がんばる地主:事業用物件でまちづくり

土地活用賃貸住宅

こだわりのファミリー向け住宅に加え事業用物件で住みやすいまちづくり

 栗原オーナーの所有物件は、母屋を中心に2棟27戸のマンションのほか、テラスハウスが5棟30戸、戸建て物件が18戸、ほかに事業用として使われている建物が4棟ある。そのうち1棟は定期借家として認可保育園に貸し出し、すぐ近くには放課後児童クラブとして使われている建物もある。

栗原敏明オーナー(72)(さいたま市)

栗原敏明オーナー(さいたま市)は、長年、所有する土地で天然素材にこだわる家を造ってきた。住宅に限らず、保育園などを誘致し、エリアの発展に貢献している。

 

 栗原オーナーは、1983年に実家の不動産経営に関わるようになった。都内の学校法人に勤めながら、父に収益物件を建てることを提案した。借金を嫌がった父は、現金で鉄筋コンクリート造のテラスハウスを建設。収益物件の経営について理解したことで「相続対策になるならいいね」と納得し、融資を受けながら3棟のテラスハウスを建てていった。

 当時を振り返り、栗原オーナーは「父は婿養子だったから、土地は自分の財産だという意識が薄かったのだと思います」と語る。

 「今、木造戸建てが立っている一帯は、父の代では底地になっていました。父が元気なうちに交渉してもらい、段階的に返してもらった部分もありますが、間に合わずに300坪のうち100坪ほどが借地人に渡ってしまった土地もあるのです」(栗原オーナー)

 昭和の地主然とした大らかすぎる父の経営スタイルに介入していった栗原オーナーだが、90年に父が倒れたときは相続対策に追われることとなった。

 借入金額を増やそうと鉄筋コンクリート造のマンションを2棟建てたが、本業が忙しい時期でもあった。都内のオフィス近くに、埼玉県内の建設会社社員を呼び出して打ち合わせをしたほどだ。この時の物件に対しては、今でも「もっと良い部屋にできた」という悔いが残る。折しも世間はバブル経済の崩壊を迎える。竣工時には設計段階での想定家賃から2万円も下がる事態となった。

 退職し、専業オーナーになったのは99年、46歳の時のことだ。

ファミリータイプや自然素材 ほかにはない物件で人気獲得

 栗原オーナーは、先代にマンション建設を持ちかけた時から、一貫してファミリー向けの間取りにこだわってきた。今では周辺にも戸建ての賃貸住宅が増えてきたが、当時は部屋数の多い賃貸物件ということで差別化に成功していた。

 2012年には、さいたま市の浦和駅と都内主要駅を結ぶJR上野東京ラインが開通。栗原オーナーの所有物件からはバス一本で浦和駅に行くことができる。新型コロナウイルスの影響下ではリモートワークが一般化し、都内勤務の人々に週1回程度の出社を前提とした郊外需要が高まった。ここ数年は特に、近隣エリアでファミリー向け賃貸が好調だ。1983年当時からこだわってきた広めの間取りに、さらに需要が生まれていった。 

 建設時だけでなく、リフォーム時も入居者の需要をしっかり捉えている。古い物件では和室を洋室に作り替え、こまめに手入れすることで入居者が途絶えない。栗原オーナーは「今の時代は、家族で住むなら最低3室は洋室であるべきだと思っています」と話す。そのため、今では4LDK未満の間取りはほぼすべてが洋室になっている。

 

 また、01年からはリフォームや新築で天然素材にこだわるようになった。木目の美しい壁や床の建物にはまきストーブが設置されている。戸建てやテラスハウスの建物は、煙突がそびえる外観が特徴的だ。

 入居者の多くは、ほかにはない栗原オーナーの物件を気に入って入居している人たちだ。入居の予定があるわけではないが「東京勤務になった場合に自然素材の家に住みたい」と名古屋市から内見に訪れた夫婦もいたという。

保育園や学童クラブの誘致で子育て世代への訴求力アップ

 栗原オーナーの物件には、事業用借家も含まれる。息子の経営するレストランバーを含め、多業種に貸し出すことが経営リスクの分散につながっている。

 その一つである保育園の立つ土地には、医療モールを建てる計画があった。しかし、周辺に競合となる病院が数カ所あったことや、地域貢献につながる内科や小児科のテナントが見つからなかったことで断念。その後、16年に認可外保育事業の一つであるナーサリールームの経営者と知り合い、前述の土地に保育所を建設して貸し出すことを提案した。

 建造物などの条件を満たしたことで、事業者はナーサリールームから認可保育園へと業態を変更。社会福祉法人を設立し18年に営業を開始した。栗原オーナーは「結果的に、所有するファミリー向け物件の近くに保育所ができて、新婚夫婦や子育て世代により強く訴求することができました」と語る。

 栗原オーナーの自然素材へのこだわりは、保育園建設にも反映された。園長から外壁をピンクにすることを提案され「ピンクに塗るなら貸せません」と言って経営者を慌てさせたほどだ。栗原オーナーは「賃貸住宅もそうですが、特に子どもたちには、自然素材の中で健康的に育ってほしいのです」と話す。

 19年には、栗原オーナーからの提案で保育園の隣にある建物で、同じ事業者による放課後児童クラブの営業が開始した。未就学児から小学生までの子どもを預けられるとあって、保護者に好評だという。
 ファミリー向けの間取りや自然素材と、子育て世代に優しい物件を造ってきた栗原オーナー。保育園や学童クラブの誘致によって、より子育てしやすいまちへと所有物件が立つエリアを発展させている。

(2025年 5月号掲載)

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