再生可能な不動産を良質なストックに変えていく。シェアカンパニー(東京都渋谷区)は、求心力を失った土地や空き家・空きビルを、建築とオペレーションの観点から刷新し、当該不動産の活気を取り戻している。取り扱う物件はシェアハウスを中心に、オフィス、店舗、宿泊施設などさまざまだ。事業内容や今後の展開について、佐々木祥太社長に話を聞いた。
シェアカンパニー(東京都渋谷区)
佐々木祥太社長(42)
[プロフィール] 1982年8月25日生まれ。宮城県登米市出身。2005年、工学院大学建築学部を卒業後、フリーランスのインテリアデザイナーを経て12年にシェアカンパニーに入社。22年に代表取締役に就任。
開発、運営を一貫 不動産価値を創造
——不動産開発や建築、管理など、幅広く事業を展開していますね。
不動産の仕入れから企画・開発、販売、管理までワンストップで行っていることが当社の強みです。土地を購入して新築を建てることもあれば、既存物件をリノベーションして再生するケースもあります。施工後は、当社が借り上げて運営するケースが大半です。不動産、建築、オペレーションの観点から、当該物件の価値を最大化させるための取り組みを行っています。
——具体的にはどのようなことをしていますか。
不動産には所有者にとっての価値、建築には社会的・文化的な価値があります。不動産の立地や、舞台装置となる建築の格好良さなどは価値を決める要素として重要ですが、その物件の真の価値は、その場所に誰が集まり、どのように使われるのかというオペレーションによって決まるものです。当社は、不動産、建築、オペレーションをシームレスにつなぎデザインすることで、不動産の経済的価値の創出や社会課題の解決へとつなげることを考えています。
——事例としてこれまで手がけてきた案件を教えてください。
東京メトロ丸ノ内線池袋駅から徒歩3分の場所で、マンションの運営をしています。元々61戸のワンルームマンションだったものを2012年に当社が借り上げて、共用スペース付きのマンションに改装しました。20㎡以下で、トイレとバス、洗面から成る3点ユニット式だったマンションは、ワンルームマンション規制がない時期に大量供給されたこともあり、競争力が低下していました。新たに共用部をつくることで、シェアハウスのようでありながら、プライバシーがしっかり確保できる暮らしが実現できることが訴求力となり、高稼働率を維持しています。同物件は22年に再度、大幅な内装投資を実施して、シアタールーム、コワーキングスペース、フィットネスジム、ルーフトップガーデンなどの共用設備を充実させました。賃料は7万5000~11万円(別途共益費2万円)で運営しています。家具付きやペットとの入居が可能な部屋も用意しています。
——新築ではどのような事例がありますか。
京王電鉄京王線代田橋駅付近で、ワンルーム9戸とシェアハウス18戸から成る物件を新築し、運営しています。16年に共同事業主名義で土地を購入して物件を建て、完成後に当社が購入しました。360度見渡せる開放的な屋上には、ヨガができたり、プロジェクターで映画観賞ができたりと、入居者同士のコミュニケーションの起点となる仕掛けを施しています。購入してから6年間保有し、23年に売却しましたが、その後も当社で借り上げて運営中です。
400戸借り上げ 宿泊施設にも注力
——開発や改装だけでなく、借り上げて運営するという点が御社の特徴ですね。現在の借り上げ戸数は。
リースバックと呼んでいますが、約400戸ほどです。大半がシェアハウスで、そのほかシェアオフィスや飲食店、宿泊施設もあります。
——シェアハウスが多い理由は何でしょうか。
当社は現会長の武藤弥が09年に設立しました。当時、武藤は不動産デベロッパーで開発業務に従事する中、リーマン・ショックを経て、事業継続性の観点からストック事業を主軸とする不動産会社の設立を考えたのです。また人口減少や平均賃金の低下により日本経済が縮小していくとの考えもあったため、事業を展開するにあたってのポイントを二つに定めました。一つは不動産がセーフティーネットの役割を果たすこと。もう一つは、人と人との接点を多くつくることです。
——それを実現する商材がシェアハウスだったということですね。
設立当初はリーマン・ショックにより土地の価格が安かったため、会社で取得し、新築を建ててオペレーションを整え、売却後にリースバックしてその戸数を増やしていく事業モデルを構築したのです。一方で、有象無象のシェアハウス運営会社が参入し、サブリース会社が経営破綻するという出来事もあって、オーナーの資金調達が難しくなってしまいました。物件や事業性の差別化が必要だったことからも、当社が手がける物件は共用部を充実させ、一般的なシェアハウスよりは高価格帯にしています。高い賃料収入を実現しながら高稼動で運営して、事業収益性が高い状態で売却しています。
——現在の年商と、今後注力していくことについて教えてください。
24年5月期の売上高は5億800万円です。シェアハウスや寮のサブリース事業は引き続き増やしていきますが、今後は特に、インバウンド(訪日外国人)市場の受け皿として宿泊施設の運営数を増やしていく考えです。当社では、民泊施設を3カ所で運営するほか、16年よりワイズアウル(同)というグループ会社でホステルを4棟運営しています。
——場所はどこですか。
東京都内の2カ所のほか、札幌市と京都市で「WISE OWL HOSTELS(ワイズアウルホステルズ)」というブランドで展開しています。アウル(フクロウの意)のごとく賢く、寝る間も惜しむくらい一日中遊び尽くしてほしいというメッセージを込めています。新しい出会いや発見のきっかけを提供するホステルとして誕生しました。また、民泊施設も運営しており、こちらはすべて東京都渋谷区内で運営しています。
——利用者に提供する体験を重視しているのですね。
宿泊施設に限らず、その物件に集まる人がどのような価値をやりとりできるのかというのは非常に重要です。私自身、過去に、建築的に最高傑作の店舗を手がけられたと実感した物件がありましたが、そのテナントは経営を軌道に乗せられず、3年後に閉店してしまいました。今思えば、顧客満足度を高めたオペレーションにより、販売価格を高くすることができたのではないかと思います。当社は投資会社という点から、テナントの経営にもリスクを取って関わることができます。市場のニーズを見極めながら、利用価値のある場所をもっとつくっていきたいと思っています。
所在地:東京都渋谷区千駄ヶ谷4-3-3 THE FORUM 北参道3F
設立:2009年7月
資本金:3500万円(準備金含む)
事業内容:不動産コンサルティング、売買仲介、賃貸仲介、サブリース(シェアハウス、シェアオフィス、民泊、宿泊)など
(2024年12月号掲載)
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