賃貸借契約時に取るべき対策
家主と入居者の財産を守る 死後事務委任契約と保証サービス
高齢入居者の死後、残置物の処理や契約解除ができず、悩む家主は多い。特に相続人がいない、または判明しない場合には家主が家庭裁判所に申し立てを行うことになり、費用と時間がかかってしまう。しかし、賃貸借契約を結ぶときに死亡時の対策をしておけば、そうしたリスクは減らすことが可能だ。
書面で残し、手続きの明確と迅速化
死後事務委任契約とは
リスクを減らすための対策として有効なのが、入居者の死後に発生する各種事務手続きを第三者に委任する、死後事務委任契約だ。
委任できる内容は葬儀の手続きから、死亡届や税金の支払いなど行政に関する手続き、生前に利用していた生活関連サービスの支払いやそれらの契約解除、残されたペットに関する手続きまで多岐にわたる。
賃貸住宅の入居時に死後事務委任契約を結んでおくことで、賃貸借契約の解除や明け渡し手続きをスムーズに行うことが可能となる。
契約内容の明確化
死後事務委任契約の内容は、入居者の状況に応じて異なる。家主として、入居者に何をどのように委任しておいてもらいたいのか、外せない条件は何なのかなど、事前に考えておいたほうがいい。
ただ、死後事務委任契約を作成するにあたり、どこから手を付けていいのかわからないという家主も多いだろう。
死後事務委任契約で委任者が受任者に委任できることとして、主に以下のような内容が挙げられる
・死亡届の提出や健康保険証の返還、
税金に関する手続きなど行政手続き
・居住する賃貸不動産の契約の解除や明け渡し手続き
・医療費や光熱費、携帯電話料金など、
各種料金の精算と解約手続き
・残された私物の処理やペットの環境整備
モデル契約条項を活用する
基本を押さえた契約書の作成
佐藤貴美法律事務所(東京都文京区)の佐藤貴美弁護士は、「住宅賃貸借で想定される死後事務委任契約として、借主が死亡したときの賃貸借契約の終了権限と残置物の処理権限を第三者に委任するものがあります。国土交通省と法務省は、このような契約に係る『残置物の処理等に関するモデル契約条項(以下、モデル契約条項)』を作成・公表しています。改正住宅セーフティネット法では、これを参考にした死後事務委任契約を、居住支援法人と入居者との間で結び、残置物処理を円滑に実施する枠組みが設けられました。今後は、単身高齢者の孤独死などに備えるツールとして、このモデル契約条項の積極的かつ実践的な活用が行われるでしょう」と話す。
モデル契約条項を参考に、まずは受任者と委任内容を決める。受任者は入居者が指定するのが一般的だが、望ましいのは推定相続人。これは、相続が発生した場合に遺産を相続すると推定される人を指すが、推定相続人がいない、あるいは判明しない単身の高齢者もいる。
その場合には管理会社や住宅確保要配慮者居住支援法人もしくは、社会福祉法人などに依頼することが可能だ。ただし、家主は入居者と利益相反関係にあたるため、受任者として認められないことがあるので注意したい。
委任内容を受任者に通知
モデル契約条項では、賃貸借契約時の年齢が60歳以上の単身高齢者を想定している。入居者が亡くなった後の荷物の相続人と送付先、さらに廃棄などの処理方法を決め、受任者に知らせておく。これにより入居者の死亡後、受任者は速やかに委任されたものを指定先に送ったり、指定された方法で処分したりすることができる。
なお、モデル契約条項はいわば「見本」のようなもの。自身の賃貸借契約において有効に活用するためには、弁護士をはじめとした専門家に相談しておくと安心だろう。
保証サービスと保険を利用しリスク回避
進む保証会社の利用
高齢者が賃貸住宅を借りる際の大きなハードルの一つが連帯保証人の確保だ。親族も高齢だったり遠方にいたりして連帯保証人として認められない、または子どもに迷惑をかけたくない、身寄りがないなどで、連帯保証人を用意できない人は多い。
そうしたときに助けになるのが家賃債務保証会社(以下、保証会社)だ。ただ、保証会社にも立て替えた家賃を回収できないリスクが伴う。そこで保証会社は独自の基準を設けて入居者の審査を行うため、すべての人が利用できるわけではない。
保証範囲や期間は各社各様
保証会社が保証する対象は、主に入居者が支払うべき毎月の家賃だ。共益費や更新料、原状回復費用も含まれることが多い。一方で、物件の明け渡しなどの訴訟関連費用や、残置物の撤去・保管費用、孤独死による特殊清掃費用まで対応するかどうかは保証会社によりさまざま。また、管理会社の変更や入居者が逮捕された場合は保証対象外になってしまうことがあるので注意が必要だ。
実績や支払い能力も確認
孤独死保険と組み合わせて、その後の空室期間の家賃を保証する商品や、オフィス・店舗などの事業用不動産におけるテナント料滞納を保証する事業用家賃債務保証など、保証サービスも多様化している。
家主にとって心強い存在といえる保証会社だが、多くの家主は不動産会社から紹介された保証会社を利用しているケースが多いのではないだろうか。自身が求める保証内容、対応実績を有しているか、さらには支払い能力や債権回収ノウハウの有無、財務基盤はどうかなど、不動産会社任せにせず、確認しておくといいだろう。
(2024年9月号掲載)
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