第5回 アスベスト訴訟二審編
一審で完全敗訴してからは、何とか二審で逆転しなければ不動産業界に大変な迷惑をかけてしまうのではないかと思い、必死に対策を考えました。
余談ですが、一審期間中、眠れない日々が続いていました。それに拍車がかかり、二審期間中のある日、一睡もできないまま朝方に吐血。救急車で運ばれる事態になってしまいました。
裁判は本当に真剣勝負です。吐血するほど自分を追い詰めてしまい、精神的にもぼろぼろになっていました。
【一審判決の分析】
一審の判決では「現実社会における不動産売買の現状について、裁判官に理解されなかった」という印象を私は受けました。
使用レベルの差はあれども、「アスベスト」「石綿」を見聞きした場合、ほとんどの人が忌避感を覚えるはずです。そうであれば、物件価格が下落方向に動くのは当然の市場原理だと思いませんか。この原理を裁判官が理解していないと言うつもりはありませんが、明らかにこの点の解釈に温度差があるように感じました。
そこで、この温度差を埋めるために、人々がどれだけ「アスベスト」に忌避感を抱くのか、明らかにする必要があると考えました。
【二審の対策】
弁護士との作戦会議で、「アスベスト」は忌避感を抱かれる、つまり心理的瑕疵であることを立証できないか相談しました。
その際に私が考えた手段は、多くの不動産投資家に依頼してアンケートに答えてもらうことでした。そしてそのアンケート結果に信ぴょう性を持たせるために、不動産鑑定士に意見書を書いてもらってはどうかと提案しました。しかし弁護士は懐疑的でした。
なぜなら、裁判官は権威のある専門家の意見は参考にする傾向がありますが、アンケートのような権威のないものは、その効果が限りなく薄いためです。
しかし、これ以上良い案が挙がらず、弁護士と一緒に不動産鑑定士事務所に相談に行ったところ、不動産鑑定士から出てきた案は私と同じでした。そしてアンケート収集を行うことになりました。
アンケートの質問事項は意見書の構成に関わるため、私が原案を作成後、不動産鑑定士に修正を依頼しました
ウェブを利用してアンケートを収集したのですが、私に共感した不動産投資家が多く、100件のアンケート結果を集めることができました。
【二審判決結果】
このアンケート結果と意見書をベースに、二審向けの準備書面を作成し、提出。アンケート結果が市場感覚と一致しており、心理的瑕疵があると主張しました。しかし、裁判は1回限りで、判決は一審を補足したに過ぎない内容で負けてしまいました。
次回、最終回ではなぜ負けてしまったのか、今後どのような影響が考えられるのかを説明したいと思います。
多喜裕介オーナー
32歳で不動産賃貸事業を始め、34歳で独立した元サラリーマンの大家。現在、アパートを中心に15棟112室と太陽光発電所2基を所有。著書に「田舎大家流不動産投資術 たった3年で家賃年収4700万円を達成した私の成功法則」(合同フォレスト)や、「田舎大家流『新築×IoT』不動産投資術 新築アパートはスマートホームで成功する!」(セルバ出版)がある。
(2024年10月号掲載)
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