海外駐在経験で培った考えを生かす 現場を見ることで課題解決
東京都屈指の閑静な住宅街、世田谷区深沢。三田秀一オーナー(東京都世田谷区)は同エリアに7棟35戸の賃貸物件を所有する。
三田オーナーは35歳でベトナムへ赴任したのを皮切りに、約23年間にわたり駐在員として海外と日本を行ったり来たりする生活を送ってきた。そのため、実家の賃貸経営には関与してこなかったが、2019年の帰国を機に、法人を設立。当時90歳を超えていた父親から賃貸経営事業を承継した。
三田秀一オーナー(64)
(東京都世田谷区)
物件の管理をし始めてまず目に付いたのが、駐輪場の乱雑さだった。単身赴任中、父親の賃貸経営を手伝っていた妻に聞くと、引っ越し時にそのまま捨てていかれる自転車もあるという。「共用部の乱れは物件の乱れ。借主から管理不足と見られてしまう」と考えた三田オーナーは、入居者の自転車を登録制にした。
物件名と部屋番号、自転車の登録番号を申請してもらい、管理を始めた。そして、DIYで駐輪場に白線を引いたり、番号を付けたりすることで、各入居者がどこに駐輪すればいいかを明確にした。すると、駐輪場を含む共用部が整理整頓されるようになったという。
共用部の整頓が改善された現在でも、日課のように物件周辺を確認して歩いている。競合物件の設備などを調査し所有物件の競争力を掌握している。「会社員時代はメーカー勤務で、海外の工場の立ち上げや監督をしていました。その中で、実際に現場を見ることの重要性を身に染みて感じたのです」(三田オーナー)
▲住戸ごとにスペースを割り当てたローズガーデンの屋根付き駐輪場
賃貸経営はサービス業 入居者との交流がヒント
現場、つまり物件の入居者の声を聞く機会も大事にしている。新規入居者に対しては生活が落ち着いた入居1カ月後、既存の入居者は更新時を目安に、食事に誘うのだという。「これだけの数の賃貸物件がある中、物件自体に魅力がないと入居者を獲得することは難しいです。そのため、実際に住んでいる人の意見を聞く機会をつくりたかったのです」と三田オーナーは話す。
そのヒアリングの成果を反映したのが、21年に竣工した全8戸の「ローズガーデン」だ。建築プラン自体はハウスメーカーによるものだが、細かい点に入居者からの声を反映している。
その一つが、リビングのテレビジャックの位置だ。対面キッチンのある別の物件に住んでいた女性入居者から「料理を作っているときにテレビを見られたらよかった」と聞いたため、キッチンカウンターの目線の先にある壁にテレビジャックを設置し、キッチンからもテレビが見られるようにした。
今後は、父親が建てた築35年の物件の建て替えを視野に入れている。新築物件に関しては、駐車場へのEV(電気自動車)コンセント導入を含め、時代の変化に対応できるようにしたいと考える。「ライフスタイルが変化する中で、入居者が必要とするものをしっかりキャッチアップし続けたいと思います」と三田オーナーは話す。
(2024年9月号掲載)
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