話題のスポット:島への移住者を受け入れるシェアハウス

賃貸経営地域活性

島への移住者を受け入れるシェアハウス
コモンスペースを使って起業のチャレンジ

2023年10月、淡路島にオープンしたシェアハウス「ココデトモル なぎさ」。コモンスペースでは入居者や淡路島への移住者たちが活発に交流しながら、それぞれ自分の気持ちに向かい合い、理想の未来の姿をつかみ取ろうとしている。

▲暖かなたき火を囲むイベント参加者たち

 とっぷりと日が暮れた秋の夜、たき火を囲む人々の姿があった。「哲学芋カフェ」と名付けられたこのイベントに参加したのは8人。この日のテーマは「記憶について」ということで、参加者それぞれが記憶にまつわる考えを議論していった。イベントの最後には、サツマイモやマシュマロを焼きながら、それぞれが今後やりたいことを語った。
 このイベントが開催された場所はココデトモル なぎさだ。6室の専有部を持つシェアハウスで、1階と2階にコモンスペースを備える。シェアハウスの入居者はもちろん、会員になれば地域の住民もコモンスペースを無料で利用することができる。
 これまでに、クリスマス会のような季節のイベントのほか、バリスタによるコーヒー焙煎ばいせん講座、そして「地域おこし協力隊」として淡路島で養蜂を行う人が蜂蜜の食べ比べイベントを開催するなど、同スペースを活用している。

たかべホームズ(兵庫県洲本市) 
大森宗典社長(46)

若い世代の家との関わり変化経験を得られる場所づくりへ

▲大きな窓からは海が臨める好立地

 ココデトモル なぎさを手がけるのはたかべホームズ(兵庫県洲本市)の大森宗典社長だ。たかべホームズは、1919年に材木商として創業した地域密着型の工務店で、長らく実需用戸建て住宅の建築に特化してきた。今回初めて賃貸住宅を手がけることになったが、その理由を「若者たちの家の所有欲がなくなってきたことを感じたから」と大森社長は話す。「住むというより、経験や知識を得るために住宅を利用するのではないかと考えました」(大森社長)

▲車で5分の場所にある伊弉諾いざなぎ神宮での結婚式の着付けスペースとして活用 

 家業に入って以来、住宅というハード面の整備に尽力してきた大森社長だが、今後はソフト面を提供していきたいと思ったのだという。その思いが決定的になったのが新型コロナウイルスの流行だった。人々の交流がなくなることでこれまで存在していたコミュニティーが消えていく中、交流を生み出す場所づくりを目指したのだ。

 当初は、バー形式の飲食店をシェアハウス内につくる構想もあった。しかし、バーでは時間帯や客層が限定されてしまうことから、広く利用してもらえるコモンスペースを選択した。「淡路島で起業したいと思う移住者のチャレンジショップとして使ってもらえたらと思います」(大森社長)

▲コモンスペースには黒板も設置

シェアハウスは巣立つ場所 淡路島で活躍する足掛かりに

 現在の入居者は、男性1人と女性3人だ。入居者から1人、「コミュニティーマネージャー」を選んでいる。月1回の食事会への呼びかけのほか、シェアハウス内のルール作りやSNSへの投稿を行う。

 入居者の入れ替えは頻繁だそうだが、この状況を大森社長は歓迎している。「ココデトモル なぎさを淡路島移住の入り口にしてもらえたら。関係性や知識を得て、島での定住への一歩を踏み出してくれるとうれしいです」(大森社長)ココデトモル なぎさで過ごした時間に背中を押されて、カフェ経営など夢の実現に向けて動き出すことができた入居者もいる。目の前は海、高い建物に遮られない広い空、そしてゆったりと流れる時間の中で自分を見つめる時間を持てる効果は大きい。「ココデトモル」には「個々」が「此処」で内面から湧き上がる思いに灯をともせる場所にしたいという願いがこもっている。

 現在は、イベントの企画も参加も外部からの移住者が中心となっている。だが、今後は地元住民にも参加してもらえるような仕組みをつくっていきたいという。そして、ココデトモル なぎさの実績を積み重ねることで、淡路島でのシェアハウス事業のプロデュースができたらと大森社長は考える。洲本市だけでも23年には1347人の転入者がいた。だが、「大手人材派遣会社が淡路島へ移転して以来、移住者向けの賃貸物件は不足しています。一方で、空き家の数は増えているのです」(大森社長)。こうした状況に対して、空き家のリフォームやソフト面の提案をすることが、既存物件の上手な循環と地域の活性化につながっていくのだろう。

(2024年12月号掲載)

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