永井ゆかりの刮目相待:5月号

賃貸経営コラム永井ゆかりの刮目相待福祉

連載第92回 「商助」という考え方 

初めて知った風習

 2月の満月がきれいな夜、父が死んだ。実家は東京郊外にあり、親戚の大半はかつて農業を生業としていたいわゆる地主の分家。葬儀は亡くなってから10日後に行った。高齢化による多死社会で火葬場の予約が取れなかったため、日が空いてしまったのだ。

 だが、そのおかげで私も家族と共に葬儀の準備をすることができた。葬儀の準備で驚いたのは、地域の風習が残っていることだった。私が子どもの頃には田畑だった近所の光景が住宅へと変わっても、なお昔から続く「隣組」という地域共同体が残っていたのだ。この隣組が葬儀という場において重要な役割を担っていた。

 葬儀の準備にあたって、隣組の1軒である本家にいろいろ教えてもらった。父が亡くなったその日、まず連絡したのは親戚、その次に隣組。隣組は実家のある地域では6軒くらいで組成されている。6軒のうち3軒が父の訃報を聞き、その日の夕方には集まってくれた。訃報の知らせを近所50軒ほどに配布し、通夜と告別式は受付を担当していただいた。告別式後に火葬場で執り行った初七日にも参加してもらい、その後の食事会では上座に座ってもらった。謝礼は渡したが、その金額は隣組内で決められていて、少ない額だ。

 近年は葬儀を家族葬で行うケースが増えている。さらに葬儀を行ったとしても、すべて葬儀事業者に依頼するケースが大半だろう。それだけに、父の葬儀では貴重な経験をした。

共助の難しさ

 葬儀に限らず、かつてさまざまな地域で近隣住民同士が協力しながら生活を営んできた。いわゆる「共助」。そんな風習が残っている実家の地域もまた隣組という形態は残っているものの、中心となる親世代は高齢化。子どもたち世代は、私の実家のように存在すら知らないケースもある。

 地域の関係性が希薄になり、さらに今後地域住民が高齢化する中で何かあったときに「共助」に難しさを感じる。そんな中で、先日横浜市にある地域の高齢者が安心して暮らすことができるうえに地域交流を持てる賃貸住宅「まごころアパート」を訪れた。そのアパートでは、IoT機器を活用した見守りシステムが搭載されているが、それ以上に注目したいのは、コンシェルジュとなる地域の有償ボランティアが拠点とするコミュニティーキッチンがあることだ。その場で食事やお茶をしながら過ごすことができる。

 重要なのはコンシェルジュの役割。彼らがいることで、何か問題が起きた時に対応が可能となる。このコンシェルジュに払うフィーは家賃に含まれるという。

 「共助は、非常に曖昧。どれだけ機能するかもわからない。だから私たちは商いが地域を助けて、地域が商いを助ける『商助』によるサポートを提供することにしました」。オーナーの平川健司氏はそう話していた。

 超高齢社会を迎える中で、地域での助け合いは持続可能な新しい形に変わっていく必要があるだろう。

永井ゆかり

永井ゆかり

Profile:東京都生まれ。日本女子大学卒業後、「亀岡大郎取材班グループ」に入社。リフォーム業界向け新聞、ベンチャー企業向け雑誌などの記者を経て、2003年1月「週刊全国賃貸住宅新聞」の編集デスク就任。翌年取締役に就任。現在「地主と家主」編集長。著書に「生涯現役で稼ぐ!サラリーマン家主入門」(プレジデント社)がある。

(2025年 5月号掲載)

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