がんばる地主②:所有物件内での住み替え

土地活用賃貸住宅

賃貸経営において、周辺の物件との差別化を実現することは大きな課題となる。個性的な物件を作り、魅力をアピールすることで安定経営を実現している2人の地主から、そのこだわりを聞いた。

1Rから2LDKと間取りを変えて
所有物件内での住み替えを実現

峯岸昭幸オーナー(62)(埼玉県戸田市)

 JR埼京線で池袋駅から20分弱の北戸田駅。駅に降り立つと、都会とは打って変わって空が広く緑豊かな光景が広がっている。駅から12分ほど歩いた笹目地区を中心に、10物件、30棟126戸を所有するのは峯岸昭幸オーナー(埼玉県戸田市)だ。18代目地主として、およそ3000坪の土地を管理・運営する峯岸オーナーは、2015年専業家主となった。きっかけは実家に税務調査が入ったことだ。
 当時は会社員の傍ら、父親の確定申告を手伝っていた。自分自身で行っていた申告に指摘が入ってしまった。
 その経験が意識を変えた。「税に対する自分の無知が原因で、すべての土地を手放す可能性もあるのではないか」そう思い至ったのだ。
 実は、それ以前は相続税対策を積極的に考えることはなかったという。だが、改めて相続税をも意識し始めた。
 「仮に相続税を支払うために土地を売ったとして、その土地を購入するのはこの土地の人間ではないでしょう。土地活用を考える際に、『地域のために』という目線で考えられるのは地主だけだと思うのです」(峯岸オーナー)
 そこで一念発起し、土地活用の計画を開始。自身の代で四つの新築物件を竣工した。
 1棟目が16年竣工の12戸の「リバージュ」。女性が安心して暮らすことができる物件をコンセプトに、全室にセコムのホームセキュリティーを入れた。50~60㎡と広めの1LDKは、部屋によって内装のイメージを変えた。10万円前後の家賃帯で、女性単身者だけでなく小さな子どもがいる家庭の入居者に好まれているという。

▲Rivage(リバージュ):「女性が安心して暮らすことができる」がコンセプト

 続く17年竣工の「ショコラ」では、511坪の敷地を使い「賃貸物件でつくる町並み」を表現した。フランスの村をイメージした広い中庭と、四つの棟から成る物件で、棟ごとに1Rから2LDKまでそろえた。21戸はそれぞれ、吹き抜けがある、収納が充実しているなど、豊富な間取りが選べる物件のため「敷地内で住み替えができる仕組みにしました」と峯岸オーナーは話す。実際に2回、ショコラ内で住み替えをした入居者もいるほどだ。
 メディアに多く取り上げられたこともあり、空室待ちが出るほどの人気物件。上げ幅が大きい部屋で1万1千円の家賃アップが実現できているという。

▲CHOCOLAT(ショコラ):511坪に4棟の物件で町並みを形成

 「ラクール」は18年に竣工。6戸のメゾネットと1戸の戸建て賃貸では、職住近接をかなえられる間取りを用意した。13畳の土間リビングを備えることでSOHOでの貸し出しを可能にした。土間リビングのある棟はイラストレーターなど創作活動をしている入居者に選ばれている。
 峯岸オーナーが手がけた新築で最も新しいのが22年竣工の「ロマーラ」。子育て世帯をターゲットにした8戸のマンションだ。「3階建てですがエレベーターがありません。そこで、1階の階段下にベビーカー置き場を設置しました」と峯岸オーナーは話す。ロマーラ内には「子育て応援賃貸住宅」として100カ所に子育て世帯に優しい設備、仕様が仕掛けられている。
 1階は乳児、2階は幼児、3階は小学生を持つ世帯が住みやすい間取り、設備を取り入れて設計した。ショコラと同じく物件内での住み替えを検討してもらうことで、テナントリテンションを促す仕組みだ。

広いLDKが人気 無難な物件より長期入居化

 四つの物件はそれぞれ異なるターゲットを設定。所有物件内で競合しないように工夫した。だがふたを開けてみると、どの物件も若い世代のカップルが中心となった。
 「建物に対するこだわりや引っ越し意欲が圧倒的に強い世代なのではないでしょうか」と分析する峯岸オーナーだが、それでも満室経営ができている理由はLDKの個性を強調した物件づくりをしたことだという。
 当初はファミリー層向けの物件は、3LDKをメインに部屋数が多いオーソドックスな間取りにすることを検討していた。というのも、無難な間取りのほうが長期的に見たときに安定すると考えていたからだ。
 だが、賃貸住宅に入居するのはライフステージの特定の一時期である人が多数を占める中、むしろ個性的な間取りのほうが受け入れられるのではないかと考えを改めた。小さい部屋に区切るのではなく、広いLDKをつくったことで、結果的に子育て世帯ではない層にも十分訴求することができたのだ。
 新築を手掛けることは相続税対策にもなる。だが、単に税金のことだけを考えるのでは、今後の賃貸経営は成り立たなくなると考える。
 「県南にある戸田市は埼玉県の中でも人口が減少する時期がまだまだ先だという見方があります。そうはいってもいずれ人口が減っていくのは避けられません。その中で、笹目が居住地として一歩リードできるような建物を造ることを念頭に置きました」(峯岸オーナー)
 そのかいもあり、都内で暮らしていた若いカップルが住み替えのために選ぶことも多くなってきたと感じるそうだ。自身の物件が地域のファンを増やす役割を担えることは地主冥利(みょうり)に尽きるといえるだろう。

(2025年6月号掲載)
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