Regeneration~建物再生物語~:真珠養殖場を複合施設へ

賃貸経営地域活性

真珠養殖場を複合施設へリノベ
資源を生かし地域の活性化を目指す

うみらぼ(三重県志摩市)
川野晃太代表(34)

 4月、三重県志摩市の英虞湾(あごわん)沿いに、宿泊施設やワーキングスペースを備えた複合施設「うみらぼ(UMILABO)」がオープンした。宿泊・研修ができる平屋1棟と、トイレ・シャワー棟、広々としたウッドデッキから成る300㎡の空間だ。

 この場所は元真珠養殖場で、2021年当時は廃虚だった。地域活性化を目指すうみらぼ(三重県志摩市)の川野晃太代表の父親と祖父が所有・経営していたが廃業。父親は解体費用の数千万円を捻出できず、1人で建物を解体しようと考えていた。

▲開放感あふれる環境で仕事を進めることができる

 その状況を知って立ち上がったのが川野代表だ。自分を育ててもらった真珠養殖場の歴史や文化を残したい、故郷に恩返ししたいと考えた。身内の不幸をきっかけに、「今」何かをしたいと感じた川野代表。解体に加えて地域再生の足掛かりとなる土地活用に自ら取り組むと決意した。

▲取り組みに賛同した大工は工事のために大阪から来た 

 しかし1人では作業を進められない。川野代表は、SNSへ投稿し友人らへ呼びかけて、地域再生への思いに共感した協力者を集めた。協力者は全国各地から集まり、最終的には約200人が片付け作業に参加。建物の片付けから一部解体、さらに建物のリノベーションまでにかかった費用は約5500万円。「うみらぼ」の優先利用権や真珠、カキの返礼品が付いたクラウドファンディング、日本政策金融公庫(東京都千代田区)と三十三銀行(三重県四日市市)からの融資、自己資金で賄った。

 21年10月から始まった片付けは約1年かかった。「『うみらぼ』は国立公園の中にあり、自然公園法の改築への制限があるため、協力者から専門知識がある人を紹介してもらえて助かりました」と川野代表は話す。

After
宿泊や研修、イベントなど多目的に利用できるようにリノベした

             Before
             リノベ前はいかだや桟橋が崩壊寸前だった 

 23年8月からは、建物の改修を始めた。真珠養殖場の建材を活用するために基礎部分を残し、梁は新しい建物に再利用。また、いかだの建材は屋根の部材に生まれ変わらせた。

 リノベで新しく加えた建材は、地産地消を意識した。三重県産のスギを床や壁材として使用。また、アコヤ貝の形を模した洗面ボウルは、地元の陶芸家に依頼した。地域に貢献する取り組みならばと、特別に制作してもらえた。

 こうして24年4月に「うみらぼ」はオープンした。しかしプロジェクトはこれで終わりではない。訪れた人が船で回遊しながら過ごすことができるエリアを目指し、現在は2棟目のプロジェクトを進行中だ。「2棟目はオフィスやキャンプの機能に特化した施設をつくっていきたいです。取り残された元真珠養殖場はまだ200~300もあります。これらを活用し、志摩市で新しいビジネスが生まれ、地域の雇用につながる環境をつくることが目標です」(川野代表)

▲夜になると、星空と海を一緒に楽しめる

▲アコヤ貝の形をした洗面ボウルは、真珠のような光沢を放つ

(2024年8月号掲載)

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