赤字ホテルをFC加盟で黒字化 父から継いだ家業を再生
家具からホテルに事業転換
FCに入ることで稼働率を2割アップすることができた。一方で時代の流れから家具販売事業は落ち込んだ。結果として、上手に事業の乗り換えができたという。
――高松のリブランド時に投資資金の手配はどう工面されたのですか。
2人の弟と私、それぞれ1000万円ずつ出して3000万円。銀行からも借り入れましてなんとか工面しました。
――個人で資金を出すとはずいぶん兄弟仲が良いのですね。
兄弟3人で家具事業に携わっていました。当時はまだ家具の会社も儲かっていましたしね。それに、ちゃんと改装しておかないと、アパホテルだと思って泊まりに来るお客様に失礼になるのではないかという気持ちがありました。
――オープンしてどうでしたか。
初日から満室になりました。お客様の半分以上がアパカードを持ってこられるのを見て、やはりブランド力のすごさを実感させられましたね。
――反対に、家具販売事業に逆風がやってきたとか。
それまで百貨店や大型スーパーマーケットといった量販店などに高級価格帯の家具を卸していました。好調な時には、18億円ぐらい売り上げたこともありました。ホテルFCに加盟した当初も、まだ7億、8億ぐらいは売上がありました。しかし、2015年後から家具は売れ行きが落ちてしまい、一方でホテル事業が好調になったことで、「なんで家具屋は儲からないのだ!」となっていったのです。以前とは真逆ですよね(笑)。今は、社屋や倉庫など残っている物件を貸しているだけで、家具の事業は辞めてしました。
――仕入れの多い家具メーカーはキャッシュフローが厳しいですよね。
家具は売れば売れるほど、どうしても仕入れがついてくる。そのため運転資金がたくさん必要です。損益分岐点を超えたら当然儲かりますが、なかなかすごい利益が出てくるわけでもありません。一方、ホテルは最初に建ててしまえばそれが仕入れのようなものなので、運転資金がほとんどかかりません。ホテルの場合は、お客様1人でも、100人でも同じ経費がずっとかかってきますが、仕入れがないため、損益分岐点を超えれば売上イコール利益のようなもの。長年やっていた製造・卸売業という商売とは感覚が違いますよね。
――家具事業からホテル事業へ、大きな事業転換をされましたね。
どんな商売も波がありますが、ホテルは競合が多いとはいえ、その時々の調子のいい人が利用してくれますからありがたいですね。サーフィンで例えるなら、当社はちょうど隣の良い波に乗り換えられたのかなと思っています。
――FC加盟していなかったらどうなっていたでしょうね。
これは余談ですが、アパホテルとの契約日に赤坂駅前で記念に宝くじを買ったのです。普段は滅多に買わないけれど、今日は縁起の良い日だから…と話したら、アパホテルの現常務に「浅野さん、うちと契約したら宝くじが当たったようなものだから買う必要ないですよ」と言われました。今思えば、あの言葉は正解でしたね(笑)。
リニューアル投資で好循環
高松の自社ホテル再生後は、紹介を受けた伊勢原駅前にあるビジネスホテルをFCとして開業。こちらも好調に推移しており、増室もした。

(After) 初日から満室となった伊勢原店 (Before)
――高松店では増築にも踏み切りました。ずいぶん資金を投入されたのではないでしょうか。
隣地の駐車場やガレージの遊休スペースを活用して28室分の増築棟を作りましたので、1億6000~8000万円くらいです。増築棟のほうは完全に新築のアパホテルですし、直営と同じ仕様になっています。
――伊勢原駅前のホテルには縁があったのですか。
この物件のオーナーは地元で100年続く会社です。以前は「伊勢原グリーンパレスホテル」という別のホテルが入っていました。同ホテルが立ち行かなくなり、オーナーの意向もあって賃貸借契約終了とともに撤退したそうです。もともとアパホテル本社に運営の打診があった話でしたが、私が2店舗目を希望していたこともあり、「浅野さん、どうですか?」と本社から紹介してくれました。
――伊勢原店のリニューアルにも相当お金をかけましたよね。
最初は1億2000万円、その後追加で2億円ぐらい投資しました。ここは増室もしていますから。実は伊勢原店をやると決めた時、友達や兄弟みんなに大反対されたのです。「もともとあったホテルが立ち行かなくなるような場所で、同じホテルとして入ってうまくいくはずがない」と。
――前ホテルの経営状況はどうだったのでしょうね。
稼働率は60%弱ぐらいだったのかと。主に中国人ツアーの団体をとっていたようです。当時の従業員がそのまま残って働いてくれていますが、客室単価は低かったと聞いています。
――それでよく開業を決断されましたね。
高松でリブランドしてアパホテルにした途端、お客様がどっと来たという経験は、人から聞いた話ではなく実体験ですので。「これは絶対にお客様が来る!」と確信していました。
――オープンしてみていかがでしたか。
高松の時と同様に、半分以上のお客様がアパカードを持ってきてくれて、初日から満室でしたね。「アパホテルだと思って泊まりに来たけど、なんかあんまりきれいではないな」などと言われるかと少し心配もしていたのですが、そういうお客様は一人もいない。つまり、以前のホテルも運営はきちんとされていたのでしょうね。やはり悔しいかな、名前のブランド力という影響は大きい、と実感させられましたね。
――どのような客層からの需要があるのでしょう。
