物件新築時に損をしない市町村条例への対応①

法律・トラブル不動産関連制度

新築物件を設計するときには、様々な制約を受ける。市町村の条例もそのうちの一つだ。ただ法律で定められた義務を的確に読み解けば、不利な制約を軽減し、物件の収益性を向上させることができる。詳しい話を専門家に聞いた。

一級建築士事務所 向井建築設計事務所(東京都江戸川区)
向井一郎所長(56)

代表的な制約は建築基準法と条例

「需要に見合わない」の声

 投資回収のために所有する物件の収益を最大化させることは、家主であれば誰もが考えることだろう。建築コストが高騰する昨今、多額の資金が必要になる新築であればなおさらだ。立地や入居者ターゲットを考慮したうえで、住戸の数や各戸の広さなど、ぜひともベストなプランで臨みたいところ。

 しかしながら、建物の設計ならびに建築には制約がつきものだ。その最たるものが「建築基準法」。そして、建築に関わる各自治体の「条例」もある。

 1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉)を中心に、収益物件だけで61棟642戸の設計を手がけてきた一級建築士事務所向井建築設計事務所(東京都江戸川区)の向井一郎所長の元には、ほかの設計者と物件を新築した家主から、市町村の条例に関連して、次のような声がよく届くという。

「駐車場附置義務に従ったが、そのせいで建物の1階に住戸を造ることができず、容積率を使い切れなかった。設置した駐車場は需要に見合わずに空きが目立つ」

 これでは家賃を得る機会を損なうだけでなく、駐車場も稼働せずにマイナス要因になっている。なぜ、こういったことが起こるのか。今回はその要因と、これらの事態を避けて物件の収益を上げる方法を、向井所長の解説とともに事例を交えて紹介する。

覚えておきたい用語

 初めにポイントになる用語を押さえておこう。

 まずは建築基準法。建築物の敷地や構造、設備、用途などに関する最低限の基準を定めた法律だ。また建築基準法に基づいて都道府県が制定する条例もある。東京都でいえば東京都建築安全条例がそうだ。このほかに、各市町村の条例もある。

 次に「建築確認(建築確認申請)」。建築主は、建物を着工する前に、計画する建物が法令に適合しているかを自治体(もしくは民間の建築確認検査機関)にチェックしてもらう必要がある。これを建築確認といい、建築主事(建築確認や工事完了の検査などを担当する公務員)または指定確認検査機関の確認を受けて建築確認済証を取得しなければならない。(実際は建築主から依頼された設計者が役所に出向いて建築確認のやりとりをすることが多い)

 続いて「建築基準関係規定」。これは建築確認で適合させる必要がある各法令のことで、建築基準法においては消防法や駐車場法、水道法、都市計画法など16項目が規定されている。各自治体の条例においては、建築基準法の40条や41条に基づいていると書かれている条例のみが建築基準関係規定と見なされる。

【キーワード】

■建築基準法
国民の生命・健康・財産の保護や公共の福祉の増進を目的に建築物の敷地や構造、設備、用途などに関する最低限の基準を定めたもの。

■建築基準法に基づく都道府県条例
建築基準法に基づいて都道府県が制定する条例。東京都でいえば東京都建築安全条例。

■建築確認(建築確認申請)
建築主は、着工の前に、計画する建物が法令に適合しているかを自治体(もしくは民間の建築確認検査機関)にチェックしてもらわなければならない。

■建築基準関係規定
建築確認で適合させることが必要な各法令のこと。建築基準法において消防法や駐車場法、都市計画法など16項目が規定されている。

 

役所と協議後に建築確認申請

 建物を設計してから着工するまでの大まかな流れについて、建物の着工前には建築確認が必要なのは前述のとおりだ。ただ、一般的には建築確認申請をする前に、役所に対して条例の確認を行う例がほとんどだという。その後に基本設計が行われ、役所と設計協定書を締結した後、実施設計(基本設計での間取りや仕様を基にした実際の施工のための設計)をして建築確認に進む。

▲向井所長から提供資料を基に地主と家主で作成

(2025年 2月号掲載)
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