5年先まではガンガン投資しておこうかなと考えています。

岸 娘たちに恨まれるよ。

小林 借金まみれだからね。

志水 賃貸経営を行っていると、借金は必ずついて回りますね。

加藤 借り入れがないと続けられないという実態があります。
岸 地主という家業は、本人の意思ではやめられないですから。

小林 妻や娘たちは「現状維持でいいでしょう」と言いますが、何もしないと建物がどんどん朽ちていくから、維持はできません。そこを補う分だけ増やしていかないと、事業が回っていかなくなります。事業としてやる以上は、走り続けなければなりません。

志水 1棟目を建てたときに融資を担当した銀行員が、夫にこっそり「これからもの(物件)が集まってきますよ」と言ったのです。そのときは「やっと1棟目を始めたところなのに、物件が増えていくとは?」と聞いていました。実際にやっていくうえで、確かに、1棟目を補う物件が何か必要だということがわかりました。「ものが集まる」ってこういうことだったのだなと。

岸 そう、地主の家業は自転車操業。一旦走り始めたら走り続けなければなりません。

加藤 とはいえ、家主の仕事には定年がないといういい部分も。われわれもこの仕事がなかったら、すごく退屈だと思いますよ。

加藤オーナー

(2024年4月号掲載)

一覧に戻る

購読料金プランについて