築110年超の長屋をゲストハウスとして再生

賃貸経営リフォーム・リノベーション

<<Regeneration ~建物再生物語~>>

築110年超の長屋をゲストハウスへ
部材の再利用で残す建物のストーリー

Chabudai ちゃぶだい

 埼玉県川越市の旧市街、川越街道から細い道に入った先に、築110年を超える長屋がある。大正期に肥料問屋だったというこの建物は、この十数年間空き家になっていた。だが、今では国内外から旅人が集うゲストハウス・カフェ&バー「Chabudai(チャブダイ)」(埼玉県川越市)として生まれ変わっている。 

共同代表
(左)西村拓也氏 (埼玉県川越市)
(右)田中明裕氏

 運営会社であるチャブダイ(埼玉県川越市)の共同代表、田中明裕氏と西村拓也氏は、2016年の「まちづくりキャンプ」で出会った。そこから1年以上にわたり物件を探し、17年にこの建物と偶然出合ったという。近くの居酒屋で話しているとき、そこのオーナーが「他のお客さんの親戚の家が空いているよ」と紹介してくれた。その伝手を生かし物件を見学。現在の場所にたどり着いた。

 だが、当時の建物は大量の残置物がそのまま残る、まさに「空き家」だった。そこで、残置物の撤去や再生のための資金をオーナーは負担しないことを条件に、周辺家賃相場より少し安い賃料で建物を借り受けた。

築110年超という建物の味を最大限残しながら、ゲストハウスとして生まれ変わった

 再生については「壊すのではなく、生かす」という方針を決め、古さを「味」として残した。リノベーション費用は什器や備品を含めて約1500万円と、決して安くはなかった。既存のものをなるべく使用するための工夫を施すと、その分人手や技術を必要としコストもかかるからだ。しかし、それでも行う理由として「建物を残す事はその場所の歴史、時間、ストーリーを引き継ぐ事になり、そこには新築建て替えでは出ない魅力、価値があると考えています」と代表の2人は口をそろえる。

▲土間を生かし、入り口兼カフェの空間へ。小上がりのフローリングは元々壁面に使用されていた木材の再利用だ

 実際、既存の床の・壁・天井など、使える部分はそのまま活用した。ただ新しくするのでなく、もとの建物の雰囲気を活かす事を考え、足りない部分は他の古民家で使われていた材料を使用した。また既存の畳を断熱材として壁の中に入れたり、屋根瓦を加工して外壁のタイルとして使ったり、簡単に捨てるのではなく、建物内での循環も心掛けた。こうして、新しいけれど、どれもが「昔からここにあったような」自然さで空間になじむ建物が出来上がった。

 

 さらに、実際の工事を地域住民と一緒にDIYで行ったことも特徴だ。約7回のDIYワークショップを開催し、床張りや断熱施工、左官工事などを行い「まちと共につくる」ことで、これまでの建物のストーリーに新たな物語を書き加えていった。

 こうして地域ぐるみで新しくなったChabudai。観光客を迎え入れるだけでなく、地元に開かれた場所として連日さまざまなイベントも開催されている。その建物は、新築にはない「新しいけれど地域に根差している」場所としての空気をまとい、今でも川越で息づいている。

▲今では見ない太さの天井の梁も味として利用

(2025年 8月号掲載)

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