永井ゆかりの刮目相待:2月号掲載

賃貸経営不動産投資

連載第89回 環境の変化

時がたって変わるニーズ

「建築時とは周辺環境が変わってしまって、このままの活用は難しい」

 最近取材でこんな言葉を聞き、改めて不動産は動かない資産であることを認識した。

 建築した40年前、近隣に大学あるいは工場があり、学生や勤務する従業員向けの住まいとして、その周辺エリアの賃貸ニーズはあった。だが、大学キャンパスの都心部への移転や工場の海外への移転により、住む人がごっそりいなくなってしまって空室が埋まらないと嘆く声は各地で耳にするだろう。 

 実は、顧客ニーズの変化は賃貸住宅に限らない。倉庫などは、建築当初は同辺が野原だったが、近隣に大規模な商業施設ができたことで、車の交通量が増え、運営しにくくなってきたという話を聞く。

 いずれにしても、建物自体は災害が発生したり所有者が建て替えを考えたりしない限りなくなることはない。だが、時代によって周りの環境が変わることで、ニーズがなくなることも、経営環境が悪化することも可能性としてはある。

 建築後40年くらいであれば、建物の減価償却はほぼ終わり、また建築時の借り入れも完済している。そのため、建て替えの選択はしやすいだろう。しかし、20年ほどしかたっていない場合は、建て替えの選択は簡単にできない。

 新築する際は、賃貸住宅、非住宅系の建物にかかわらず、先のことも考えて計画することが、今後は重要になってくる。

柔軟性ある不動産活用

 相続のことを考えて、土地活用や売却を検討する地主もいるだろう。その場合も、今後の都市計画道路の状況や企業のオフィス、店舗、工場などの拠点進出といった情報収集が欠かせない。  

 特に都市計画道路は時期こそ変更になる可能性はあっても、将来実施されることは決まっている。所有地のどの部分が道路にかかるのかを把握して、活用方法は慎重に考えたいところだ。土地の一部を売るのであれば、売却する土地と活用する土地の分割方法によって、その土地の価値も変わってくる。

 かなり難しい課題ゆえに、自分だけで考えることに限界はあるだろう。土地の分割方法については、不動産開発や土地活用に精通している事業者や相続に強い専門家と相談する必要がありそうだ。

 ただ先のことを考えて計画しても、今の時代、いつ何が起きるかわからない。災害はもちろんのこと、新型コロナウイルスをはじめとした感染症による影響もある。これからの時代に、もっと予測不能な出来事も起きるかもしれない。

  だからこそ、建物に柔軟性を持たせることが重要になってくる。そのためには、「もしも」の可能性を考えたい。住宅として貸し出すことが難しくなった場合にはどんな活用があるのか、住宅以外ならばどんなスペースを使いたい人が増えているのか、さらには、街にどんな施設や店舗があると地域住民に喜ばれるのかという誘致も含めて、今ある建物を活用できる方法を選択肢として持っておいたほうがいいだろう。動かない資産だからこそ、活用方法を変えることが大切だ。

Profile:永井ゆかり
東京都生まれ。日本女子大学卒業後、「亀岡大郎取材班グループ」に入社。リフォーム業界向け新聞、ベンチャー企業向け雑誌などの記者を経て、2003年1月「週刊全国賃貸住宅新聞」の編集デスク就任。翌年取締役に就任。現在「地主と家主」編集長。著書に「生涯現役で稼ぐ!サラリーマン家主入門」(プレジデント社)がある。

(2025年 2月号掲載)

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