永井ゆかりの刮目相待:4月号掲載

法律・トラブル不動産関連制度

連載第91回 法律改正と不動産価値

新スタンダード

 先日登壇したセミナーで2025年の賃貸住宅市場をテーマに講演した。副題は「時代が大きく変わる」と付けた。その理由は家主に大きく関わる二つの制度が25年に施行されるからだ。二つの制度とは、建築物省エネ法の改正と住宅セーフティネット法の改正。今回は、4月からすべての新築住宅・非住宅に省エネルギー基準の適合を義務付ける建築物省エネ法の改正に注目したい。

 というのも、建築費を抑えて収益性を上げたいオーナーの中には、この法改正をネガティブに捉えている人が少なくないためだ。最近増えているZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)の賃貸住宅を検討することは「もってのほか」と思っている人もいるだろう。

 ただ、冷静に考えると、国がこうした基準を作るということは、それ自体が「スタンダード」になっていくということにほかならない。法改正後しばらくは、対象となる建物も少ないだろうから、新省エネ基準に満たない建物でもそれほど大きな影響はないだろう。だが、年月が経過していくうちに、新省エネ基準の建物は増えていき、やがて入居者にとっても賃貸住宅を探す際の「スタンダード」となっていくことは推測できる。

耐震基準との共通点

 そのことに気付かせてくれたのは、ZEH開発に注力している収益不動産販売会社が増えている現状だ。

 「全国賃貸住宅新聞」の2月10日号で「賃貸住宅デベ ZEHで差別化」という記事を執筆した記者が話していた内容が興味深い。「投資家の出口戦略も踏まえて販売する収益不動産販売会社では、今回の省エネ基準適合の義務化について、かつて新耐震基準が義務付けられた時と同様の影響があるのではないかと話していた」というのだ。

 つまり、「旧耐震」と「新耐震」では、今や不動産の価値が大きく違うのは周知のとおり。これが省エネ法の改正により、「旧省エネ基準」と「新省エネ基準」とで区別され、物件選びにも大きく影響する可能性があるのだ。

 かつて新耐震基準が義務化された当初それまでよりも建築費は上がり、オーナーは困惑しただろう。だが、今はそれがスタンダードになっており、そこに対してあえて反発する人はいない。むしろ、地震大国であるわが国において、耐震性能が重視されるのは当然だろう。

 省エネ性能は耐震性能ほど命に関わる問題ではない、とは言い切れない。近年の猛暑では、高齢者が熱中症になって亡くなったというニュースが多く報道されている。「エアコンをつければいいではないか」という話では済まされなくなるだろう。
 ネガティブな話を先に持ってきたが、個別売電仕様の太陽光発電設備付きZEHを手がける住宅メーカーの担当者は「築年数によって不動産価値が大きく変わることはなくなる」と話していた。光熱費の負担が軽減されるからだ。こうした価値も含めて、新スタンダードについて考えていきたい。

永井ゆかり

Profile:永井ゆかり
東京都生まれ。日本女子大学卒業後、「亀岡大郎取材班グループ」に入社。リフォーム業界向け新聞、ベンチャー企業向け雑誌などの記者を経て、2003年1月「週刊全国賃貸住宅新聞」の編集デスク就任。翌年取締役に就任。現在「地主と家主」編集長。著書に「生涯現役で稼ぐ!サラリーマン家主入門」(プレジデント社)がある。

(2025年 4月号掲載)

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