出張者が半数、近隣での工事事業に携わる方々が半数という印象です。ここでもアパカードの力を感じますが、仕事現場近くにある町田のアパホテルが取れなくて車でわざわざ通勤しているお客様もいました。
――伊勢原店も増室したそうですね。
ここは当初102室だったのを館内の遊休スペースを活用して今は107室まで増室しています。これもアパホテル本部に教わったのですが、各階にあったリネン庫をワンフロアに集約し、その空きスペースをすべて客室に変えたのです。コインランドリーと自動販売機を設置した場所が各階に一つずつあったところも一つに集約。残りを客室に変えて増室しました。
――いわゆるレンタブル比を上げるということですね。
客室を5室増やしても、別にエレベーターや従業員を増やさなければならないわけではありません。お客様が部屋で使う光熱費が変動するぐらいで、丸々売り上げが乗ってくるというわけです。客室が増えれば、朝食を食べる人も増えるし、自動販売機でジュースを買う人も増えますしね。
――四国の高松と神奈川県の伊勢原という、まったく異なる立地で2つのホテルを経営しているメリットは何かありますか。
高松店は街中に位置していますし、出張利用のお客様がほとんど。そのため、コロナ下では大打撃を受けました。でも、伊勢原店はたまたま近くで新東名高速道路の工事があったこともあり、それほど大きく売上が落ちなかったのです。この経験がありますから、2店舗とも同じエリアにあったと思うと、ゾッとしていまいますね。
――FC加盟後から2店舗合わせると相当な額を投資していますが、どのくらい回収できているのでしょうか。
コロナがなければ残債は恐らくなかったと思います。ちょうどコロナで背負ったぶんが、今残っている感じでしょうか。コロナ下では当社も赤字を出しましたが、アパホテルに加盟していなかったら会社の存続に関わっていたかもしれません。
――やはりリニューアル投資もいりますよね。
いりますね。高松店の旧棟にある60室も1億5000万円ほどかけて、ユニットバスまで全部替えていますしね。もともと別のホテルだっただけに、どうしてもアパホテルの仕様に近づけなければなりません。伊勢原店も毎年ワンフロアずつ改装していくつもりです。今年の6月から着工しますが、きれいになればその分稼働にも結びついて、非常に好循環になっていきますから。
FC加盟のスケールメリットを実感
すでに家具販売事業から撤退し、2棟のホテル経営に集中している浅野社長。備品や設備においてもスケールメリットを実感している日々だ。
――FC加盟の良さを実感されているようですね。
独立系のホテルですと、相当な報酬を払って自社内にエキスパートが必要になります。しかしFC店の場合は、本部の優秀な人たちが手取り足取り教えてくれるノウハウを真面目に遂行すれば良いわけです。独立系では必要となる人件費の部分が、FCのロイヤルティーだと思えば高くありません。どんな優秀な人を雇っても常に新しい情報が入ってこなければ意味がないですから。高松店のように売上が3倍にも4倍にも伸びれば、ロイヤルティーがどうこうなんて、頭からすっ飛んでしまいますからね。
――アパホテルFCは、ロイヤルティーが売上高の4%~、それにプラス販売促進負担金が売上高の1%~だそうですね。
決して高くはないと思います。たとえば、消耗品・備品すべてにおいて購買サポートという制度がありまして。トイレットペーパーを一つ買うのにもアパホテル本体を通して購入します。しかし近所のドラッグストアで購入するよりも安く入手できるのです。本社も多少なりとも利益があるでしょうし、これがウィンウィンの関係というのかなと。
――現在、アパホテルネットワークは13万室と大規模ですからね。スケールメリットが違いますよね。
ちょうど1年ぐらい前に伊勢原店の客室を、今までのシリンダーキーからカードキーにようやく交換しましてね。これも本社を通して、大手鍵メーカーのものを入れたのですが、金額はだいたい1200万円ぐらいかかりました。その時、オフィス機器大手に勤める私の知人から「見積もりだけでも取らせてほしい」と頼まれました。もし安かったら考えてもいいのかなと相見積もりを取ってみたのです。アパホテル本社からはシステム料も込みで約1200万円、知人の会社からはシステム料別途で1800万円と出てきたわけです。やはりスケールメリットがまったく違うと実感しましたね。
――家具の会社からホテル経営者にすっかり変わってしまいましたね。
ホテル経営者だと話すと飲みに行った先で、どういうわけかモテるようになりまして。家具屋の時代には経験しなかったことですね(笑)。伊勢原店をオープンしてしばらく経った後、アパグループの元谷外志雄会長とアパホテルの元谷芙美子社長が来て下さったのです。その時に、当時グループが年間50棟建設中という内容のポスターを、大きく引き伸ばしてパネルにして、会長の横に置いておきましてね。そうしたら、会長から「今年1年間で建てている50棟だけでも、日本で6番目のチェーン店になるぐらいの規模なのだ」という説明が始まりまして。その時、「会長待ってください! 私も友達の間では“ホテル王”と呼ばれているのですから」と言ったわけですよ。そうしたら会長に、そこまで笑うか!というぐらい大爆笑されましてね。それ以降、私の呼び名は“ホテル王”になってしまいました(笑)。
(2025年 5月号掲載)
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