<<スポーツ選手のセカンドキャリアとしての不動産経営>>
華やかに見えるプロアスリートの世界。しかし、けがをしたり現役を退いたりした瞬間から収入が途絶えるというシビアな環境でもある。第二の人生を見越して不動産経営を選択した元プロ選手、そして現役選手の歩んできた道を紹介する。
モーグル
家賃収入でやりたいことをする
住宅提供とまちづくり、モーグルへの情熱
木村真之オーナー(北海道帯広市)

北海道帯広市をメインに、道内にアパート・マンションと戸建を合わせ、15棟100戸を所有する木村真之オーナー(北海道帯広市)。木造のアパートを中心に、間取りは1LDKや3LDKと単身向けからファミリー向けまでバランスよく経営している。
現在、年間家賃収入でおよそ5000万円を得ている木村オーナーが賃貸経営を開始したのは08年。きっかけは、当時勤めていた郵便局員の仕事が合わず、大病をしたことだった。
「郵便局勤め以前は、モーグル選手として北海道ニセコ町のスキー場に泊まり込みで働きながら生活していました。02年、このままでは結婚もできないと30歳を目前に奮起して就職したのですが、その無理がたたりました」と木村オーナーは話す。郵便局員の仕事が自分には合わないなら、別の収入源をと考えている中で不動産投資の本に出合い挑戦。08年に1棟目となる北海道釧路市のアパートを3300万円で購入した。利回りは13%で、返済を差し引いた手残りは月23万円だった。
賃貸経営に希望を見いだした木村オーナーは、翌09年に札幌市の新築アパートを、そして帯広市に築35年のRC造マンションを購入した。
空室率の高い物件を安く購入 リフォームして稼働率アップ
3棟目の物件の貸し出し方が、木村オーナーのその後の賃貸経営の一つの指針となった。「購入価格は3700万円。満室想定では利回り22%ですが18戸中4戸しか入居していませんでした」(木村オーナー)
そこで、まずは空室のリフォームに着手した木村オーナー。設備をすべてアップデートするというよりは、床材やクロスのはり替えを重点的に行った。一部はアクセントクロスにして目を引く工夫をしながら、家賃設定を相場より少し低い価格帯にして貸し出したところ半年で満室を実現。低家賃帯の物件を探している層のニーズを取り込み、素早く空室を埋められることを意識した最初の物件になった。
3棟の経営が軌道に乗った11年、郵便局を退職。月の手残りは局員時代の2・5倍程度、およそ60万円確保できるようになった。専業家主となってからは、年に1棟ずつ購入していった。3棟目と同様、築古で空室率が高いがゆえに安く購入できる物件を取得。一戸に付き上限を100万円に設定してリフォームを施し、内装を整えた後、低家賃帯で貸し出す。ターゲットは主にシングルマザーや生活保護受給者だ。ターゲット層が希望する家賃帯の賃貸住宅は得てして、古く汚い場合が多い。そのため、内装リフォームを施した物件であれば確実に選ばれ、なおかつ長期入居が見込めると考える。
「経営上のメリットだけではありません。入居者は『こんなすてきなところに住めるなんて』と喜んでくれます。私は私で、今まで誰も住んでいなかった物件が満室になり、人の流れができる。それによってその場所が輝く。そうした手伝いができることに手応えを感じました」と木村オーナーは話す。
- ▲フィンランド式サウナを取り入れたのは道内2件目 ▶住宅地の中にある、人気の施設になった
1000坪の温泉施設を再生 住宅以外でまちづくりに挑戦
所有戸数も100戸近くとなり、賃貸住宅事業が安定してきた中、19年に全く異なる物件を紹介された。それが「ひまわり温泉」だ。帯広市内の住宅地にある温泉施設で、1000坪の敷地に立つ2階建ての建物には露天風呂まで付いていた。売却価格は1億4000万円だった。
「私が古い物件の再生を多く手がけているため、不動産会社が紹介してきた物件でした。ですが、今まで1500万円ほどの物件が中心でしたから、桁違いの融資を引っ張ることができるとは思いませんでした」(木村オーナー)
だが、当時すでに家賃収入は3000万円前後を確保しており「家賃収入をベースに、何か別の事業を行いたい」という欲があった木村オーナーにとって「面白く変身しそうだ」という期待はあった。しかも同物件は銀行からの物件担保評価が高かった。フルローンで20年融資、金利も1・8%という木村オーナーからの条件が通り、物件を取得。再生に乗り出した。
木のテーブルセットを置き、提供するメニューも「カフェ飯」と呼ばれるスタイルに変え、イメージを一新させた。
「ケーキセットを準備し、入浴だけではなくカフェとしても楽しむことができるという形で、今まで温泉に来なかったような女性客を取り込もう」と考えた。この方向性が当たり、19年10月のオープン時は好調な滑り出しを見せた。月商が500万円を超えたころ、コロナの感染拡大が始まった。
客足は4割ほど減り、何より新しく据えた「カフェを楽しめる温泉」というコンセプトを生かせなくなった。こうなったら採算度外視で「何か面白いことをやろう」と導入したのがフィンランド式サウナだった。「熱波師」という熱い蒸気をタオルで送る独特な存在がいることに目を付けたのだ。
そこで、ひまわり温泉の支配人に人気アニメキャラクターの物まねをする熱波師を務めてもらったところ、これが常連客に大きく受けた。コロナ禍が収まって以降は、サウナ人気も追い風となって、業界内の賞も受賞。今では北海道のみならず、遠く東京や大阪からもサウナファンが駆け付けるほどの人気施設になった。観光地でもない場所に遠方から人が訪れ、それがその地区の活性化につながっていると強く実感しているという。
「これは賃貸事業の手堅い家賃収入があるからこそできた試みだと思います。所有物件数自体はこれ以上拡大させる気はありません。私にとって、家賃収入はやりたいことをやるための資金だと考えています」と話す木村オーナー。

▲今シーズンは3つの大会に出場 ©Taro Tampo
「一度は諦めたモーグルの道ですが、賃貸事業のおかげで再び選手として大会に出場が可能となりました。いかに極めることができるか。これからもモーグルは続けていきます」(木村オーナー)
(2025年8月号掲載)
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競輪選手時代から賃貸経営、引退後の支えに
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